第32話⁂江梨子の目論見⁈⁂
本妻の親が激怒して多恵に、娘の夫を奪って自殺に追い込んだ責任を取って慰謝料請求、更には「多恵を無一文で叩き出せ!」と言って来た。
「命より大切な娘を殺した責任を取って慰謝料払え!江梨子を置いて今すぐに出ていけ!お前に渡す金は無い!裸一貫で出て行け!」
それでも…幾ら娘可愛さでも、そこまで介入出来る訳も無いと思うのだが?
だが、相手は親会社でも有った散々お世話になった親戚筋、独り立ちして大企業に急成長出来たのも、ひとえに親会社である日本有数の大山建設のお陰げ。
だから……富造も多恵の事が可哀想と思いながらも何も言えない。
親の方としては、娘を殺された復讐として多恵を追い込み、同じ苦しみを味合わせたい復讐心で鬼になってしまっているのだ。
1968年当時の3000万円は法外なもので、現在のお金に換算すると1億3000万円ぐらいになる。
多恵は一緒に暮らしていた富造と娘と無理やり引き離され、窮地に追い込まれて、どん底生活を余儀なくさせられた。
小料理屋〈むらさき〉も「お酒相手はやめてくれ」と富造に言われたのでとっくの昔に止めていた。
法律の事など何も分からない多恵は、自分の責任で本妻さんを自殺に追い込んでしまった事への申し訳なさで一杯だ。
更には御両親の要望に応えなくてはならないと思い必死に昼夜働き詰め。
そんな時に富造から何とも嬉しい連絡が届いた。
「嫁いだ娘の自殺に関して払う必要が無い。どうも法律では子供が請求する事は出来るが、嫁いだ娘の自殺に関する請求を親は出来ないらしい」との見解なのだ。
だが、そんな連絡を受けて一安心していた多恵なのだが、暫くすると……何か……いつも誰かに付け狙われている感覚がする。
苦しい生活の中、いくら『払う必要が無い』と言われても申し訳無さも手伝って、親御さんに誠意を見せる為にも、僅かばかりのお金を送り続けている優しい多恵。
だが、ある夜の仕事の帰宅時間に、誰かが近づいて来る感覚にとらわれた多恵は、勢いよく駆け出した。
すると人気のない場所に出た。
いつもここは、余程気を付けて歩いている場所だが、車も走っているので怖いながらも通勤のために通っていた。
だが、今日は何か違う気がする。
何か妙にいやらしい付け狙われ方だと感じて一目散に駆け出した。
(この雑木林の200mの距離が怖い!)
するとその時だ。
黒い影が覆いつくし多恵は竹やぶに引きずり込まれた。
「キャ————————————ッ!」
それは自殺した本妻の息子幸助だった。
「ウッフッフッフ~おばさん、よくも母を追い詰めてくれたな~!許せない!エイ!こうしてくれるわ!」
そして一気に多恵の首を絞めた。
「たっ助けて——ッ!ワッ私には江梨子がいる……まだ中学生の江梨子を1人残して……死ぬ訳には……死ぬ訳には……いかない!……おっお願い……タスケテ――!」
尚も締め付ける幸助は、とんでもない事を言って来た。
「お爺ちゃん達は慰謝料請求は出来ないが、俺はあんたから母を死に追いやった責任を取って貰い慰謝料請求できる。よくも母を追い詰め殺してくれたな——!ウッフッフ~お前を、母と同じように苦しんで!苦しんで!苦しみ抜いて貰おうじゃないか!ワッハッハー!ワッハッハー!」
「そそっそんな~!」
息子幸助には復讐の為に富造の義父母が付いていて、多恵に破格の慰謝料請求が要求されて来た。
富造も多恵をかばいたいが、今現在も大山建設は強力な取引先、大山建設社長の弟の娘が富造の浮気が原因で、自殺したともなれば下手に口出しできない。
{自分が悪いという事が分かっているので、何も出来ない}
とうとう多恵は追い込まれて、水商売に身を落として行った。
そう言えば、高校生の頃江梨子の家に、本を返しに行った時に見掛けた、身を持ちっ崩した下品な女性は、誰だったのか?
実は江梨子の母多恵だった。
あんなに清廉潔白な多恵では有ったが、お金を返すために身を落としてしまい想像を絶する惨めな状態に追いやられていた。
まだ、本妻の両親も健在だったため監視されていて、父富造も多恵と近付くことが出来ず、多恵はお金の為にお金の破格な如何わしいお店で、男の玩具にならざるを得なくなり、あの様なハスッパな女に変わり果てていたのだ。
そして…娘のいない時間帯を狙って、富蔵にお金を用立てて貰っていたお金を取りに近藤邸にやって来ていたのだ。
多恵はどうなってしまうのか?
このまま永久的に江梨子と会えなくなってしまうのか
◆▽◆
それでは、小百合と江梨子と山根に北村の関係はどうなって行くのか?
江梨子は小百合と山根が急接近して、もう恋人関係になっているらしいと北村から聞いて焦っている。
「絶対山根を小百合に渡すものか!」
そんな強い気持ちを抱いている江梨子は、先ずは山根を奪い返す手段として、今まで知り得た小百合の秘密を山根に暴露する事。
それでもあまり露骨にバラしては、自分自身の性格を疑われるので、いかにも友達を案じているふりをして、徐々に徐々にやんわり秘密を暴露して行こうと考えている。
過去の、この片田舎の祟りと恐れられたあの事件。
あの色っぽい男を惑わす連隊付中佐村上の妻初枝が、行方不明になった事件は、あの当時この界隈では、凄い噂になった。
ある日突如として祖母の家からそれも、何も持たず着の身着のまま……只、外の井戸水の付近に真っ赤に血の付いた羽織が見つかった。
その血は初枝の血らしいが、今でもあの事件は、異様な出来事として語り草になって居る。
だが、事件はそれだけに留まっていなかった。
そういえば、まるで初枝を追うように戦争で片足を負傷した、あの片足の無い田村も、ある日を境に忽然とこの片田舎に現れなくなった。
実は…巨大ス-パ-建築の為に地主である、小百合の父である和尚さんから、土地を借りる「借地契約」が結ばれて、ス-パ-が建設され始めたのだが、なんとその敷地から、人骨が見つかったのだ。
その建設に携わったのが、誰有ろう江梨子の父である近藤建設が、手掛けていたのだ。
人骨が見つかった話を、夜中にトイレに起きた時に偶然にも両親が話しているのを聞いてしまった江梨子。
その話の内容は実は…とんでもないものだった。
「オイ!多恵ス-パ-建設用地から人骨が見つかった。まさかあんな立派な和尚さん家族の中に人殺しが居るとは思えないが、どう思う?」
「そうね?……でも?………戦後に男を惑わす初枝とか言う女性が………和尚さんの説法を聞いた後、行方不明になったと……聞いたことが有るわ?だから…ひょっとして………?」
「そっそれは?……多分違うと思うけど?……それでも…どうも……片足の無い軍人さんも……行方知れずらしいんだ?……それも……西光寺の境内によく顔を出していたらしい?」
「不吉な話ね?………そして…人骨が……和尚さん所有の土地から見付かったって………怪しいわね?………でも?そんな事口走って逆鱗に触れたら台無しだから、口をつぐんでいた方が良さそうね?」
江梨子は、両親がこっそりと話していた、まだ確定した訳でも無い重要な秘密を、じわじわと山根に暴露しようと考えている。
そんな事でも言わない限り、あの魅力的な小百合から自分に振り向かせる事が出来ない。そこまで追い詰められての事なのだ。
人を殺めた犯罪者ともなれば、居場所も変え名前も変えて、逃亡者として隠れ忍んで生きて行かねばならなくなる。
そんな話を山根にすれば、仮にもそうかもしれない?と言う話でも皆逃げるだろう。
幾ら小百合を愛してるからといっても、折角北陸の雄である国立一期校、金沢大学に入学出来て人生の勝ち組になれそうだと言うのに、今までの苦労は水の泡どころか、一緒に逃亡生活を強いられる羽目になるかも知れない。
そんな女に付いて行く男など居る筈がない。
更には…この留めの言葉を吐いたら完全に山根と小百合2人はおしまいだ。
随分昔の話ではあるが、初枝が和尚さんの子供を身籠って産んだらしい。
そして初枝行方不明事件には、どうも和尚さんの妻佳代が関係していると言うもっぱらの噂だった。
だが、随分昔の話を江梨子は誰から聞いたのか?
実は…その噂は友達から聞いていた。
「和尚さんの子供を妖艶で美しい初枝という女が産んだらしいが、嫉妬した小百合のかあさんが初枝を殺したらしい」
結局、西光寺のお嬢様で、小百合ちゃんの余りにも女王様然とした態度に、反感を持つ生徒も多く、それを妬んで吹聴したのだと思うが、江梨子は転向したての時に既にその情報を聞いていた。
更には初枝が産んだ子供は山根で、小百合と山根が異母兄妹らしい。と言う噂も江梨子はある筋から情報を得ていた。
それを暴露して小百合と山根を完全に、引き裂いてやろうと目論んでいる
本当に江梨子とは恐ろしい娘だ。
だが、愛する男の為なら鬼にも蛇にもなれるのが人間。
それでも、まだハッキリ分かっていないのでは?
江梨子は、それだけ小百合に危機感を感じて、自分の心に全く余裕がないのだ。
それだけ山根に夢中なのだ。
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