第23話⁂初枝の本音と女体⁂
洋介は、ある日の帰宅途中に、誰かに付けられている感覚に囚われている
何か……小さな靴音が微かに聞こえる気がする。
また後ろを振り返ると………何か感じる………影?
するとその時何か………一瞬身体に熱い感覚を覚え………次にちくりと脇腹辺りに激しい痛みが………すると見る見る辺りに真っ赤な血が。
意識が薄れ行く感覚に襲われ、洋介はその場に倒れた。
実は…やはり、あの木村大佐が洋介の脇腹を刺したのだった。
一番輝かしい20代中盤に次官にお手付きにされ、嫉妬深い岩田次官の為に、当時付き合っていた彼女とも別れる羽目になった。
(それもこれも有望出世株の筆頭である岩田についてさえ行けば、出世に有り付けると思い全てを犠牲にして来たのに、今までの辛抱は何だったんだ。一回りも年の離れた中年に身も心も捧げて来たのに、今捨てられたら今までの努力が水の泡)
要はもう魅力も半減して来た木村に飽きて、若い綺麗な男洋介目移りしてしまったのだ。
幾ら追いかけたところで、気持ちの離れてしまった今では手の打ちようがない。
こうして目障りな洋介を闇に葬ろうと考えた木村は、たまたま飲み会の帰りの深夜、人通りの少ない運河沿いを歩いていた洋介の跡を付けて、右わき腹を刺して逃げた。
だが、暫くすると若いカップルが通りかかり命拾いをした。
と言ってもあの時代中流以上の、上流階級の裕福な家庭のお嬢様達が男子学生達とグル-プで出歩く事は、たまには有ったかもしれないが、若いカップルがデートする事等余りなかった。
有ったとしてもお忍びでという事になる。
こうして助かった洋介ではあるが、時代は戦闘モード一色の時代に突入。
そんな男色だの性愛だの悠長な事を言っていられない、血で血を洗う恐ろしい戦争に突入していった。
第二次世界大戦では無線通信と空母を用いた機動戦の結果、戦線が拡大して、無線は電信と違い敵に傍受されるため、暗号による作戦伝達や、その解読による戦果がもたらされた。
兵器は、最新の発達した航空機や戦車、潜水艦などに加え、レーダーやジェット機、長距離ロケットなどの新兵器、さらに原子爆弾という大量破壊兵器が使われた。
この戦争では主に航空機の進化にともない戦場との区別がなくなり、民間人が住む都市への大規模な爆撃や人類史上初の原子爆弾投下により、多くの民間人や捕虜が命を失った。
◆▽◆
初枝は戦闘が激しくなる一方の、1943年東京から魚津の祖母の元に疎開した。
夫洋介と仮面夫婦の初枝は、こんなつもりではなかったと思う悔しい気持ちの反面、そこには何か原因があるのかも知れない?
そう思い夫を観察し始めた。
そんなある日、洋介の父建造の部下でも有り、洋介の男色岩田次官が、戦闘悪化に伴い、何か……打開策ないものかと、武闘派で知られる父建造に伝授して貰えないものかと、切羽詰まり訪ねて来た事が有った。
それは、それは、真剣そのもので、その危機感はヒシヒシと伝わってきた。
武力では到底手におえない、また最新兵器も多く確保しているアメリカ、イギリスに到底勝ち目があるとは思えない日本側は、どんな公算が有って突き進んだのか?
賢い次官はもう既に敗戦国になる事を、悟っていたのかも知れない。
応接間で真剣そのものの話し合いが持たれ、やがて岩田次官は邸宅を後にした。
そして…別宅の洋介の家にも訪ねて来た。
伯爵家の豪邸村上家は敷地が非常に広く、洋介と初枝は同じ敷地内のこじんまりとした別宅に住んでいた。
岩田次官が訪問された日は、それはそれは緊張して本宅で今か今かとお見えになるのを、待ち構えていた洋介と初枝だった。
やがて洋介の別宅にやって来た岩田次官だったが、洋介が舶来の珍しい葉巻やウイスキーの話をすると興味津々で洋介の部屋がある2階に消えた。
初枝は暫くして、お茶でも出そうと2階の洋介の部屋に上がった。
”トントン”ドアをノックして部屋に入ると、何か……?手をつないでいた様な、咄嗟にス——ッと手を離した気がした。
敏感になり過ぎているので、なんでも悪い方向に考えてしまうのだろうと、その時は心の奥に閉まっていた。
それでも今までだって、休日だと言うのに仕事で家を頻繫に留守にする始末。
まさか……女でもいるのかも知れない?
そう思い、とうとう我慢が出来なくなった初枝は跡を付けて見た。
すると「三宅坂」にある職場に入っていった。
もうこれ以上勝手に入って行く事も出来ないので、家路についた初枝だが{これで一安心}そう思うのだった。
まさか……男同士の性愛など考え付きもしない時代の事だ。
だが、事態が深刻化する中、戦争悪化に伴いほとんど家に帰って来ない。
「部屋には舶来品の貴重品が一杯あるから、掃除はしなくて良い」
そう言われていたので掃除は一切していなかったが、もう東京も危険で魚津に疎開する前日に、大掃除をする事にした。
{いつ帰って来れるか分からない現状化、これは大変な事、掃除をして置かないと⁈}
掃除を始めると、一か所だけどうしても開かない戸棚が有った。
「どうして開かないのかしら?」
こうなって来ると尚更開けたくなるのが人間の心情。
必死になって鍵を探し出した。
すると食器棚の、あの当時では珍しいバカラのグラスの後ろに、隠れるようにある、灰皿の中に無造作に幾つかの鍵らしきものが目に入った。
1つづつ試してみると「開いた————ッ!」
扉を開けて中を覗くと、江戸期以降の「衆道」「若衆道」と呼ばれる武士同士の男色図鑑や、絵師によって描かれた生々しい、売春を職業とする美少年たちの「陰間」の卑猥な絵の数々がパラパラと落ちてきた。
昔は歌舞伎役者である、お山を目指す少年による売春が行われており、男性に抱かれる事で女性らしさを学ぶことが出来る修業の場として売春は行われていた。
更には、あの岩田次官と2人だけの写真が奥のケースの中から発見された。
これは日本ではない………中国?………更には決定的な写真が見つかった。
洋介は何とも我慢できないこんな恥ずかしい姿を撮られるなんて、本当に嫌そうな顔をしているが、岩田次官が若い美しい洋介の事が片時も忘れられないらしく、中国の写真家に極秘で無理矢理撮らせた。
本番写真……何と裸の洋介のお○に挿入している写真が、1枚だけ見付かった。
それも欲望で支配された、卑しい獣の目付きをした岩田次官の、いつもの凛々しい姿とは打って変わって、只の獣と化した卑しい男の姿が映し出されていた
余りの事でビックリを通り越して、発狂寸前の初枝。
◆▽◆
全てを知ってしまった初枝は、これはどうにもならないと諦めては見たが、いい案を思い付いた。
とんでもない趣味嗜好に目覚めてしまった夫の目を覚まさせるには、私に少しでも気持ちがあるのであれば必ず振り向いてくれる筈。
かなりの荒療治を思い付く。
自分に振り向かせる為に、まだ独身の三ツ矢先輩を誘惑して、それを洋介に見せつける事。
こんな戦況悪化の時期に、何もそんなに慌てなくてもと思うかもしれないが、放って置いたら益々ドツボにハマり抜け出せなくなると思って、一刻の猶予も無いと踏んだ初枝は、こんな時期と分かりながらも三ツ矢邸に向かった。
魚津に疎開するのを遅らせて、以前洋介と行った事のある三ツ矢邸に向かった。
三ツ矢先輩の御両親は関東大震災で亡くなっていたが、あいにく家は被害が少なかったらしい。
大きな屋敷に1人で住んでいる三ツ矢なのだが、そんな男一人の部屋に向かう等、危険極まりない。
そこで初枝は三ツ矢邸に着くなり、唐突にこんな言葉を吐いた。
「三ツ矢さん………こんな事を言ったら……何て、はしたない女性と思われるかも知れませんが………夫の洋介は、不感症でセックスをしても感じることが出来ないのです………それで………お願いがあります………それで………それで………私とセックスをして………その交わりを………写真に納めて………それを夫に渡して欲しいのです……そうすれば………ひょっとして嫉妬で興奮して…不感症が治り……私を抱いてくれるかもしれません」
何故正直に夫洋介が、男色だという事を言わなかったのか?
そんな事を言ったら、岩田次官との男色の話も話さなくてはならなくなるし、夫が野心家であることも重々理解している初枝は、夫の出世を何より最優先に考えている。
ともかく、これ以上男色にハマって欲しくない。それを恐れての身体を張った荒療治なのだ。
「そっそんな事を言ってもだな?………大切な友達の………奥さんを抱くなど………とても出来ない……」
「いいのよ~いいの………抱いて………抱いて下さい.。*・゚゚💋」
着物を脱ぎ捨てやがて………長襦袢姿に………更に紐をほどき………美しい乳房が‥‥女体が露わに………
「アア~奥さんは:*:・'°☆何とも美しい………嗚呼我慢が出来ない……嗚呼なんて魅力的なんだ…オオオ💛」
「いいのですよ~。*・゚゚アッアッ・゚・。あああああ💋~~もっと……もっと~💛嗚呼~」
あくまでも初枝はこんな三ツ矢に抱かれながらも、洋介のような苦み走ったシャ-プな魅力がある訳でも無い、冴えない三ツ矢に冷めて居ながらも欲望の渦に飲み込まれている。
「放って置いたら私は……友達三ツ矢の女になってしまうわよ?」
夫洋介を心配させて、嫉妬させて、取り戻したいそんな強い気持ちがある一方で、この快楽にいつまでも溺れて居たい、何とも淫乱な、娼婦にも劣る女に成り下がろうとしている初枝なのだ。
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