長い帰路
今までで一番長く感じた帰り道だったかも知れない。
何かに気づいた桜はふらふらした足取りのまま、そっと近くにある壊れた
息を荒げた
静寂と闇に包まれた桜の家も異妙な雰囲気を
──ようやく、辿り着いた。
顔を歪ませながらその場で
1秒1秒がとても長かった。ここへ来る間にも何度も絆のことが頭に
いつの間にか額に大量の汗が浮かんでおり、それを
依然として息は荒れたままであったが、桜はゆっくりと
窓越しだがあれは恐らく奥にあるリビングの電灯だ。玄関が暗いままであったため来た瞬間、電気が付いているとは気づかなかったが……間違いない。
絆が先に家に帰っていたのだ。
桜の身体がどっと
脚も重しがのしかかったかのように動きが鈍くなる。それでも、桜は脚を引きずりながら玄関を開け「絆!」と声を上げた。
玄関を踏み込んでも、返ってくるのは反響された自分の声のみであった。奥の部屋で小さな明かりはついているものの、廊下まで光は届いておらず足元が見えない。
──返事がない……?
桜は
「絆!! いるのか!?」
今度は部屋までしっかり届くぐらいの音量は出したつもりだ。ただ、喉も
暫しの沈黙…… そして沈黙に混えて小さな物音が微かに聞こえてくる。
そして、キッチン部屋の方から
「──お姉ちゃん……?」
「絆!?」
桜の姿を見るや否や、部屋から顔を出す絆は「はっ」と目を見開き、慌てながら駆け寄って来る。その表情は本当に姉かどうか不安だったのか、真っ青な顔色であった。
「お、お姉ちゃん!? 無事だった!?」
「ああ、なんとか……」
そっと絆を抱き止める。だが絆の声は震えており、格好も着替える余裕が無かったのか制服姿のままであった。それに「無事だった」と確認されているあたり絆も知っているのだろう。明らかに桜のことを心配して待っていたかのようにも伺えた。
「よ、よかった……」
目の前にいる人間が桜であると確信した途端、するりと腕から落ちそうな程に力が抜けてゆく絆。それを支えるように桜は咄嗟に背中へと手をまわした。
桜も抱きしめながら本物の絆を、暖かい絆の感触をそっと噛み締めてゆく。
そして初めて取り
「絆も襲われたのか? 『奴ら』に」
「襲われた……? あ、あたしは知らないよそんなの……」
そっと桜から離れ、絆は一呼吸置き目を伏せながら「ただ……」と続けた。
「帰り道、変に
溜まりに溜まった感情を吐き出すかのように言葉を走らせる絆。だが、途中追いつかなくなったのかつっかえてしまい、勢いよく咳き込んでしまった。桜は優しく絆の瞳を見つめながら手を握り、問い直す。
「死体が?」
「う、うん……だから何かがおかしいと思って怖くなってすぐ帰ってきたの」
詰まらせながらもなんとか言葉を
聞けば絆はそれ以上詮索せず、場を察してそのまま直帰して来たようだ。ただ、家にいる間は不安で着替えることも、逃げることも出来ず、ずっと一人で桜を待ち続けていたと言うのだ。
「そうか……」
手を握り、静かに絆の言葉へ耳を傾ける。
非日常的な光景を何度も目にしてしまい、絆はかなり気が動転しているようにも伺えた。死体とかもあれば無理もない。桜自身も、絆と殆ど似たような感情を抱いていたが表には見せず、絆の言葉を黙って受け止めていた。
ひとしきり話し終えると絆は胸に手を当てながら息を整える仕草を見せ、桜へ「お姉ちゃんは?」と問いかけた。
「お姉ちゃんは、何かあったの!? さっき『襲われた』って言っていたけれど」
「あ、あぁ……」
目を逸らす。どこから話せばいいのか、どうやって話せば絆を不安にさせないかが先行してしまい、
自分の身に降りかかった出来事を全て話せば、それこそ絆が怖がってしまうかもしれない。その場凌ぎでも一旦曖昧にしておこうかと心配気な絆の視線を浴び続ける桜は思考する。
だが、絆も今の姉の姿を見て何も感じない程察しは悪くなかった。
妹を心配させないようにと見せるためか、荒れている呼吸を我慢してゆっくりと肩を揺らしている桜のパフォーマンス行為ですら絆にはお見通しであった。
むしろこんな状態で帰ってきたのにも関わらず、一緒に暮らしている妹を誤魔化せるのかと感じ、絆ははぐらかす姉に向かい問い詰める。
「お姉ちゃん! 一体何が起きているの!? この北城村に一体何が……!?」
「それは……」
全てを見透かしたような絆の眼差し。今の絆の前では嘘はつけないと悟り、桜は一呼吸置いた。絆は本当に自分を
「一旦部屋に戻ろう、そこで話す」
暗い玄関では長話するには不適だと察し、桜は静かな口調で絆をリビングまで促す。絆も黙って頷き桜の後に続いていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます