第8話 デートじゃないって!



「はぁ、おいしかった~。ごちそうさまでした。次ってデザート行くんでしたっけ?」


「んー、そのつもりだったけど腹がいっぱい過ぎて俺が入らないから腹を空かせに行こうかなと思ってる。」


「なるほど、じゃあ、今度は私が行きたいところ行っても良いですか?」


「助かる。」


「任せて下さい!ここからすぐのところにあるので!行きますよ、先輩!」


「わかったから引っ張るなって。」



東藤は意気揚々と俺の手を握って歩く。


いや、なんで手を握る必要があるんだ。

妹としか手をつないだことないんだが。

つか手汗やばくなるから離して…。



「こうやって手をつないでるとカップルに見えちゃったりしますかね?」


「どうだろな。」


「もー、なんでそんなに興味なさそうな事言うんですかー!!私とカップルに見えてもいいってことですかー!」


「んー、どう頑張っても兄妹だと思うぞ?」


「先輩のばかーーーー!!」


「は?バカって言われるようなことしてないけど。」


「わからないなら一生バカです。」


「はいはい。」


「はいは一回ですー。」



ふてくされながらも手は放してもらえない。


東藤は俺らをカップルに見せたいのか?


子供…は失礼だから妹に手を引かれてる兄の姿にしか見えないと思うんだけどな。

てかどこに行くんだ?

直ぐって言ってたけど結構歩いてる気がするんだが。



「いつまで歩くんだ?」


「あとちょっとです。ほら、あそこの建物です。」


「あそこはなんの建物なんだ?」


「着いてからのお楽しみです!」


「じゃあ楽しみにしとく。」


「はい!!」




それからもうしばらく歩くと、ちょっと現代チックな建物が見えてきた。

さすがの俺でもこの建物はというか看板は知ってる。

アートを体で体験できるっていうやつだった気がするけど、これってカップル御用達のスポットじゃなかったか?



楽しみにしとくとは言ったけど、こんなカップルばっかりの場所に連れて来られるとは…。

こういうところに慣れてないんだけど大丈夫か俺



「着きましたよ?」


「あぁ。」


「あんまり乗り気じゃないです?」


「いや、来てみたいとは思ってた。」


「よかった~。先輩はもしかしたらこういうところは好きじゃないかもって思ってたので。」


「中のギミックは惹かれるものがあるからな。」


「ふふっ、じゃあチケット買いましょ!!」



はぁ、あんなにはしゃいでる東藤を見てあんまり乗り気じゃないとか言えないだろ。

しかも理由がカップルが多いからとか、な。



それぞれでチケットを買って中に入る。

チケット代を出そうをしたら『私が行きたいって言った場所なので、自分で出します!』って言ってきかなかったし、俺の分まで買おうとしてたから結局ばらばらで買うことで落ち着いた。


そう言うところは譲らないよな。





中に入ってみると、プロジェクションマッピングって言うだけあって、映像とギミックが嚙み合ってすごくきれいだったしマジで楽しい。

これはカップルで来たくなるのもわからなくはない。



「先輩楽しんでます?」


「まぁな。東藤は?」


「すっごく楽しいです!」


「よかったな。」


「はい!先輩と来れてよかったです!」


「それはよかったな。」


「もー、素っ気ないです。」


「ほら、次行くぞ。」


「はーい。」



次のエリアは、全面鏡張りで方向感覚がどうにかなりそうな部屋だった。

光が上から垂れるような、なんというか星が降ってきてるような…エリアだった。

自分で言ってて恥ずかしい…。



「先輩!ここ、写真撮ってください!!」


「俺、写真とか下手だぞ?」


「自分じゃ撮れないんですもん。」


「わかったよ。ほら撮るぞ―」



あー、ここのエリアは早く抜けないとダメだな。

全面鏡だったのを忘れてた。

全面ってことは床も鏡…つまりはそういうことだ。

ギリギリ大丈夫だが、そのギリギリなのがアウトだな。

おし、ちゃちゃと撮って次に行くか。

俺もさすがに気づいてしまったからには罪悪感がある。



「ほら、これでどうだ?」


「わぁ!意外と写真のセンスいいんですね。ありがとうございます!」


「それはよかった。ほら、もういいだろ次行くぞ。」


「もうちょっと写真撮りたいです。」


「俺が飽きた。」


「えー…ツーショ撮りたいです…。」


「ここじゃ鏡に反射して周りの人間も映るだろ。次のエリアでよくないか?」



頼む、ここでダダはこねないでほしい。

映えを意識してるなら、と思って言ってみたがダメか…?



「確かに、ここじゃ他の人が鏡に映って2人で映らないですね。」


「だろ?だから次行かないか?」


「もー、先輩が言うならしょうがないですねー。次のエリアで絶対に撮ってくださいね!」


「わかったわかった。」



その後のエリアで約束通りツーショを撮り、ご満悦な東藤との鑑賞は無事に終えた。

施設を出ると、意外といい時間になっていた。


デザートを今から食べに行くと恐らく夕飯が入らなくなる。

まぁ、別に食べなくてもいいかな。

俺的にはデザートがメインだったけど、さすがに夕飯が入らなくなるのはまずいよな。



「そろそろいい時間だし、帰るか?」


「え、デザートはどうするんですか?」


「さすがにこの時間から食べるのはまずくないだろ。」


「それは、そう、ですけど…。先輩はデザート食べたかったんじゃないですか?」


「確かに食べたかったけど、違う日に来ればいいし。」


「私が肉がいいって言ったから…。」



俺は楽しかったって気持ちで出かけるのを終わらせたい派なんだよ!!

そんなしんみりされたら楽しかったことが薄れるだろうが!!


これも、俺が流されてるのか…?

まぁ、もういいや。



「わかったよ、今度また一緒に行けばいいだろ。」


「え?」


「不満か?」


「いや…そんな事、ないです!でも、いいんですか?」


「何が?」


「私と出かける約束しても、いいんですか?」


「むしろダメなのか?」


「ダメじゃないです。もう、なんなんですか、先輩は私を泣かせたいんですか!?」


「むしろどこに泣くところがあったんだ!?」


「先輩のばかー。」



意味わかんないんだが。


『私と出かける約束してもいいのか』なんて今更だろ。

東藤がなぜか泣きそうだったが、その後にこにこしながらまた連絡するとか言って解散した。





家に帰って自分の部屋でふと思った。

なんとなく東藤の思い通りになってしまっている気がするけど、俺も嫌じゃないしいいのかなって言う気持ちと、いやいや流されてるんだからダメだろちゃんとしろよっていう気持ちがケンカしてる…。



ピロン


『今日はありがとうございました!すっごく楽しかったです!次のバイトのシフトが被った日にまたお菓子作っていきます!おやすみなさい。』




そうじゃん、今日出かけたのって東藤が俺が好きそうな菓子作るためって言って予定立てたのか。半ば強引だったけど。


東藤が何考えてるかわかんないし、マジで俺にどうしろっていうんだよ!!









-つづく-



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