8-5

 いよいよ、試験の日が近づいてきていた。掛川先生が声を掛けてくれて


「いいかー 普段通りやれば、受かるんだからな 難しいと感じたら、後回しにするのが、鉄則だぞ」


 そーなんだけど、普段通りなんて、いざとなったら、出来るかどうかわからないよー。日が迫ってくるにつれて、だんだん落ち着かなくなっていた。茜姉さんからも十和姉ちゃんからも、そしてあの覚からもラインで励ましの言葉が来ていたけれど、余計に、プレッシャーに感じていた。


 充君と会っても言葉少なに、頑張ろうねとぐらいしか言えなかったんだけど、私は、絶対に一緒に合格するんだと、自分に言い聞かせて、そのことだけが頼りだった。


「ねぇ お母さん 試験の日 制服じゃぁなくて、お父さんのお下がりのズボンにしようと思うんやけど・・」


「どうして? みんな、普通、制服じゃぁない?」


「うーん 冷えると落ち着けないやろー スカートじゃぁ 膝が寒いかも」


「だからー あんなに短くしちゃうからでしょ でも、あなたがそれでいいんだったら、いいんじゃぁない」


「ウン お父さんも一緒だと心強いかもネ」


「お父さんなんて 力にも何にもなんないわよ それより サダちゃんは、お母さんの娘なんだから、度胸はあるから 大丈夫よ 頑張ってね」


 そして、前の夜は定番のトンカツにしてくれていた。


「お母さん 今まで 色々と我儘でごめんネ 明日は 精一杯頑張るから」


「なによー 変な言い方しないでー なんか 最後の日みたいじゃぁない サダちゃん あなたは本当に頑張ってきたわ きっと 大丈夫よ 落ち着いてネ 今日は、ちゃんと寝るのよ」


 私は、気が荒ぶっていて寝付けなかった。だけど、お揃いのお守りとラグビーボールのホルダーを握り締めたまま眠りについていた。


 次の日の朝、充君と試験会場に向かったんだけど、私は眼が腫れぼったくて玄関を出る時も、ドァにぶつかってしまって嫌ーな感じがしていたのだ。

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