第187話 マッサージ中は部屋の外にも注意
時は遡り、リックが自室に戻ってから数分が経った頃。
アルコールで顔を赤くした二人の少女が、早歩きで廊下を歩いていた。
「ちょっとサーシャ、どこへ行くつもり?」
「あなたに言う必要はありません。エミリアこそどこへ向かっているのですか?」
「それこそ言う必要がないわ」
相変わらず二人はギスギスした様子であった。だがそれは互いの狙いがわかっているからなのかもしれない。
「早く寝た方がいいですよ? あなたの綺麗な肌が荒れてしまうのは忍びないです」
「サーシャこそ目の下のクマがすごいわよ。領主代行の仕事で疲れているでしょ? 早く休んだ方がいいわ」
しかしここに来て二人は、お互いを心配するような言葉をかけ始める。
「心配して頂きありがとうございます。でも大丈夫ですよ」
「私も今日はたくさん寝るつもりだから気にしないで」
二人とも笑顔だが目が笑っていない。心の中では別のことを考えているのがまるわかりだった。
「それよりサーシャ、その服は何なの?」
「エミリアは足が冷えてしまいますよ。いつものネグリジェに着替えたらどうですか?」
サーシャは白く大理石のように美しい足を惜しみ無く出し、薄黄色のショートパンツを履いていた。
そしてエミリアは白いシルクのネグリジェを着ていたが、丈が膝くらいしかない。
「あなた、昨日までは普通のパジャマを着ていたわよね? 今日はどうしてショートパンツなの?」
「エミリアこそ昨日着ていたネグリジェの丈は、足首くらいまでありましたよね? 何故今日は膝までしかないのか教えて下さい」
「さ、最近暑くなってきたから少し涼しいネグリジェに変えただけよ」
「私は今まで着ていたパジャマを汚してしまって⋯⋯新しい物に替えただけです」
二人は互いに相手が嘘をついていることを理解している。
新しい寝巻きを着ているのはもちろんリックにみせるためだ。
だがエミリアはプライドが許さなくて、サーシャは恥ずかしくて本当のことを言えないでいた。
「サーシャ、早く自分の部屋に戻りなさい」
「エミリアこそ
サーシャは背筋を伸ばし、自分の胸を強調する。
その言葉と行動でエミリアはサーシャが何を言いたいのか理解した。
「な、何よ! 胸部に脂肪の塊があるからって偉そうに! 今の時代は小さい方が需要があるのよ!」
「あら? 私は一言も胸の話はしてないわよ。やっぱりエミリアは小さいって自覚があったようね」
「この!」
そして二人はリックの部屋の前に到着する。
「サーシャ、後で覚えていなさいよ」
「わかりました。エミリアが胸が小さいのを気にしていることを覚えておきます」
「それは忘れなさい! 私をからかうとは良い度胸ね。もう許せないわ!」
エミリアは怒りのあまりサーシャに掴みかかろうとする。
「どう? どう? 気持ちいい?」
「き、気持ちいいです」
だがこの時、部屋の中の声が聞こえ、エミリアの動きが止まる。
「ちょ、ちょっと⋯⋯今のは⋯⋯」
「リック様とノノさんの声!?」
エミリアとサーシャは二人の声を耳にして息を潜める。
「部屋の中で何をしているのよ」
「声だけ聞くと如何わしいことをしてるような⋯⋯」
「そ、そんなことはないわ! けどリックは小さな胸が好きだからありえない話じゃないわね」
「勝手にリック様の性癖を決めないで下さい。それより本当にリック様はノノさんに手を出しているのですか?」
二人は中の様子を窺うため、ドアに耳をつけた。
「だ、大丈夫だよ。もう疲れたなら終わりでいいよ」
「ううん。ノノまだがんばるよ」
そして部屋の中の声を聞いて、二人は顔を見合わせる。
「や、やっぱりやらしいことをしてたのよ!」
「ノノさんが積極的です」
「まさか私よりノノの方が先に大人の階段を昇るとは思わなかったわ」
エミリアとサーシャは部屋の中の声を聞いて絶望し、その場に崩れ落ちる。だがそれは一瞬のことで、すぐにふつふつと怒りが沸いてきた。
「お兄ちゃんもっと強くした方がいい?」
「ああ⋯⋯頼むよ」
「わかった。これがノノの愛情パワーだよ」
「すごく気持ちいいよ⋯⋯もっとお願い」
リックは二人の怒りを知らず、部屋の中でさらに誤解を招くような声を出してしまう。
「私以外のやつと⋯⋯許せないわ」
「それに妹に手を出すなんて⋯⋯リック様のことを見損ないました」
エミリアは怒りで拳を握り、サーシャはどこから出したのか短剣を手にする。
そして普段仲が悪い二人だが、この時だけは息を合わせたかのように力強くドアを開くのだった。
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【読者の皆様へ】
昨日より新しく【異世界を裏から支配する~表舞台は信頼できる仲間に任せて俺は陰で暗躍する~】を投稿しております。内容はタイトル通りで、主人公がある方法でヒロインの力を解放できるものになっています。狙って追放~共々読んで頂けると幸いです。
フォロー、評価をもらえるとすごく嬉しいです。
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