第142話 悪夢を見せるもの
ノノちゃんは眠りについたが額に汗を浮かべうなされているように見える。
どうする? これは起こすべきか? それとも一応睡眠は取れているからこのまま眠らせるべきなのか?
俺は迷った末に気休めかもしれないけど少しでもノノちゃんが悪夢から逃れられるならと思い、祈るような気持ちでノノちゃんの手を握るのであった。
???side
ここは暗闇に閉ざされた世界だった。暗闇といっても日が沈み光がなくなったわけではなく、その太陽の輝きさえも飲み込む程の闇が広がっている。例えるなら女神アルテナが住む白い世界とは真逆の場所だった。
そして闇よりも深い暗闇が徐々に集まってくると女性のようなシルエットが浮かび上がる。
「今日もまた楽しい楽しい夢の時間が来たわね」
女性はまるでこれからピクニックに行くかのように声を弾ませると目の前に立体画像が現れ、そしてその画像に映っているのはうなされて眠っているノノだった。
「あなたの本質はそんな良い子ちゃんじゃないでしょ?
女性が負の言葉を口にするとノノは額に汗を浮かべうなされ始める。
「下界にあまり干渉できないのも考えものね。でもあなたはせっかく転生させたのだから私の目的のためにしっかりと働いてもらわないと」
女性はまるで自分が女神だと言わんばかりの振る舞いをしていた。
「それにしてもいつになったら思い出してくれるのかしら? 脳に障害が出て使い物にならなくなるかもしれないけどもう少し過去の記憶を思い出してもらいましょうか」
女性はノノが映っている立体画像に向かって左手をかざす。するとノノは唸り声を上げ、より一層苦しみ始めた。
「ふふ⋯⋯どこまで持つのか楽しみだわ」
女性は実験動物を見るような目でノノに視線を送り妖艶な笑みを浮かべる。
だがその笑みはすぐに崩れさることになるのだった。
リックside
俺は唸り声を上げ始めたノノちゃんの手を握る。
すると何か静電気のようなものを一瞬感じたが、俺は構わずそのまま手を握り続けた。
すると俺の願いが通じたのか、ノノちゃんの表情が安らかなものになっていき呼吸も安定してくる。
「良かった。悪夢を見なくなったのかな?」
俺がノノちゃんの手を握っていたおかげだなんて言うつもりはないけどもしこの手を離してまた悪夢を見るようになったらと思うと動けないな。
それにしても何故ノノちゃんはこんなに悪い夢を見るようになったのだろうか。
俺は念のために鑑定を使ってノノちゃんのステータスを視てみるが特に変化はない。
ノノちゃんの悪夢がこれからも続くようなら何か手を打たないとな。妹を助けるのは兄の役目だしね。
俺はノノちゃんの穏やかな寝顔を見ながらそう心に誓うのであった。
ノノちゃんが悪夢を見るようになって10日程経った。その間はなるべくノノちゃんにストレスを与えないよう気をつけ、悪夢の原因を探ったが結局何もわからなかった。
そして眩しい朝日が心地よい暖かさを醸し出す頃。俺は
「寝る時に掛け布団が1枚いらなくなったな」
その理由は簡単。眠る際に俺を温める暖房器具が1つ増えたからだ。
俺は顔を横に向けるとすやすやと安らかに眠る可愛らしい天使がいた。天使もといノノちゃんが俺に抱きついているため、昨夜は心地よく眠ることが⋯⋯出来なかった。
それはそうだろ! 女の子に抱きつかれて眠れるなんて賢者タイムに入っている時くらいだ。
そのため今日も俺が寝たのは朝方だった。正直な話朝日が眩し過ぎて辛い。
だけどノノちゃんが悪夢に悩まされるくらいならこれくらい何でもない。
この10日間でわかったことだが、どうやらノノちゃんは俺と触れている時は悪夢を見ないということがわかったので、対処法がわかってからは一緒に寝るようになったという訳だ。
「おはようお兄ちゃん」
どうやらノノちゃんが起きたようで俺に向かって眩しい笑顔を見せてくれる。
「おはようノノちゃん。よく眠れた?」
「うん。お兄ちゃんが一緒にいてくれるから」
「それは良かった」
つい先日までは目の下にクマを作っていたノノちゃんだけど今はその面影はまるで見られない。
「お兄ちゃんはよく眠れた?」
「あまり眠れなかったかな」
たぶん俺の目の下にはクマが出来ているだろう。だからここは嘘をつかず正直に話す。
「ごめんなさい。ノノのために⋯⋯」
ノノちゃんは自分の睡眠のために俺が犠牲になっていると思いシュンとなってしまう。
「いや、俺も悪いことばかりじゃないというか⋯⋯可愛い女の子と一緒に寝れて役得というか何というか⋯⋯」
俺は何を口走っているだ! そんなことを言われたらノノちゃんが警戒してしまうだろうが! だけどシュンとなっているノノちゃんを見ておもわず本音が出てしまった。
「女の子? お、お兄ちゃんはノノのことを女の子として見ているんだ⋯⋯ふふ」
あれ? ノノちゃんは女の子発言した俺のことを蔑むような目で見てこないぞ。むしろ嬉しそうに見える。
「お兄ちゃん私⋯⋯」
ノノちゃんは何かを言葉にしようとしていたがこの時突如侵入者が現れる。
「リック!」
荒々しく部屋へ突入してきたのはテッドだった。
「おいおい、ノックぐらいしてくれ」
「そんなことよりやべえぞ! イチャコラしてる場合じゃねえ!」
「イチャコラってそんな⋯⋯」
ノノちゃんは何故か顔を赤らめているが、テッドの様子を見ていると今は気にしている場合じゃなさそうだ。
「何かあったのか?」
「ま、街の南から魔物の大群が攻めてきやがった!」
こうして突然部屋に乱入してきたテッドの言葉により、ズーリエの街がこれまでにない未曾有の危機が迫っていることを俺は知るのであった。
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