第134話 ズーリエへの帰還

 朝日が照らす中、俺達はタージェリアからズーリエに向かって歩いていた。


「そういえばふと思ったんだけどよ」


 先頭を歩くテッドが後ろにいる俺達の方を向いて話し始める。


「魔族って言っても俺達とあまり変わらねえな」


 確かにテッドの言う通り、リリナディアの容姿は人間とほぼ変わらない。


「そうですね。リリナディアさんは凄く可愛らしいですし」

「魔物とか呼び寄せることができるのか?」


 テッドは疑問に思っていたことを口にする。俺も魔族についてはお伽噺の中の話だと思っていたからほとんど知らない。

 俺はテッドの問いに対してリリナディアが何て答えるのか興味があり視線を向ける。しかしリリナディアはいつものようにルナさんの後ろに隠れてしまった。


「テッドさんのことが怖いみたいです」

「うるせえ! リック!」

「ひぃっ!」


 テッドが叫んだことでリリナディアは悲鳴をあげ、ルナさんの背中に抱きつく。


「大きな声を出さないで下さいよ。リリナディアに嫌われてしまいますよ」

「おっと、すまねえ」


 テッドは自分でも大声を出しすぎたと思っていたのか反省しているようだ。

 ここで素直に謝れるところは好感が持てる。


「魔族と魔物は全くの別物ですって言っていますね」


 そしてリリナディアが小声でルナさんに何かを言うとルナさんが代わりに答えていた。


「魔族が強さを見せて魔物を従わせることがあったかもしれないけど私が産まれてからはそんなことはしていません」

「へえ~そうなのか。それじゃあ魔族も人間もあんまり変わんねえってことか。どうして仲良く出来なかったんだろうな」

「それは⋯⋯人族が私達の領地に攻めてきたからだと聞いています」

「人族が魔王の領地に!? 俺達が聞いている話と全く逆だ」


 確か世間一般では魔族が人間を滅ぼし世界征服をするために攻めこんできたということになっているはずだ。


「魔族が持つアイテムを奪いに来たのが始まりです」

「なるほどな。そんなことされちゃ仲良くなんてできねえよな」


 テッドの言葉に俺達は目を見開いてしまう。


「テ、テッドさんは私の言葉を信じてくれるの?」


 リリナディアはルナさんの背中に隠れるのをやめて自分の口で話し始める。


「リリナディアが嘘を言ってねえことくらいわかるよ。まあリリナディアに嘘を教えていたらわからねえけどな。それにリックやルナ代表はわかると思うけど人間の権力を持っている者はろくでもないことをしている奴が多いから歴史をねじ曲げるくらいやりかねないだろ」


 テッドの言うとおりだ。特に貴族達を見ていると自分達の悪事を隠すために魔族を悪者にすることくらい簡単にやって退けるだろう。

 それにしても単純なテッドに教えられるなんて。いや、単純だからこそ余計な情報に惑わされず本質を見抜けたということか。


「わ、私の言っていることが本当だということはエルフやドワーフの人達が知っています。魔族と交流がありましたから」


 エルフとドワーフ! 前の世界では空想上の種族だ。

 この世界にはその2種族は実在するらしいけど魔王が倒された後、姿が見られなくなってしまった。

 もし会うことができたらかなりのレアらしい。

 魔王が殺された後、人族と付き合っているといつか自分達も同じ目に合わされるかもしれないと考え姿を消したのかもしれないな。


「今回のことといい、過去のことといい何だか申し訳ないな」


 リリナディアの話が本当なら魔族側は悪くないのに魔王は殺され、自分は10年間鎖で拘束され血を抜かれることになったんだ。リリナディアが人族を恨んでも何らおかしなことはない。


「魔族にも人にも良い人がいれば悪い人がいるのはわかっているけど⋯⋯」


 そんなに簡単に消化できる問題じゃないよな。

 せめて俺達はリリナディアの信頼を裏切るような真似だけは絶対にしないようにしよう。


 こうして俺達は重苦しい雰囲気の中、ズーリエを目指して足を進める。


 そして陽が落ちてきて夕方になろうとしていた頃


「あっ! ズーリエの街が見えて来ましたよ」


 俺達は街道の坂道を登って前方に目を向けるとルナさんの言葉通りズーリエの街の東門が視界に入る。


「何だかとても懐かしい感じがします」


 街から離れたのは10日程だが、ルナさんがそのような気持ちを抱くのはおかしくないだろう。

 ザガド王国に拐われ、魔王の卵であるリリナディアに出会い、そして誕生日を迎えてルナさんとはるなの記憶が融合するという濃密な時間を過ごしたからな。


「リリナディアさんはリックさんのお家に行かれるんですよね?」

「そうしてくれた方がいいな」


 側にいてくれなくちゃいざという時に護ることができないからな。


「えっ? ルナは?」

「私は自分のお家がありますから⋯⋯」


 リリナディアはルナさんがいなくなるのが不安なのか暗い顔をして俯いてしまう。


「ルナさん⋯⋯もし良ければ家に泊まりませんか?」

「そうですね。ノノちゃんともお話ししたいのでお願いしてもよろしいでしょうか?」

「ほ、本当? ルナも一緒にいてくれるの?」

「はい。リリナディアさんとももっとお喋りしたいから楽しみです」


 やはりこの中ではリリナディアの信頼を一番勝ち取っているのはルナさんのようだ。それと魔王の話をしてからリリナディアはテッドと話す時にルナさんを介さなくても会話ができるようになっていた。

 あれ? もしかしてこの三人の中でリリナディアと距離を詰められていないのは俺だけじゃない?


「リリナディア、今日の夜何か食べたいものある?」


 俺は二人に負けじと夕御飯で好きな物を作って仲良くなろうと画策するが⋯⋯。


 ささっ。


 リリナディアは俺と目を合わせることなくルナさんの後ろに隠れてしまう。


「な、なんでだ⋯⋯」


 おかしい。何故俺だけ未だに警戒されなくちゃならないんだ。


「ププッ、どんまい」


 そして腹が立つことにテッドが笑いながら俺の肩に手をおいてきやがった。


 色々と釈然としない中、ズーリエの東門に辿り着くとルナさんの姿に気づいたのか2人の門番が慌てた様子でこちらに走ってくる。


「ル、ルナ代表! 先程とんでもない方がズーリエの街に!」


 そして俺達は肩で息をしている2人を落ち着かせて、何故慌てているのか話を聞くのであった。

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