第121話 決闘が終わって
俺はエグゼルドの首に剣を突きつけているがエグゼルドが敗北を認めるかどうか怪しい所だ。
確か護身術か何かで、近距離で銃を突きつけられた時の対処方法みたいなやつがあったよな?
突然「この程度で余に勝った気でいるとは片腹痛いわ!」的なことを言って反撃してくるかもしれないので、警戒は怠らないようにしよう。
「ふっ⋯⋯」
皇帝陛下が笑った!
でもこの笑みはどういう意味なんだ? 諦めの笑みか? それともこれから第3ラウンド的な笑みなのか?
俺は真意を測りかねていると片ひざをついていたエグゼルドは立ち上がり、こちらに視線を送ってきた。
「余の完敗だな」
そしてエグゼルドは自ら敗北の宣言をした。
か、勝ったあ⋯⋯。
俺は皇帝陛下に向けていたカゼナギの剣を異空間にしまうと緊張感から解放され、思わず地面に座り込みそうになってしまう。
「強かったです⋯⋯とても」
これが正直な感想だ。
おそらくまともに戦っていたらこちらが負けていただろう。皇帝陛下は戦いの最中はこちらの出方を見てから行動していた節があるからな。
もし問答無用で突撃されていたら負けていたし、何より途中で乱入してきたエミリアと2人がかりでやっと倒すことができたから試合に勝って勝負に負けたと言った所か。
「これほどの実力者がスパイ活動をするとは思えんな。やはりハインツの戯れ言であったか」
「はい。俺はニューフィールド家に追放されたから母方の実家があるジルク商業国へ向かっただけです」
「スパイ容疑については不問としよう。そしてそれとは別に褒美として⋯⋯」
「すみません。そのお話は後でよろしいでしょうか」
俺は皇帝陛下に頭を下げて背を向ける。
なぜなら今は皇帝陛下の蹴りを食らって吹き飛ばされたエミリアが心配だからだ。
「エミリア!」
俺は闘技場の壁近くまで吹き飛ばされて倒れているエミリアに向かって声をかけるが返事がない、まるで屍のようだ。それに少しスカートが捲れて下着が見えてしまっているぞ。
「勝手に人を殺すんじゃないわよ! イタタッ⋯⋯」
エミリアは突然目を開き、大声を出したせいで痛みが走ったのか左手で腹部を抑えている。
「な、何を言っているんだ。そんなことより回復魔法をかけるからじっとしててくれ」
俺はエミリアに向かって
それにしてもよく俺の考えていることがわかったな。まさか何か相手の思考を読むスキルとか持っているのか?
そうだとしたらエミリアの薄いブルーの下着を見ていることもバレてしまうじゃないか!
「ん、もう痛くない。ありがと」
エミリアは怒っていないことから相手の思考を読むスキルを持っているわけじゃなさそうだ。良かった良かった。
「手」
エミリアはこちらに左手を差し伸べてきたので俺はその手を持ち立ち上がらせる。
「エミリアが加勢してくれなかったら皇帝陛下に負けていたよ。自分の命を危険に晒してでも俺のために⋯⋯」
「べ、別にリックのために手を貸したわけじゃないわよ!」
「それじゃあ何のために?」
「え~と⋯⋯その~⋯⋯あれよ! 皇帝陛下に勝てば願いを叶えてもらえるからリックを利用しただけ! わかった?」
何だか今思いついたように見えたけど気のせいか? もしかして本当は俺のために? いや、いくら元婚約者だからといってエミリアが俺のために死を覚悟して皇帝陛下に立ち向かってくれるかな?
「そうだ。エミリア、リック⋯⋯2人が勝者だ。願いを言え」
エミリアと話している間にエグゼルドが背後から現れ話しかけてきた。
「お待ち下さい!」
宰相と思われる人が観客席の方から声を上げながらこちらへ走ってくる。
「宰相、何か言いたいことでもあるのか?」
やはりこの人は宰相だったようだ。
「皇帝陛下の決定したことに対して異議を唱えることは致しませんが、今回はリック殿と皇帝陛下の決闘だったはず。しかし途中でエミリア様が乱入したので⋯⋯」
「まさか願いを叶える件は無効だとか言うつもり?」
それは困る。それだと何のために帝国まできたのかわからなくなってしまう。
「いえ、約束を違えるのは皇帝陛下の名を傷つけることになってしまいます。ですので恒久的な願いは無効とさせて下さい」
なるほど。これから死ぬまで毎月金貨を100枚下さいとか、例えば皇帝陛下のお力でエミリアと結婚させて下さいというのはなしということか。
「えっ!」
突然エミリアが驚いたような声をあげる。
「リッ⋯⋯と⋯⋯けっ⋯⋯できる⋯⋯たのに」
エミリアはブツブツと小声で何か言っている。
まさかエミリアは恒久的な願いを叶えようとしていたというわけか。
「皇帝陛下、それでよろしいですね?」
宰相は圧を込めて皇帝陛下に同意を求める。
「わかった。2人がそれでよいなら従おう」
本当は恒久的な願いが良かったけど敗北寸前だった所をエミリアのお陰で勝ちを拾ったのだから文句は言えない。
「仕方ないわね。だったら私は結婚するまでの間自由に他国へ行けるように許可をもらいたいわ」
なるほど。本当は恒久的に他国へ行く許可をもらいたかったがそれだと願いを叶えてもらえないから結婚するまでと限定したのか。
「お待ち下さい! そのようなことを許可してしまえばルーンセイバー家から苦情が出てしまいます」
公爵家の者が他国に自由に行くというのは普通はありえない。だからサーシャもジルク商業国に来たときには本当に驚いたものだ。
「ちょっとこっちに来て」
エミリアは宰相を近くに呼び寄せると何か小声で話し始めた。
エミリアside
「リックをこのままジルク商業国に行かせていいの?」
「よくないですな。あれほどの実力者がもし帝国に牙を向いてきたら⋯⋯」
「だから私がリックを連れ戻してあげる。元婚約者の私が説得すれば時間はかかるかもしれないけどきっと帝国に帰ってくるわ」
この時宰相の頭の中では高圧的なエミリアが本当にリックを連れ戻すことができるのか懐疑的であったが、打てる手があるなら打った方がいいという結論に至るのであった。
リックside
「皇帝陛下、宰相も了承してくれましたわ。私のお願いを聞いて頂けますね?」
「よかろう」
どうやらエミリアの願いは聞き入れてもらえるようだ。
まさかとは思うけど他国に行く許可を得たのは俺を追いかけるためじゃないよな?
一抹の不安を覚えながらも、今は自分の願いをすぐに叶えてもらうために俺は皇帝陛下に向かって口を開くのであった。
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