第104話 何故そうなるか理解できなかった
「サ、サーシャ!」
何で帝国にいるはずのサーシャがジルク商業国にいるんだ! だがこれは夢ではない。金色の長い美しい髪をなびかせたサーシャが今俺の目の前にいるのは現実だ。
サーシャは公爵家の令嬢だからそう簡単に他の国に行くことができないはずなんだが。
しかもサーシャは寝っ転がっている俺の頭のすぐ上にいるためスカートから薄いブルーの下着が丸見えだ。
「お兄ちゃん?」
ノノちゃんはサーシャに対して警戒心を露にしているのか少し距離を取る。
過酷な貧民街で育ったノノちゃんは基本初対面の人に対しては用心するよう身体が動いてしまうようだ。
正直な話、このままこの体勢でサーシャの下着を見ていたい気持ちに駆られるけどノノちゃんにエッチな兄だと勘違いされたくないから非常に残念だが立ち上がることを選択するしかないな。
「俺の古い知り合いだから大丈夫だよ」
「う、うん」
だがノノちゃんはまだサーシャには気を許していないのか俺の背後に隠れてしまう。
「どうしてサーシャがここに?」
「リック様に会いにきました⋯⋯それが理由になりませんか?」
「俺もサーシャに会えて嬉しいよ」
ハインツに断罪された時、サーシャは俺が勇者パーティーから抜けた方がいいと発言したけどそれは俺のことを考えての言葉だったことはわかっている。あのまま勇者パーティーにいたらずっとハインツ達にこき使われる人生だったからな。
「その後ろにいる方がリックさんの婚約者ですか?」
「えっ? ノノがお兄ちゃんの婚約者!」
「お兄ちゃん? リック様の妹? けどリック様には妹はいないはずです。家族構成事細かに調査したけど⋯⋯まさか隠し子? いえ、そのようなはずは⋯⋯もしかしたらこれがリック様の好みなのかもしれませんね」
「えへへ、ノノとお兄ちゃんはお似合いのカップルに見えるのかなあ」
サーシャは何やら1人でブツブツ言い始め、おしゃまなノノちゃんは婚約者という大人の響きが嬉しいのか身体をモジモジさせている。
「とりあえず家に来るか?」
自分の世界に入っている2人を元の世界に戻すために、俺はこの場から移動することを提案する。
「リック様の御実家ですか? ぜひ伺わせて下さい」
「それじゃあ行こうか」
「申し訳ありません。その前に少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
東門まで戻るとサーシャは突然この場を離れどこかへと行ってしまった。
「サーシャはどうしたんだろう?」
おそらくだが公爵令嬢のサーシャはこの街に来たことがないはずだ。だからズーリエの街の中に何があるかわかっていないと思う。それなのに建物の向こう側へと1人で行ってしまった。
「お兄ちゃん、詮索しちゃだめだよ。あのお姉ちゃんはお花をつみに行ったんだから」
「お花をつみに? ああ、トイレに行ったのか」
「そんなでりかしーのないこと言ったら嫌われちゃうよ」
「ごめんごめん」
年下に怒られてしまった。ちなみに母さんがノノちゃんの年齢を聞いて俺も教えてもらったのだが、思っていたより年が上だった。
身長で考えると10歳くらいだと思っていたけど実際は13歳で、おそらく貧民街で食事を満足に取れない生活だったため、年に見合った成長が出来なかったのだろう。
「あっ? お姉ちゃんが戻ってきた⋯⋯よ」
ノノちゃんはこちらに戻ってきたサーシャを見つけるが、言葉が途中で止まってしまっていた。
トイレに行ったにしては早く戻ってきたサーシャに驚いた訳じゃない。ノノちゃんはサーシャの見た目が変わっていたことに驚いているのだ。
「お待たせしました。それではリック様の御実家に参りましょう」
「あ、ああ」
そして何事もなかったかのようにサーシャは俺の後をついてくる。
サーシャが何故そのようなことをするためにこの場を離れたのか聞いてみたい気がするけど久しぶりに会ったということもあり、何となく聞きづらい部分がある。
「お姉ちゃんその髪型どうしたの?」
しかし子供であり初対面のノノちゃんに取っては聞きづらいことではなかったようでサーシャの
「これは⋯⋯その⋯⋯」
サーシャは顔を赤くして恥ずかしそうに左の人差し指で
「ノノとお揃いだね」
そう、ノノちゃんの指摘通りサーシャは金色の美しい髪をなびかせたセミロングの髪からツインテールに変わっていたのだ。
「ノ、ノノちゃんの髪型が可愛かったからお姉ちゃんも真似して見たの。似合っていませんか?」
「ううん、お姉ちゃんに似合っているよ。まるでどこかのお姫様みたい。ねっ? お兄ちゃん」
また答えづらい質問をノノちゃんが問いかけてくる。だけど女性は褒められたら嬉しいものだという母さんの教えに従って俺は素直な気持ちを口にする。
「そうだね。サーシャの髪を結んでいる姿なんて子供の頃以来だけどあの時も可愛かったけど今も似合っていて可愛いと思うよ」
「⋯⋯私の子供の頃の髪型なんて覚えていたんですね」
「覚えているに決まっているじゃないか。サーシャは俺に取って大切な人だからな」
幼い頃より色々相談に乗ってくれたし勇者パーティーにいた時に何とかやっていけたのはサーシャがいたからだ。母さん以外でここまで俺のために親身になってくれた人は帝国ではいなかった。
「そうですか。ありがとうございます」
こっちはけっこう照れくさいことを言ってしまったがサーシャは特に表情を変えることはなかった。
昔からサーシャは感情を露にすることは滅多になかったから俺が褒めた所で表情を変えることはないだろう。けどさっきノノちゃんにツインテールを指摘されて照れていたよな?
「それより早くリック様の御実家を見てみたいです」
そして俺は自宅へと脚を向けるとサーシャは3歩後ろから俺の後についてくるのだった。
だがこの時俺は気づいていなかった。後ろからついてきているサーシャの顔が真っ赤になっていることを。
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