第95話 リックVSテッド
このテッドという男、もしかして挑発のつもりでズーリエをバカにしたのかもしれないがやり方が下品過ぎる。基本この世界の人達は自分が住んでいる場所について誇りを持っているからテッドに対して怒りが沸いているはずだ。それはもちろん俺も同じでこれは絶対に負けられない戦いだ。
テッドの身体は俺より少し小さいくらいだが腕や脚、胸部や背筋などよく鍛えられており、デカい口を叩くだけはありそうだ。そして手にもっている剣は細身でパワータイプではないことが伺える。
「リックさんこのようなことに巻き込んでしまい申し訳ありません」
「いや、自分が住んでいる街をバカにされたんだ。十分戦う理由になるさ」
それにここにいるルナさんやハリスさん、憲兵の人達の方が俺より長くズーリエに住んでいるから怒り心頭のはずだ。
だから皆の想いを背負ってテッドを倒してみせる。
「よろしいのですか? 到着して早々現地の人達と揉め事を起こすなど」
「大丈夫ですよ。あのズーリエ代表のルナさんは人格者で通っている方ですし雨降って地固まるともいうじゃないですか」
「まさか
「ルナさんに関しては信頼筋の情報源があるので⋯⋯ただあのリックという青年に関しては⋯⋯」
シオンさんとラフィーネさんが何やら小さな声で話をしていたので思わず聴覚強化のスキルを使ってしまったが、何か見えたとはどういうことだ? 試合の前に気になるワードを口にするなあ。だから俺のことをジッと見ていたというわけか。
ラフィーネさんには何が見えているのかわからないけど今はテッドを倒すことが優先だ。
俺は異空間からカゼナギの剣を取り出す。
「ん? どこから剣を出しやがった。どうやら手品の腕は一級品のようだな」
「この程度のことがわからないなんてサラダーン州代表の護衛というのも大したことないな」
「貴様、どうやら死にたいらしいな」
俺はテッドの挑発を軽くいなし、逆に挑発し返す。
この勝負、テッドの心をへし折るのが目的なのでカゼナギの剣の特殊能力である風の操作や鑑定は使わない。正々堂々と戦って打ちのめしてやる。
俺は両手で剣を握り切っ先をテッドに向けるとテッドは右手で剣を持ち、俺と同じ様に切っ先をこちらに向けてきた。
「それでは不詳ながら私が審判をさせて頂きますね」
ラフィーネさんは少しワクワクした様子で審判役を名乗り出る。ルナさんが尊敬して止まないラフィーネさんは試合をすると言ったり、嬉々として審判をしている所からひょっとしたら少しお転婆な性格をしているのかもしれない。
「始めますよ~」
いかんいかん。今は戦いに集中だ。
テッドはおそらくパワーではなくスピードで勝負してくるだろう。そして相手の心をへし折るために一瞬で決着をつけにくることが考えられる。
開始直後の奇襲でやられないように気をつけなくてはならない。
俺はテッドの視線、剣、一挙手一投足に目を向け、僅かな動きさえも見逃さないよう注視する。
「それでは始めてください」
そしてラフィーネさんの手で試合が開始された瞬間、俺は後方へと下がり補助魔法を唱える。
「クラス2
これで俺のスピードと力は強化された。
「補助魔法だと? 化石のような魔法を使いやがって」
テッドは補助魔法を使われたことなど気にもせず後方に下がった俺に対して追撃してくる。そのスピードは⋯⋯速い!
さすがにデカい口を叩くだけのことはある。一瞬で俺との間合いを詰めてきた。
「一撃で決めてやるぜ!」
テッドは右手に持った剣を後ろに引く。
「まさかテッドの奴あの青年を殺すつもりか!」
シオンさんから不穏な声が聞こえてくる。殺すってことはそれだけ強力な技を繰り出すつもりなのか!
「くらいやがれ! ミーティアスラスト」
テッドがこちらに向かって技名を口にしながら突きを放つと剣が7つに分かれて襲ってきた。
これは幻影なのか、それとも目にも止まらぬスピードで突きを繰り出しているのかわからないけど容易に見切れるものではない。
防ぐのは論外、だが果たしてかわすことができるだろうか? このままではシオンさんの言うとおり待っているのは死だけだ。
防ぐのもかわすのも不可能、それなら⋯⋯。
俺は方針を決め、カゼナギの剣を強く握ってテッドの技に向かっていく。
「何!」
俺の行動が予想外だったのかテッドは驚きの声を上げる。
防ぐのもかわすのも無理なら俺の剣で粉砕するだけだ。幻影だろうが本物だろうが全て叩き斬れば関係ない。
俺は身を低くして下から上に向かってテッドの剣を斬り伏せる。
すると剣同士がぶつかりキンッという甲高い音がなるとテッドは俺の攻撃を受け止められなかったのか剣が宙を舞う。そして俺は丸腰になったテッドの首もとにカゼナギの剣を突き付け一言言葉を発する。
「俺の勝ちだ」
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