二十歳 ── 3

 ユリスに示された場所は、今回の襲撃を企てた隣国と、こちらの国との間にある屋敷だった。親友に久々に会うというのに、これほどまでに緊張……いや、怖いと思うことは無かった。二、三度ノッカーに手をかけることを躊躇った。けれどもうここまで来てしまって、引き返す方が格好がつかない。ぐっと奥歯を噛み締めて、カンカンとノッカーを鳴らす。しばらくして扉が開いた。

「……セリーヌ! 鳩便を見て来てくれたのかい? 嬉しいよ」

「久しぶりだな、ユリス」

 変な顔をしていないだろうか。心臓はずっと早鐘を打っている。

「さ、こっちへ。案内するよ」

「ありがとう」

 見た感じ、彼はいつも通りだ。けれどだからこそ怖い。それとも本当に彼が会いたかったから連絡を寄越した、それだけなのだろうか。親友に対してこんなにも疑い深くなってしまうことに申し訳なさが募る。

「生きていてよかった、もう会えないかと」

 その言葉に、心臓が跳ね上がる。やはりずっと三年前から探されていたのだろうか。

「あ、あぁ。私もまた会えて嬉しい」

 焦りが声に出ている。

「……こんな広い場所でずっとひとりでいるのか?」

「まあ、そうだね。故郷も無くなって、君もいなかったから」

「寂しく、ないのか」

「君はひとりじゃないのかい?」

「………」

 様々なことを口に出す度に、全てが私のマイナスになるようなことを口走っている気がする。これ以上話してはいけないかもしれない。

「珍しく静かだね、セリーヌ。まあいいけれど」

 三年のブランクというか、三年前どんな風に彼に接していたかが全く思い出せない。なにかを考えようとすると頭が痛かった。

「さ、入って」

 奥の方の部屋に通された。ユリスは私を先に部屋に入れると、部屋の扉にこちらに来た。

「……鍵?」

「どうしたんだい? 誰か入ってきたら面倒だろう」

「でもここで、ひとりなんじゃ」

「あぁ、違った違った。──君に逃げられては困るからね」

「……っ」

 その言葉に、背筋が凍る。振り返った彼の手には拳銃が握られていた。

「──さて、いろいろ話してもらおうかな」

「何を」

「あらかた見当は付いているだろう? パスカル様がどこにいるのか、騎士団の残党は君を含めて何人いて、今はどこにいるのか。そういうことを」

「………」

「おや、だんまりか。君の今日の言動を見る限り、僕がったアイツからいろいろと聞いているんだろう? 父上が主犯だとか、僕も加担しているとか。そちらばかりが知ってこちらが知らないことが多いのは不平等だろう」

「……私に話せることは、ない」

「話せ」

「嫌だ」

「話さないとなると、この引き金を引かなきゃならなくなるんだ。僕だってそれは望んでいない」

「それは、どうして」

「君という唯一の親友を亡くすのは惜しいんだよ」

「情報のはけ口が無くなるからではなく?」

「……それも、あるかもしれないな」

 果たして私は、話していいのだろうか。話した場合の被害はどこに出るか。それは私だけでなく、カリムさんやリアム、そしてパスカル様にまで及ぶ。話さなかった場合、最悪でも死ぬのは私だけだ。それならば選択肢は二つに一つのようなもの。

「……再度言う。私がに伝えることが出来るものは、無い」

「そうか。残念だよセリーヌ」

 彼は眉尻を下げ、カチャッと撃鉄を起こした。彼は本気なのだと、そう暗に伝えられた気がしてこちらも少々覚悟が出来た。

「じゃあね、大好きな親友。仲良くしてくれて本当に嬉しかった」

 私は襲い来る痛みと衝撃に耐えようとぐっと目を瞑る。銃声が鳴った。

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