第15話 初めてのオフ会


 そろそろ約束の時間になる。俺がまだシステムに不慣れである為、向こうが招待してくれるそうだ。



【彼女お貸ししますから招待を受けました。承諾しますか?】


「承諾。」



 すると一瞬で視界が移り変わりる。目の前には雪原の中にぽつんと建った小さな一軒家があり、家の周りにはシロクマ達が寝そべっていた。



 緊張しながらも、玄関の扉をノックする。



「こんにちはー。」


「はーい!」



 扉の向こうから明るく返事が返ってくる。


 ガチャリと扉が開き、彼女と対面。


 彼女は一瞬驚いた表情を見せたが、笑顔で挨拶を交わす。



「初めまして。“ああああ”です。」


「いらっしゃい。“彼女お貸しします”です。寒いので、どうぞ中にお入りください。」



 家の中に招き入れられ、リビングに通された。


 キッチンから飲み物とお菓子を運んできた彼女は、お好きなものをどうぞと目の前のテーブルに置いて、対面する形でお互い椅子に腰かける。


 彼女は身長こそ低いものの、大抵の衝撃を吸収してしまいそうな程の胸部装甲を持ち、その雪のように白い肌と明るく可愛らしい笑顔で俺を歓迎してくれている。



 こりゃモテるだろうな。


 でも、どこかで見た事があるような……?




「先程はいきなりシロクマ達を連れ去ってしまい、申し訳ありません。」


 先程のシロクマ誘拐に対して俺は頭を下げる。


「いえいえ。謝らなくても大丈夫ですよ。対戦中ですし、殺さないでくれたじゃないですか!」


 彼女は気にしないで欲しいと、わたわたと顔の前で両手を振っている。


「まさかこのゲームでシロクマ好きの人に出会えると思ってなかったので、つい嬉しくてお誘いしましたけどご迷惑じゃなかったですか? 私テンション上がり過ぎちゃって……。」


 と彼女は恥ずかしそうにしている。



 ふと、玄関先で驚いた顔を見せた事が気になり質問した。



「さっき玄関先で驚いた表情をしていましたが、どうかしましたか?」


「ええと……。実は、“ああああ”さんが知っている方に似ていたものですから。こうしてお話してみると、益々他人のような気がしなくて。」


「ああ。それは俺も思ってました。どこかでお会いしてましたかね?」


「見たところ、同世代くらいですか? ちなみに私は23です。」


「同級生じゃないですか! 俺も23ですよ。それなら敬語は無しにしませんか?」


「良いですね!」



 思わぬ共通点を見いだし会話が弾んでいく。



「じゃあ早速失礼して。ところで俺に似た人を知ってるって言ってたけど、どんな人?」


「ちょっと恥ずかしいんだけどね。中学の頃付き合ってた人なんだ。」


 振られちゃったけどね……と少し悲し気に彼女は話す。



 なに?!



 じゃあ、彼女の好みとして俺はアリって事になるのでは?


 これは是非とも話し合わなければ!


「へ、へぇ~。そうなのか。でもこんなに素敵な人と別れちゃうなんて勿体ない事するんだね。」


「そう言われると恥ずかしいなぁ。でも当時の私は結構変な子だったから仕方ない部分があるんだ……実は今でも好きだったりして。」


 と照れながら口にする。



 ちくしょう!



 でも、まだチャンスはあるはず!


「残念。良いなって思ってたところだったのに。」


「あ、ありがとうございます。」


 顔を赤くし俯く彼女。


「しかし全然想像つかないな……。変って、例えばどんな?」


 んー、と少し考えるような仕草を見せ、笑顔で答える。


「シロクマが好き過ぎて、毎回ぬいぐるみ持参でデートしたり……。」




 ん?




「彼との会話中、語尾にクマを付けたり……。」






 え?






「シロクマのパンツ履いてくれなきゃ嫌って言ったり……。」






 ま、まさか……。







「私とシロクマとどっちが可愛い?って聞いて困らせたり……。」



 いつの間にか、彼女の視線が俺にロックオンされている。





「いつも困らせてたなぁ……。」



 フフフと笑いながら俺を見続けている彼女。


 このじっとりとした独特な視線には覚えがある。



「そんな私に一年も付き合ってくれた、優しい人なんだよね。」


「そ、そうなんだ……。」



 うん。ちょっと焦ってしまったが、確かに面影がある。見れば見るほど、何故今まで気が付かなかったんだと思ってしまう。


 間違いない。当時付き合っていた、久満子くまこちゃんだ。






 うん。大丈夫だ。まだバレてない。


 いきなりだと不自然だから、ここはもう少し雑談して様子を見て帰ろう。


 よし。それが良い!

「あ、そう言えば。大五郎君の好きなカレーもあるから食べて行って!」


「ありがとう! わざわざ悪いね。」


 彼女はおもむろに立ち上がり、キッチンでカレーをよそう。


「ちゃんと甘口にしておいたから安心してね。大五郎君。」


 彼女はにっこり笑顔で、どうぞどうぞと勧めてくる。



 学校帰りSoCo八で一緒に食べたカレーは毎回甘口だったな……。懐かしい気持ちが込み上げてくる。


 まぁ、それでも名乗らず帰るがな。




 いただきますと手を合わせ、カレーを頬張る俺を幸せそうに見ている久満子ちゃん。






 ん?



「俺のなま……」

「ところでさ、大五郎君どうして気付かないの? もしかして知らないフリしてる?」


えは……と続けて発言しようとした俺にかぶせてくる久満子ちゃん。







 あ……。マズイ。


 いや、大丈夫。まだ焦る時間じゃない。全日本クール大会選手権男子の部に出場すれば10位以内は確実と呼ばれたこの俺だ。


 華麗にリカバリーしてみせ……

「私、白井久満子なんだけど。気付いてて誤魔化してるよね?」




 動揺してスプーンを落としてしまった。


 静寂な室内にカーンと音が響き渡り……そして。















 涙目で俺を見つめる彼女。



 バレとるやないかい!

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