第27話 真美ちゃんの夏休みの宿題 前編

 やることも無かった僕は一日中ゲームをして過ごしていたのだが、そんな状況にも飽きてきて随分前に買った小説を読もうかなと思ったその時、僕のスマホに真美ちゃんから宿題を手伝って欲しいという連絡がきていた。

 もしかしたら、真美ちゃんと一緒に愛ちゃんも宿題をやっているのではないかと思っては見たものの、真美ちゃんに指定された日は愛ちゃん家族がキャンプに行っている期間だという事に気付いてしまった。

 そうか、真美ちゃんは愛ちゃんがいないから僕に力を借りようとしたんだな。その事について悪い気はしなかったけれど、少しだけ愛ちゃんに対して後ろめたい気持ちにもなってしまっていたのは事実であった。


「もっと早く言えれば良かったんだけど、まー君しか頼れる人はいなかったんだよ。出来れば愛ちゃんと一緒に協力してもらいたかったんだけどさ、私はそこまで器用じゃないから無理だったんだよね。そこは謝るよ。ごめんね」

 僕は真美ちゃんのやろうとしていることが何か知らないので謝られても困るのだが、愛ちゃんと僕が一緒に協力することが出来ないとわかって少し落胆はしていた。

 もしかしたら、愛ちゃんと一緒に合える口実が作れるのではないかと思ってもいたのだが、真美ちゃんの話では愛ちゃんに手伝ってもらった分に関しては、もう終わってしまったという事だった。

「さすがに私も二人分の衣装を同時に作るというのは無理なんだよね。それも、男物の衣装ってあんまり作った事ないからさ、どうしたらいいのかわからない部分もあるんだよ」

「ん、真美ちゃんの宿題って服を作る事なの?」

「そうだよ。本当は夏のコミケに自分で作ったコスプレ衣装を着て参加したかったんだけどさ、一人で行くのはちょっと勇気が出なくてね。それに、行くことだけでも結構な出費になると思うから諦めてるんだよ」

「結構遠いから交通費だけでも負担大きくなっちゃうもんね。僕は参加したことないけど、真美ちゃんはコミケに参加したことあるの?」

「私も無いよ。というか、愛ちゃんとまー君以外に着ているところを直接見せたことも無いんだ。私には愛ちゃん以外に仲のいい友達もいないし、見せたいって思うような相手もいなかったってだけなんだけどね」

 真美ちゃんは僕にコスプレ衣装を身に纏った写真を何枚も見せてくれていた。

 その写真に写っているのは全て真美ちゃんのはずなのに、どれも違う人のような印象を受けてしまった。服装が違うというのもあるのだろうが、メイクが違っていたり表情が違っていたり、どうやって撮ったのかわからないけれど身長が違う写真もあったりして凄いなと素直に感心してしまった。

「そんなに黙って見られると気になってしまうな。変なところとかあったかな?」

「変なとこなんて無いよ。知らない衣装もたくさんあったけどさ、どれも良く似合ってると思うよ。知ってるキャラクターもそっくりだと思うし、知らないキャラクターも真美ちゃんの良さが消えてなくていいなって思ったくらいだよ。でも、表情とかメイクで別人みたいになれるって凄い世界だね」

「だよな。私もそこが好きでコスプレをやってるんだよ。ほら、私ってみんなと違って日本人ぽくない感じだろ。別にそれが嫌だとは思わないんだけどさ、着物とかは似合わないかもしれないけどコスプレ衣装とかだったら似合うんじゃないかなって思ってたんだよ。幼稚園の時にお遊戯会で着たシンデレラのドレスが凄く好きでさ、今思えばその時からコスプレが好きになったんだと思うよ。幼稚園の女の子みんなで着たドレスだったけど、私が一番似合ってるって今でも思ってるからね」

「そうだろうな。真美ちゃんは顔も整ってるから他の人よりもドレスとか似合いそうだもんな。ドレスを着てどこかに行くなんて僕には縁のない話だと思うけどさ、いつかそんな姿も見てみたいな」

「それならさ、いつになるかわからないけど愛ちゃんとまー君の結婚式の時に見せてあげるよ。愛ちゃんに負けない程度に綺麗に着飾ってやるからな」

 そうか、僕と愛ちゃんが結婚すれば真美ちゃんを招待することになるよな。その時にドレス姿を見ることも出来るんだと思ったのだが、その日がいつになるのかわからないのに遠い未来ではないような気がしていた。何とも不思議な感覚ではあるが、僕の思い違いでなければいいと考えてしまったのだった。

「それでさ、私はコスプレ衣装を作ることにしたんだけど、どうしても男っぽい衣装のデザインが決まらなくて困ってたんだよ。愛ちゃんには女物の衣装を手伝ってもらったんだけど、まー君には男物の衣装のデザインを一緒に考えてもらいたいんだ。もちろん、忙しいって言うんだったら無理には頼まないんだけど、今日来てくれたって事は少しくらいは協力してくれる気持ちがあるって事だよね?」

「コスプレに関しては詳しくないんであれだけど、デザインとか考えるくらいなら手伝えると思うよ。でも、そんなに時間も無いみたいだけど大丈夫なのかな?」

「大丈夫だよ。それに関しては問題無いからね。今からまー君に手伝ってもらうのは来年の夏休みの分だからさ。今から今年の分はさすがに間に合わないって私も知ってるから」

 夏休みの宿題を早めに終わらせる人は結構いると思うけど、来年の分まで今から考えてる人なんてどれくらいいるのだろう。ウチの学校の宿題が毎年自由研究であるという事を考えても、さすがに来年の分を今年にやっている人なんていないと思う。

「今年の冬休みじゃなくて来年の夏休みの分なんだ。冬休みは違うのにするの?」

「さすがに夏のテーマと冬のテーマで分けたいとは思うからね。今から冬の衣装を作ろうと思ってもさ、夏に作る冬の衣装って私には難しいんだよ。同じものを作ろうとしても生地の厚さが違ってたりして着てみたら意外と寒かったりするしね。冬に夏の衣装を作ると逆に暑すぎて蒸れたりもするんだよ。その辺をちゃんを分けてるくれる人って凄いなって感心しちゃうね」

「その時の季節に引っ張られちゃうって事なのかな」

「そう言うことなんだよ。私も頭ではわかってるんだけど、どうしてもそれがあって上手に出来ないんだ」

「色々と難しいんだね。そう言えば、愛ちゃんと考えたのはどんな感じにしたの?」

「私の好きなキャラクターの衣装を作ったんだ。ちょっとだけ露出が多めなんで恥ずかしいんだけど、愛ちゃんには似合うって言ってもらえたんだよね。さすがにここに来て来るのは恥ずかしかったんで見せることは出来ないけどさ、まー君が手伝ってくれるって言うんだったら少しくらいなら着て見せてもいいとは思うよ。もしかしたら、下着が見えてしまうかもしれないんだけどさ」

 真美ちゃんの下着は今まで何度も見てきた事ではあるのだけれど、前もって宣言されているといつもと違って緊張してしまう。

 真美ちゃんは表情や喋り方ひとつ見てもとても緊張しているようには見えず、まるで買ってきた漫画が面白かったので見て欲しいと言ったようなテンションであった。陽菜ちゃんが見せパンを見られても平気なのだという感覚と一緒なのかもしれないけれど、見てしまうこちらの立場で言わせてもらうと、見せパンだろうが見せパンじゃなかろうがパンツが見えているという事には変わりないのでパンツが見えるという事は嬉しくもあり気恥ずかしくもあるのだ。

「なんだかまー君は緊張しちゃっているみたいだね。もっと積極的にグイグイ来てくれても良かったんだけど、そうなったらそうなったで愛ちゃんに言うだけなんだけどね」

「愛ちゃんに伝えるのは真美ちゃんの自由ではあるけどさ、うそついたり大げさに伝えたりはしないでね」

「もちろんだよ。私だって愛ちゃんに嘘はつきたくないからね。そこはまー君と一緒だよ」

「頼むよ。愛ちゃんが嫌がることは出来るだけしたくないからね」

「パンツを見せるくらいなら愛ちゃんも許してくれるからね。それ以上になるとちょっとアレだけどさ、見えちゃったものは仕方ないって事だもんね。そうだ、飲み物のお代わりを持ってくるから待っててね。それにしても、今日は昨日よりも涼しいとはいえまだまだ暑いね」

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