第15話 ソロコスプレイヤー真美ちゃん
僕が休日に愛ちゃん以外の女子と行動を共にするのはマズいのではないかと思っていたのだが、愛ちゃんの頼み事なので断ることも出来なかった。
愛ちゃんと真美ちゃんが一緒に見に行く映画だったようなのだが、愛ちゃんにどうしても外せない用事が出来たとのことで僕が代わりに見に行くことになったのである。
「おはよう。今日は愛ちゃんの代わりに来てくれてありがとうね。私一人で見ても良かったんだけど、せっかく買った愛ちゃんのチケットを無駄にするのも良くないと思って誘ってもらったんだ。私は一人でも良かったんだけど、愛ちゃんに頼まれたから君と一緒に見ることにしたんだよね。でも、君に断られなくて良かったよ」
「愛ちゃんから真美ちゃんと一緒に映画を見に行く予定だってのは聞いてたけどさ、愛ちゃんが身に行けなくなったのは残念だね。二人で見た方が良さそうだけど、愛ちゃんに用事が出来たんなら仕方ないよね」
「うん、そうね。でも、この映画はもう見てるんだよ」
「え、もう見た映画をもう一回見るって事?」
「そう、今日の子の回の終わった後に舞台挨拶があるから。私が好きな声優さんが登壇するらしいんでどうしても外せなかったの。それに、隣に知らない人が座るのも嫌だったから」
舞台挨拶があるという事は聞いていなかったが、僕が愛ちゃんから貰ったチケットを発見してみると端から二つ目の席だった。映画は真ん中の方が見やすいと思っていたのだけれど、端だと隣に誰も来ないというメリットもあるという事を初めて知った。
「君は映画を見る時にポップコーンとか食べる人?」
「家で見る時は何か食べることが多いけど、映画館で見る時はあまり食べないかも」
「そうなんだ。一人では多いって事なのね。じゃあ、私が買うやつを食べてもいいから。いつも残しちゃうからその方がありがたいし」
真美ちゃんが僕の分の飲み物を買ってくれたのだが、それと一緒に一番大きいサイズのポップコーンも買っていた。こんなに大きいのも売っているんだと思ったのと同時に、さすがにコレを一人で食べるのは大変だろうなという感想を持ってしまっていた。
それと、真美ちゃんを見てから気にはなっていたのだが、なんで真美ちゃんはセーラー服を着ているのだろう。僕たちの学校はセーラー服ではないし、中学校も僕が知っている限りではセーラー服ではなかったはずだ。となると、このセーラー服は真美ちゃんの私服という事なのだろうか?
「あ、そろそろ上映時間だから入ろうか」
「そうだね。それは僕が持つよ」
映画館の中は圧倒的に女性客が多いのだが、数名は男性客もいるようだ。
ぱっと見ではあるが、真美ちゃんと同じようにセーラー服を着ている女性客も多かったのが印象的であった。
「今日は最後まで付き合ってくれてありがとうね。普段は映画とかも一人で平気なんだけど、今日みたいにコスプレしたい時はさすがに一人では厳しいって思ってたから助かったよ」
「こちらこそありがとう。普段見ない映画だったけど楽しかったよ。真美ちゃんがセーラー服を着ている謎も解けたし」
「そんなに気になってたんだったら最初に説明すればよかったね。愛ちゃんからは何も聞いてなかったの?」
「うん、代わりに真美ちゃんと映画を見に行ってきてってお願いされただけだからね。僕も何か衣装的なのを着てくれば良かったかな?」
「そうしてもらえると嬉しいけど、さすがにそこまでは頼めなかったな。それに、愛ちゃんもコスプレはしてくれないからね。私の家で遊んでる時はしてくれるけど、さすがに外にまでそのままってわけにはいかないんだよ」
「でも、今日みたいな日だったら愛ちゃんもしてくれるんじゃないかな?」
「たぶん、それは無いかな。私も一緒に見に行くのが愛ちゃんだったら私服で見に来てたと思うし」
「え、どうして?」
「だって、一人がコスプレで一人が私服っておかしいでしょ。それに、このセーラー服も本物じゃなくて安っぽい感じだから、愛ちゃんの隣にいると浮いちゃうと思うんだよね」
「そんなことも無いと思うけどな」
確かに、じっくり見てみると真美ちゃんの着ているセーラー服は安物っぽい感じがしていた。他にも同じようなセーラー服を着ている人がいたので見比べてみようと思ったけれど、さすがに他の女性の着ている服をじっくりと見るような勇気は僕にはなかった。
ただ、僕たちが来ている制服の夏服と比べても生地は薄いような感じがしたし、明るいところで見るとセーラー服の白い部分は中に着ている肌着が透けて見えていた。いや、それは普通のセーラー服でも一緒なんじゃないかとは思う。
「でも、君がいてくれて本当に良かったよ。一人だったら結構声をかけられることも多いからね。私って、なぜか男性に声をかけられることが多いんだよ。どうしてなんだろう?」
「それは、単純に真美ちゃんが可愛いからじゃないかな。僕はそんなこと出来ないけど、可愛い子に話しかけたくなる男って多いんだと思うよ」
真美ちゃんはそんな事ないだろうというような表情で僕を見ていたのだが、僕は普通に真美ちゃんは可愛い女の子だと思う。愛ちゃんが誰かと一緒にいるところはよく見るのだが、その中でもあいちゃんと釣り合うような女子は真美ちゃんの他には会長とか陽菜ちゃんくらいしかいないと思っているのだ。そんな事は本人にはとても言えるわけがないのだが。
「そんな人がいるなら気を付けないとね。あ、男性に話しかけられないためにも私が一人で何かする時は愛ちゃんに頼んで君を貸してもらおうかな。愛ちゃんも君が他の女子と一緒にいるよりも私と一緒にいた方が安心すると思うし」
「それなら愛ちゃんも誘った方がいいんじゃない?」
「そうだね。別に私は一人じゃないと嫌だってわけでもないし、君が良ければ一緒に何かしようね。愛ちゃんと二人だと変な人に声かけられることも多いからさ。でも、そうなると、君は私達の家の方まで来ることになるかもだけど」
「それくらいだったら問題無いよ。新しい自転車を買ってもらったからどこでも行けると思うし」
「それは頼もしいね。じゃあ、今日は付き合ってもらったんだし、ちょっとだけお礼をさせてもらおうかな」
「別にお礼なんて気にしなくていいのに。ポップコーンだけでも十分だよ」
真美ちゃんが買ってくれたポップコーンは僕がほとんど食べてしまったのだ。べつにお腹が空いていたわけでもないし、ポップコーンが特別美味しかったわけでもない。真美ちゃんがポップコーンをほとんと食べずに僕に渡してきたのだ。
会場内が明るい間に少しだけポップコーンを食べた真美ちゃんは残りを全て僕に食べるように言ってきたのだ。僕は何度か断って一緒に食べようと提案したのだが、真美ちゃんは僕の提案を頑なに拒んで僕一人で食べるように言ってきたのであった。
「それはそれ、コレはコレだよ。お礼って言ってもさ、何か買ってあげるとかは出来ないけどね。愛ちゃんから頼まれている事でもあるからさ、断られると私も困るんだよね」
「愛ちゃんからの頼み事なら僕も断れないじゃない」
僕たちは映画館を出て駅の近くにある一度も入ったことのない喫茶店でパフェを食べていた。
そこまで好んで甘いものを食べない僕にも食べやすい甘さでしつこくないパフェは美味しく、アイスが溶けてしまいそうになっていたこともあって味わいつつも急いで食べてしまっていた。
そんな僕の様子を見て真美ちゃんはおかしそうに笑っていたのだが、僕から見える部分のアイスが溶け始めていることを指摘すると、真美ちゃんも慌ててアイスを食べ始めていたのだ。その様子が面白くも可愛らしくも見えてしまい、僕も真美ちゃんみたいに笑ってしまった。
「もう、君は不思議な人だね。なんでかわからないけど、君といると一人じゃないってのも悪くないような気がしてきたよ。愛ちゃんと一緒にいる時とは違う安心感があるみたいだね」
「僕も不思議な感じだよ。真美ちゃんといる時って、愛ちゃんといる時ともオカ研の会長や後輩といる時とも違う感じがするんだよね。それが何なのかはわからないけど、家族とか親戚と一緒にいるような感じがするかも」
「その感覚は少しわかるかも。私は一人っ子なんで兄弟ってのはわからないけどさ、仲の良いいとこがいるからそれに近いって思えばそうかもしれないね。でも、君はそのいとこよりも優しいとは思うよ」
真美ちゃんはほとんど空になったパフェを最後まで綺麗にスプーンですくっていた。
最後の一口分をすくったスプーンを真美ちゃんはなぜか僕の顔の前へ出してきたのだが、それを僕が食べるべきなのか少し戸惑っていると、真美ちゃんは僕の目を真っすぐに見て微笑んでくれたのだ。
「最後の一口で悪いんだけど、この抹茶パフェも美味しいから食べてみてよ」
僕は真美ちゃんの使っていたスプーンを口に含むと、ほのかに苦みは感じるのにしっかりと甘く不思議とあっさりした甘味に感じていた。
「お礼ってわけじゃないけどさ、この抹茶パフェも食べてもらいたかったんだよね」
「初めて食べたけど、これも美味しんだね」
「でしょ。愛ちゃんにも食べてもらいたいんだけどな。愛ちゃんって抹茶味あんまり好きじゃないみたいなんだよね。あ、君のスマホが光ってるよ。愛ちゃんから連絡きてるんじゃない?」
僕は真美ちゃんに言われてスマホを見てみると、愛ちゃんからではなく真美ちゃんからビデオ通話がきていた。
これはどういう意味だと思って真美ちゃんの顔を見てみると、スマホを見ててほしいと言われたのた。
通話をオンにして画面を見てみたのだが、そこに映し出されているのは真っ暗な何も映っていない画面である。ガサゴソという音が聞こえているのだが、真美ちゃんから音を小さくするように言われてそれに従うと、ライトが付いたのか画面に何かが映しだされていった。
それが何を映しているのかわからなかったのだが、少しずつ画面に何かが映しだされていくと、青と白のボーダーラインが映しだされていた。おそらくだが、これは真美ちゃんが履いているパンツの映像なのだろう。そう思った僕は真美ちゃんの方を見てしまったのだが、真美ちゃんは僕から目を逸らすように顔を下に向けていたのだ。
いや、視線を逸らすためではなく、スマホの位置を確認するために下を向いていたのだろう。そうとしか考えられないような動きをしていた。
そのまましばらく僕は真美ちゃんとスマホの画面を交互に見ていたのだが、画面に映しだされているパンツと白い太ももの映像は直接見ているのとは違い、手の届きそうで届かないもどかしさも感じていたのだ。
真美ちゃんが腰を少しだけ浮かせてパンツに指をかけて食い込みを直していたのだが、それをじっと見ていた僕はいつの間にかその世界に引き込まれていたようだった。
いつの間にか僕は真美ちゃんの顔を見ずにスマホの画面に夢中になっていた。そんな様子を真美ちゃんは嬉しそうに見ていたのだが、顔を上げた時に見えた真美ちゃんの勝ち誇ったような顔が僕は忘れられなくなってしまっていた。
愛ちゃんと真美ちゃんは仲が良く親友と言っても良いだろう。
今の状況を知った愛ちゃんはどう思うんだろうか。僕はそれを考えながらも、真美ちゃんが見せてくれる光景から最後まで目が離せないままであった。
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