読者のストレス 主人公に優しく、難しい言葉は使わない


 web小説において、ストレスは厳禁といいます。

 え、聞いたことないですか? わたしはよく聞くんですが。

 

 このストレスというのは二種類あって、文章を追いかけるストレスと内容のストレスです。

 web小説はどちらのストレスも徹底的に排除している。

 そうしないと読まれないそうです。


 まず、文章を追いかけるストレス。


 そもそも人間て文章を追いかけるにはそれなりの労力がかかるんですよね。

 で、日本人が、というか日本語は縦書きに向いていて、横書きには向いていないそうです。しかしwebでは横書きがほとんどですよね。

 その理由はわからないのですが、ともかくwebでは横書きで読む場合が多い。

 

 つまり、ただ読むだけでも横書きであるだけでストレスがあるんです。

 実際縦書きではスラスラ読めるのに、横では読めないと言う人は多いです。

(最近のweb小説で育った若者はわかりませんけれど)


 横書きは読みにくい。特にスマホだと一行がすくないから読みにくい。でも横書きするしかない。どうにか読みやすいようにしないと、読みにくいを理由にして読んでもらえないではないか。よし、余白を大きくして読みやすくしよう。

 なんてことで余白の多いweb小説が出来上がったようです。


 これで安心。そう思いました?

 いえいえ、これではダメなのです。大きな問題があります。

 ズバリ漢字です。

 漢字が多いと読みにくい。読めない漢字があると止まってしまう。わからない言葉が多いとストレス! ということで、難しいいいまわしは避けられるようになりました。

 

 今度こそいいだろう。え? そうではない?

 そうではないんです。これではまだダメなのです。

 本を読むのは短い時間、隙間時間。そんなときに複雑な内容は把握できない。頭が疲れている仕事の合間になぜ小難しい話をよまないといけないんだ。もっとスッキリした文章にしてくれ、すぐにわかる文章にしてくれ。

 えええ、じゃあなるべく遠回りな表現は止めるね、直接的ではっきりした言い回しにするよ。より、隠喩もなるべく使わないようにしよう。

 ということで、周りくどい言い回しが使われなくなった。


 まだありますよ。

 読者はね頭を使って読みたくないんです。なぜなら疲れた頭で息抜きに読んでるから。

 だから推測したり、こうかな、ああかな、この意味は実はこうかな? なんていうのはしたがらない。わからないことは嫌だし、想像で補えなんて無理。

 じゃあ仕方ないから直接的にかくよ。推測してもらうような文はやめるね。


 え、長文がつづくと読みにくい? ストーリーをさくさく? じゃあセリフ多めにしよう。地の文はけずるよ!


 単純化、単純化、単純化。


 複雑さをどんどん削いでいきます。


 これはストーリーにも言えることです。

 これが内容のストレス。


 ナーロッパ。という言葉をこ存じですか?

 なろう風ヨーロッパ。的な意味の言葉です。本来の西洋の歴史通りではうまく説明できないことがたくさんあります。

 例えば爵位、名前、言葉、国の形、服装、文化。すべてが歴史で繋がって、現実では理由があってそうなったものばかり。でもweb小説でそんなのイチから説明していたらストレスの何者でもないです。だから排除した。

 どういう流れでそうなったのか詳しくはわからないですが、基盤となる「こんな西洋風の世界が話を作りやすいな」という世界観を誰かがつくり、それに乗っ取り、都合のよい世界が出来上がり、みんなが読み、なんとなく世界観を共有する。

 ぼんやりとですが、詳しく世界観を説明しなくても「ナーロッパ」なんだな。で世界観を共有できるようになったんです。


 これは凄いことだと思いますが、逆に独自の設定は邪魔になってきます。

 そんな独自設定覚えられないし、いらないよ。ってなるわけですね。だから世界観を作りすぎると読まれなくなる。

 地の文をたくさん使って説明もしにくいわけですから、なおさらです。



 もう一つ、大きな内容のストレス。それは葛藤、ネガティブ、失敗、挫折。それらの拒絶です。

 ストレスなく読みたい。爽快で、ポジティブな話がいい。

 そんな読者の気持ちからか、主人公に試練を与えると一気に読者が減るというのです。

 だからweb小説のストーリーは最初にどん底に落としても、その後は登る一方。ほとんど下がらない。試練はあってもうまく乗り越える。挫折はない。

 それが気持ちいいから。読みやすいからです。




 こうしてできた小説を、人々はどう思うのか。

 上記の感情を持つ人たちは喜んで読みます。

 でも従来の本、特に一般文芸を読んでいる人はまず内容の薄さ、言葉の単純さに驚きます。そして、中には読むのをやめてしまう人もいる。


 さらに作者にも苦悩があります。

 作者の多くは頭の中に妄想を飼っていて、それを文章にしようとしている。しかしその妄想はそういった世界観のないシンプルなものではなく、ゴテゴテに世界観を編んだ、まるで指輪物語のようなものだったりします。

 それらはwebでは読まれない。でも書きたい。でも読まれない。


 こうして苦悩を覚え、結果的にさっくりしたストレスを排除した小説を貶したり、見下したりするようになってしまう。

 多くの人に読まれている作品たちを落とすような発言をしてしまう。


 これをツイッターでやれば炎上する。


 ああ、やりにくいですよね。


 


 私はもともとラノベや児童向けファンタジーを読んでいたので、あまり違和感はないのですが、それでも地の文が多くなってしまいます。

 けれど、そう言った文を排除するのは辛い。

 書きたい文が書けないのは辛い。


 それで私は、全てのストレスをぼんやりさせることにしました。

 

 ナーロッパを使い、でも独自の設定を入れる。

 なるべく主人公に試練を与えず、でも挫折を一度はさせる。

 漢字を少なくする。

 セリフを多くする。でも地の文で説明することはやめない。

 

 こうして作品を作ることにしました。

 完全にweb小説の読まれる形は則ってないですが、それで読まれたらいいなって話です。


 

 

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