第29話

「うへぇ……」

 

 ミリアと共にアーレス町へと帰ってきた僕は……心の底からの苦悶の声を漏らす。

 ちなみにミリアは先にマキナの家へと帰らせている。

 

「す、すまねぇ……」

 

 そんな僕を見て傷だらけのガンジスが頭を下げる。

 ボロボロのガンジスの隣にはスキンヘッドの男とマーベスさんも居る。等しくボロボロだ。

 

「あれは化け物だ。俺の手に終える代物じゃねぇ。SS級冒険者最強。世界最強の男……ライントでないと無理じゃないか、ってレベルだ」

 

「……そいつが居る階層は?」


 ほとんど意味のない質問をナがかける。


「……50階層だ」

 

 ガンジスは僕の質問に対し、目をそらして答える。

 50階層。そこまで到達出来る冒険者の数はそこそこいるし、この街の冒険者ギルドの稼ぎ頭はすべて50階層到達可能な冒険者であり、50階層に行けないのであれば街から出ていくという冒険者たちが多いだろう。

 

「倒さなきゃいけない奴じゃん……」

 

 もし、50階層の魔物が倒されず、残ることになれば稼ぎ頭の多くの冒険者を失い、冒険者が居ることを前提として成り立っているこの街から霊長の長たる強欲な人間らしさがなくなることだろう。


「……無理だ」

 

 僕の言葉。

 それに対してガンジスは滲むような声を漏らす。


「僕とお前を一緒にするなし。僕に倒せぬ者などない。……はぁー。めんど」


 厄介ごとの匂いがプンプンしている。

 というか、50階層にいる魔物が一体何なのか。僕はそれを当てることができる。……めんどくせぇ。

 負けることはないだろうけど、めんどくせぇ。


「……本当にッ!あれは本当に無理なんだッ!人類に勝てる相手じゃねぇッ!!!」


「ハッ。僕をただの人類の枠組みに入れるな。僕の一族は人知を超えると豪語する」


「「「……ッ!?!?」」」

 

 この場に居た人間。

 ガンジスやスキンヘッドの男、マーベスさん。

 他にもギルドマスターや複数の受付嬢さん、多くの高ランク冒険者たち。

 彼ら、彼女らは僕の言葉を聞き……僕の正体を推察して、ありえないと言わんばかりの表情を浮かべる。


「アルーッ!!!」

 

 遠くからマキナの声が聞こえてくる。


「この件は僕に任せろ。片付けておく」

 

 僕はマキナの方向へと体を向け、歩き出した。

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