6 理由なんて単純
「ボッコボコにしてやりましたの!」
練習試合が終わり、今は広い広い車の中。セバスへ今日の戦果を報告する凜々果の声を、私はみんなと一緒に耳を傾けて聞いていた。
「
「何を言うのよっ。ワタクシに歯向かって来るのが悪いんじゃないっ」
「また変なこと言って……。ですがお嬢さまが面倒なくらい高揚していらっしゃるのは、目上の方たちに完勝されたからということがよくわかりました」
ハンドルを握りながら、やれやれとため息を吐くセバスに、私はもう少し褒めてあげればいいのになと思った。
まぁ、得意そうな表情でシートにふんぞり返る様子を見る限り、凜々果は気にしてはいないんだろうけれど。
「でもねセバス、それだけじゃないんだよ?」
「あやみんさま……!」
「ひゃっ!」
長い車体がぐわんと大きく揺れて、私たちの身体は片側の隅に向かって流された。
「ぐえっ。ち、ちょっとセバス! ハンドル切りながらこっち見たら危ないって!」
「も、申し訳ございません。あやみんさまからお声を掛けて頂けたので、つい」
「私の所為なの⁉」
「はいっ、罪深いお方です……!」
えー。
「全くなんでそうなるのよ……。っと、花林は、も、もうっ。どさくさに紛れて胸揉むなぁ」
「おっと失敬♪」
「凜々果も触って欲しそうに制服捲らないっ」
私に押し倒される形で倒れ込んだ凜々果が、身体を
「だめ、ですの……?」
「う。そ、そうっ。だめですの! そんな可愛い顔をしてもだめですの!」
美少女の甘えた顔の破壊力って、やばいんだな。なんか一瞬、何かの扉が開きそうになったし。
「はぁ……。それでさっきの話の続きだけれど、実はねセバス?」
「はいっ、是非この私めにご教示くださいませ!」
いちいちウザいな。でもまぁいいか。
「凜々果にね、たくさんのお友達が出来たんだよっ」
「え……お嬢さまにですか……⁉」
目を丸くするセバスに、私はミラー越しでうんうんと頷いた。
凜々果はと言うと、私たちの話なんてまるで興味がないみたいに、ツンとした表情で窓の外を眺めている。けれど耳も頬も赤くて、照れ隠しをしているだけだってすぐにわかった。
そんな凜々果に、セバスは視線を移すと微笑むのだった。
「良かったですねお嬢さま。これも
「えっ、いいよ別に。だって私たちの手柄じゃなくて凜々花が――」
そこまで言って私は話すのを
くいくいと、花林にセーラー服の裾を引っ張られたからだ。視線を移せば、好奇心いっぱいに瞳を揺らす花林と、その隣で茉鈴と美鳥が頷いている。
「あ……と」
「え?」
消えてしまいそうな小さな声に反応して、私は凜々果を見た。顔が真っ赤だった。
「あり、がとう……です、の……」
「⁉」
何かがボンッと、私の頭の外へ
「いいよ全然! それに凜々果が魅力的だったから、神無月高のみんなは友達になってくれたんでしょう? だから、お礼なんて必要ないんだってぇぇ~」
そう私は、凜々果を抱きしめながら言った。
「まー、今は浮いてるかもだけど、もう少し時間が経てば、学校でもちゃんと友達が出来ると思うよ? ね、茉鈴?」
「だね花林。私もそう思う。凜々果って変態だけど、そこが面白いし」
どの口が言ってるんだと思ったけれど、同意。美鳥も続いた。
「ええそうですね。それに同じ部員だから、普段から一緒にいるわけではないですよ? ね、あやみんさん?」
「そう! ただ好きだから! それだけ!」
「あやみんちゃん……」
凜々果が遠慮がちに、私の身体に腕を回してきた。
いつも触って触ってと言う癖に、変なのって思った。だから私は、さらにきゅっと抱きしめた。
「つか、絶対セバスにも問題があるよねー?」
「私めにですか⁉」
「そ。過保護なんだよ~」
送迎してもらっているにも関わらず、そんな風にセバスを責め立てながら私たちは帰路に着いたのだった。
家に着くまで、凜々果が私にしがみ付いていたのが、なんだかとても可愛く思えて嬉しかった。
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