5 負けが勝ち

「まさか三波さんまで1度で倒してしまうなんて、ちょっと意外でした。みなさんのユニフォームに対する執念には脱帽いたしますね」

「いいから上げるよー?」


 そう私がサーブの構えを取ると、二葉さんは何か言いたげにこっちを見た。けれどすぐに眼鏡をくい上げして、ラケットを構えてくれる。


 タンッ!


 私が放ったサーブは、二葉さんの頭上を目掛けて下降していく。

「頑張れー」という二人の声援と、一人の熱視線を受けた二葉さんの表情が読み取れないのは、眼鏡に天井の照明が当たっている所為だ。

 でもたぶん、プレッシャーは相当かかっているはず。――内心焦っているとみた!


「これくらい朝飯前です!」


 強気な言葉とは裏腹に、二葉さんのフォームは伸びやかで綺麗である。

 けれどラケットを振り下ろすと、打球はアウトコース一直線へ。ライバルは減るに越したことはないし、望んでいたことだったけれど、シャトルケースから大幅にれた打球に、みんなで眉を下げた。


「ま、まぁ、3回勝負にしなかったのは私の優しさです」


 つまり3回チャンスがあれば、勝っていたと?


「何それっ? 負けず嫌いだなぁ」と、ツンを貫き通す二葉さんを、みんなで笑った。

 二葉さんは目をすがめていたけれど、耳が真っ赤だった。


 それからは、あっという間に勝負が着いた。

 私と三波さんは外してしまい、かりん・まりんペアのサドンデス。勝敗はその1回で分かれた。


「茉鈴ちゃんの優勝で~す♪」


 アイドルのように手を振ったり、ウィンクをしたりする茉鈴に、仕方がない拍手してやるかという感じで、みんなで力なく手を叩く。もちろん冗談でだ。


 そうして私たちは、ふざけ合っている内に何だかんだでお互いを名前で呼ぶようになり、シャトルコックチャレンジ対決は幕を閉じたのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る