第98話 第3王女と魔獣召喚

 しばらくすると、沿道からひと際、大きな歓声が周囲が上がり始めた。


「あ! 第3王女の乗った馬車が来たわよ」

「あら、今年は正統派の仮装のようですわね。去年はかなり際どいセクシー魔女だったように記憶しておりますが。なんでも第3王女がご自分でお作りになられたとか」


「さすがにあれは国王陛下に怒られたんじゃないの? 噂だけど、1か月くらいお城から出してもらえなかったって聞いたわよ」

「国王陛下は生真面目なお方ですものね」


 アリエッタとユリーナの会話を聞きつつ視線を向けると、第3王女と思しき可愛い系の美少女が、白馬の引いたオープンな馬車の上で、美しい白銀の騎士甲冑に身を包んで沿道に手を振っていた。


「仮装っていうか、まんま騎士の甲冑だよな?」


「ベースは多分、ブレイビア騎士団の甲冑ね。細かい意匠は違ってるし、すごく凝っているし、鎧の覆っている部分もかなり少ないけど」


「国王陛下に怒られないギリギリまで攻めた、といった感じですわね」


「可愛い顔して結構、根性座ってるわよね」


「それと動きを見た感じ、あまり重さを感じませんので、第3王女が甲冑をまとって楽に動けるくらいにしっかりと身体を鍛えているのでなければ、薄い木製の鎧の表面に、金属に見えるような加工をしているだけでしょうね」


 アリエッタとユリーナが、第3王女の仮装について妙に深掘りした分析をしてくれた。

 ぶっちゃけ、なにげない一言に、こんなマジレスが返ってくるとは思わなかった。


 それだけ今日の仮装パレードを楽しみにしていたんだろうな。

 それと不審人物がいる状況に、注意をしているってのもあるのかもしれない。


 俺も気合を入れないとだ。

 俺は警戒の度合いを高めていった。


 そして第3王女を乗せた馬車がゆったりと進みながら、例のフードを目深にかぶったローブの人物のすぐ近くまでやってきた時、ついに恐れていたことが起こった。


「平和ボケした無能な王族よ! 目の前のことしか考えない愚劣な平民よ! 今こそ天の裁きを受けるがいい! 武具召喚コネクト! 獣王の牙サンダルフォン!」


 バサァッっと勢いよくローブを脱ぎ捨てた人物――やはり女性だった――が高々と宣言すると、漆黒の鎧と、黒曜石でできたような不思議な黒光りをした剣が現れた。


「なっ、姫騎士だと!?」

「A班は王女様をお守りしろ! B班は迎撃! 敵は一人だ。速やかに制圧せよ!」


 突然の事態に、近くにいた観客は何が起こったのか分からずにぽかんとした表情になるが、護衛についていた騎士と姫騎士は即座に対応行動を開始する。

 しかし。


「くくっ、貴様らごときにこの私が倒せるものか! 魔獣召喚!」

 その言葉とともに黒曜の剣を天を刺すように突き上げると、どこからともなく5体の魔獣が現れた。


 凶悪な魔獣が現れたのを見て、ここでついに周囲の観客が大パニックになる。


「魔獣召喚だと!?」

「禁忌の闇魔法の使い手か!」

「しかも上位魔獣だぞ! 気を付けろ!」

「ブレイビア騎士団に応援を要請するんだ!」

「今から呼んでもとても間に合わん!」

「すぐに騎士団も付くはずだ! 応援が来るまでここにいる我らだけで、命に代えても姫様を守り抜くのだ! 姫様の身体に、指一本触れさせるな!」


 焦りの声を上げる護衛の騎士たちを尻目に、闇の姫騎士は高らかに宣言した。


「ゆけ、私の可愛い魔獣たち! 力ある者に守られていることも知らずに、ぬくぬくと過ごす愚か者どもを蹂躙じゅうりんせよ!」

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