第73話 みんな幸せエブリワン・ハッピー!なナイスアイデア

「じゃあもういっそのこと、俺も含めて全員で模擬戦をしようぜ? 俺が3人全員を相手にするからさ」


 パッと思いついたにしてはいいアイデアじゃね?

 みんなの願いが一度に叶って、みんな幸せエブリワン・ハッピー!


「しょうがないわね。だらだら話していてもらちが明かないし。誰かさんが譲らないせいで」

「同感ですわね。時間は有意義に使いませんと。それもこれも誰かさんが譲らないせいですけれど」


 バチバチと見えない火花が飛び散った。

 み、みんなの願いが一度に叶って、みんな幸せエブリワン・ハッピー!

 ハッピー!

 ハッピー!!!!!


「じゃあ3人チームでやるってことで。アタシが支援砲撃、アリエッタがフロントアタッカー、ユリーナは遊撃ね」


「分かったわ」

「分かりましたわ」


「なんだかんだで、みんな切り替え早いよな……」


 この辺りの判断の迅速さは日本の高校生とは全然違っていて、世界の守護者たる姫騎士という高い意識を持つがゆえなんだろうなぁ。

 普段は犬猿の仲のアリエッタとユリーナも、こうして作戦会議をする時はかなり物分かりがいいし。


 ――そう思っていた時期が俺にもありました。


「じゃあチームリーダーは――」

「リーダーは私がやるわ」「リーダーはわたくしに決まっていますわね」


 アリエッタとユリーナが鋭い眼差しでにらみ合った。


「なに言ってるの、リーダーは私でしょ?」

「あなたはフロントアタッカーでしょう? リーダーは後衛か遊撃が務めるのがチーム戦の基本ですわ。そんな基礎的なこともご存じありませんの?」


「ただし優秀なフロントアタッカーがいる時は例外、でしょうが。リリィホワイトの姫騎士はそんなことも知らないの?」


「あら? 優秀なフロントアタッカーとは、まさかご自分のことを指しておられるのかしら? 老婆心ろうばしんながら申し添えますが、少しは慎みというものを覚えた方がよろしいのではありませんか?」


「主席入学、タッグトーナメントで優勝したけど、なにか? 言いたいことがあるなら聞いてあげるど? なに? 言ってみて?」

「くっ、このっ! 言うに事欠いて自分の成績をひけらかして!」


「事実を言ったまででしょ、事実を」

「くぅぅ! いつか見てなさいよ。その調子に乗った鼻っ柱をへし折って差し上げますわ!」


「ま、夢物語も、言うだけならタダよね」

「なんですって!?」


「あーもう、また始まったし。ただの模擬戦なんだし、別に誰がリーダーでもいいじゃんかー」


「よくないに決まってるでしょ。リーダーの決定が、時に戦いの趨勢すうせいを決するのは歴史が証明しているわ」

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ――ですわね。では姫騎士の歴史にも精通しているわたくしがリーダーということで」


「なにが『では』よ。姫騎士の歴史なら私だって子供の頃から叩き込まれているわ。だからリーダーは私」

「脳筋ローゼンベルクの下に付くなど、えあるリリィホワイトの姫騎士として絶対に認められませんわ!」


「私だって成金リリィホワイトの下に付くなんてお断りよ」

「なんですって!」


「うっわ、この2人マジめんどくさ……」


 ごめん、『物分かりがいい』は言い過ぎだったわ。

 全然いつも通りだったわ。

 ルナなんてもう完全に呆れて、さじを投げてるわ。


 あと『脳筋』と『成金』って綺麗に韻を踏んでいるよな。

 ほんと仲が良いのか悪いのか……。


 そしてアリエッタとユリーナがお互いに譲る気ゼロなのもあって、話はどこまでも平行線をたどり、最終的にジャンケンでチームリーダーを決めることになった。


「じゃあいくよー。一発勝負だからね。もう1回とか、今のは練習とか、実は3回勝負とか、そういうのは一切いっさい聞き入れないからね」


「だってさユリーナ。ちゃんと聞いておきなさいよ」

「わたくしではなくあなたに言ったのでしょう、アリエッタ・ローゼンベルク」


「はいはい! もう分かったから! じゃあいくよ。最初はグー、ジャンケンポン! えーとチョキ、チョキ、グー。あ、アタシの勝ちね。リーダーはアタシで」


「「……」」

 ある意味、一番揉めないで済む結果だったのかもしれない。


 というわけで。

 たかだかリーダーを決めるのに10分以上かけてから。

 俺はルナをチームリーダーとするアリエッタ、ルナ、ユリーナの臨時編成3人チームと模擬戦をすることになった。

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