第49話 準決勝(3)烈火の姫騎士アリエッタvs舞風の姫騎士ルナ(上)

「どうよどうよ! 風魔法は本来、牽制しつつ高機動力を活かした一撃離脱戦法が定番よね。でもアタシの契約精霊・魔風の爪牙そうがカマイタチは、撃ち合いが大の得意な特殊な風精霊なんだから!」


「同じクラスなんだし、イチイチ自慢げに説明されなくても、ルナの契約精霊のことくらい知ってるわよ! 行け、フレイム・アロー・デュオ!」


 アリエッタが50本のフレイム・アローを2セットまとめて100本にして撃ち返すが、ルナの猛烈な弾幕の前では焼け石に水だ。


「へへーんだ、無駄だってばー。分かってるでしょ? ぶっちゃけフレイム・アロー程度の連射力じゃ、アタシのウインド・バルカン・フルバーストはしのげないからね! うぉりゃぁぁぁぁぁっ~~!!」


 撃ち合いが大の得意というだけあって、ルナの風の連弾はもの凄い制圧力だ。

 アリエッタが一方的に撃ちまくられている。


 アリエッタは完全に防戦一方になってしまい、ルナに近づくことすらできないまま、既に防御加護をかなりの分量削られてしまっていた。


 このままだと防御加護を削りきられてガードアウトして負ける。

 既にギャラリーの多くがそう思っているだろう。

 だがしかし、俺はそんなことは微塵も思っちゃいなかった。


 アリエッタ。

 ルナと1対1でやらせて欲しいって言ったんだ。

 こうして分厚い弾幕を張られて、徹底した遠距離戦を挑まれるのも分かっていたはず。

 何かとっておきの秘策があるんだろ?

 さぁそろそろルナの弾幕を攻略するところを、俺に見せてくれ。


 そんなことを思っていると、ここまで我慢の防御を続けていたアリエッタがついに動いた。


「射線の取り方、命中精度、連射速度、火力、魔法1セットの弾数、エイムがやや右振れする癖、魔法リロードのタイムラグ……その他もろもろだいたい分かったわ。OK! 今度はこっちから行くわよ! ライオネル・ストライク・トランジット!」


 ウインド・バルカンを1セット撃ちきったルナが、再度ウインド・バルカンを発動し直したほんの僅かな、とても隙とも呼べない刹那の空白。


 しかしその一瞬を狙って、炎の獅子をまとったアリエッタがルナに向かって突っ込んだ!


 ライオネル・ストライク・トランジットか。

 名前から察するにライオネル・ストライクの派生魔法だろう。

 どうやらアリエッタは今回のタッグトーナメントのために、俺にも内緒で新たな派生魔法を用意していたようだ。


 果たしてライオネル・ストライクとの違いとは――?


「へへーんだ! 打つ手がなくなったからって、苦し紛れの暴れ技? でも無駄だもんねー! 風魔法の姫騎士のスピードを舐めないでよ! アタシは撃つだけじゃなくって高速機動戦闘も得意なんだから! 舞風の翼よ、出でよ! エアリィ・ウイング!」


 詠唱とともにルナの背中に薄緑色の風の翼――エアリィ・ウイングが展開する。

 風魔法の姫騎士が高速機動戦闘を行うための、基本魔法だ。


 ルナはウインド・バルカンを再びばらまきながら――高速移動に魔力リソースを回したからか弾数は減っているが――すぐさま高速機動による回避行動を開始した。


 もともと風魔法は高速移動が得意な属性。

 ルナは流れるような動きで、いとも簡単にライオネル・ストライクの射線から逃れてみせた。


 ライオネル・ストライクは極めて直線的な攻撃だ。

 やはり単発ブッパでは簡単にかわされてしまう。


 炎の獅子となったアリエッタをなんなくかわしたルナが、再び激しい集中砲火を行おうとして――、


「ライオネル・ストライク・トランジット!」

 しかしそこで、炎の獅子をまとったアリエッタが急激に向きを変え、再びルナに向かって突っ込んでいく!


「うそんっ!? 追いかけてきた!? このぉっ!」

 驚きつつも、すぐさま再びの回避行動をとるルナだが、


「ライオネル・ストライク・トランジット・リバース!」

 炎の獅子をまとったアリエッタは、さらに進路を変更してルナに向かって突撃を敢行する。


 そこから連続して回避運動を行うルナを、アリエッタが執拗にライオネル・ストライク・トランジットで追い回し始めた。


「これってまさか、ライオネル・ストライクの突進力を移動のために使ってるの!?」


「ふふん、そういうこと! ものは考えようよね。フレイム・アローが方向転換できるんなら、ライオネル・ストライクだって方向転換できるはずだもんね!」


「そんなのあり!? それにAランクの魔法をたて続けに連発するなんて、どこにそんな大量の魔力が――っ」


「ローゼンベルクの姫騎士を、あまり舐めないことね!」


「くうっ、これが名門ローゼンベルクの姫騎士の本気マジ……! 超やるじゃん! でもアタシだって同じ1年生Aランク! 名門だからって関係ない! 絶対に負けないんだから!」


 アリエッタに負けじとルナが吠える。

 しかし既に攻守は逆転していた。

 さっきのお返しとばかりに、炎の獅子をまとったアリエッタが、ルナをじわじわと追い込んでいく。


「まだまだぁ! ライオネル・ストライク・トランジット!」

「このっ! でもAランク魔法を連発しているんだから、先に魔力が尽きるのはアリエッタのはず。それまでなんとか逃げ切れれば――」


 普通ならすぐにガス欠してしまうであろうAランク魔法の連続使用。


 炎の獅子から逃げ回るルナは――回避と弾幕の維持に気を取られているのと、追い詰められて視野が狭くなっているのだろう――気付いていないようだが、俺は既にそのからくりに気が付いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る