第31話 ギャル姫騎士 ルナ・ヴィオーラ

「皆さん初めまして。ユウタ・カガヤです。今日から編入生としてブレイビア学園で学ぶことになりました。男の姫騎士は珍しいと思いますが、仲良くしてもらえると嬉しいです。それと記憶があやふやなのもあって、皆さんに色々と迷惑をかけるかもしれませんが、優しく見守ってくれると嬉しいです」


 俺は少しでも好印象を持ってもらうべく余所よそ行きの笑顔で自己紹介をすると、腰をしっかりと折り曲げて深々と礼をした。


 こっちに来る前の世界でボッチ陰キャになったのと同じ道は、絶対にたどりたくない。

 幸いこっちの世界の俺は、平凡以下だったかつての俺とは異なり、LV99の神騎士なのだ。

 勉強ができないとか運動ができないとか、そういうことにコンプレックスを感じる必要はない。


 普通にやってさえいれば、それなり以上にやっていけるはずなんだ。


 だから人の前で話すのが苦手とか思って臆するなよ、俺。

 アリエッタだって見ているんだ。

 推しの子に、ダサいところは見せられないだろ。


 俺が強い決意とともに、礼を終えて顔を上げると、


「はいはいはーい! 質問しつもーん! ねー、レベッカ先生ー! ちょっとだけ質問タイムいいよねー?」


 薄い緑の髪を後ろでポニーテールにまとめた、明るく快活そうな女の子が元気よく右手を上げた。


「なにせ男の姫騎士だからな。そりゃあお前たちも気になるよな。いいぞ好きなだけ聞いてやれ」


 そう答えたレベッカ先生の顔をチラリと見ると、むしろ自分も興味あるからどんどん質問しろ、みたいな顔をしていた。

 もう興味津々なのを隠す気がゼロ。


 まぁそうだよな。

 男の姫騎士にはレベッカ先生だって興味あるよな。


「じゃあオッケーを貰ったところで、まずはアタシの自己紹介をするねー」


「ああ、うん」


 さてと。

 さっきからやたらとフレンドリーに話しかけてくるこの子だけど、ソシャゲでバッチリ見覚えがあるぞ。

 最初に選ぶパートナーヒロインの中でも1、2を争う人気キャラで、性能も文句無しの勝ち組ヒロイン。


 その名は──、


「アタシはルナ。ルナ・ヴィオーラだよ♪ よろしくね、ユウタくん♪」


 ルナが素敵な笑顔と共に、キュートにウインクした。


 か、可愛いじゃん。

 めちゃくちゃ可愛いじゃん。

 リアルで見たらマジヤバイじゃん。


 さすが最強ヒロイン、やるな。

 生涯アリエッタ推しを誓ったはずの俺も、思わず見惚れてしまいそうになっちまったぜ。

 しまいそうというか、隠しようもないくらいに胸がドキドキしています。

 鏡を見なくても、自分の顔が赤くなっているのが分かる。


 う、浮気じゃないんだからな!

 俺はアリエッタ単推しだけど、それとは別に人並みに女の子は好きだから!


 っていうか、いきなりユウタくんとか言われてしまったんだが?

 距離感近いな、おい。

 10年ぶりに再会した幼馴染かよ?

 陰キャの俺にはとても真似できない、陽キャオーラマックスな距離の詰め方だ。


 やめろよな。

 ボッチ陰キャはチョロいから、そんな積極的な距離の詰め方されると、俺のことを好きなんじゃね?とか思っちゃうんだぞ?

 っていうか思っちゃったぞ?


「ヴィオーラさん、よろしく」

 俺はチョロいんぐマイハートがバレないように、平静を装って挨拶を返した。


「もう、同じクラスなんだしルナでいいよー♪」


「ええと、じゃあ……よろしくルナ」

「えへへ、よろしくねユウタくん♪ ちなみにこう見えて、5人しかいない1年生Aランクの1人なんだよ? すごくない? いぇい!」


 ルナが左手をパーの形にしながら、俺の方に向かって突き出した。

 5本の指に入るってことだろうか。

 Gガ〇ダムのシャイニングフ〇ンガーではないと思う。


「それはすごいな」


「でしょでしょ♪ まぁレベッカ先生には『お前はギリギリAランクだから、いつ落ちるか分からないぞ。ここからもっと頑張れよ』って言われてるんだけどね。あはっ♪」


「またえらく正直に話してくれるんだな」

「だって素直で正直な方が人生楽でしょ?」


「……まぁ、そうかもな」

「そうだよ」

「そうだな」


 サラリと言われてしまったけれど、素直で正直に生きられるのは、自分に自信がある特別な人間だけだと思う。


 その生きざまに憧れはするけど、長らく陰キャだった俺にはなかなか難しそうだ。

 どうしても『素直に行動した後どうなるか』を考えてしまうから。


「でねでね、アタシの専門は風魔法なの。風魔法はスピード重視が多いけど、私はちょっと違って、弾幕を張ってラッシュラッシュラッシュ! うおりゃぁ、ウインド・バルカン、フルバースト! 蜂の巣になりやがれ~!」


「アグレッシブなんだな」

「攻撃は最大の防御だからね♪ 恋とバトルは先手必勝だよ! ヤラれる前にヤレってね♪ ねぇねぇユウタくん。今日のお昼、一緒に食べない?」


「誘うの早っ! 本当に先手必勝だな!?」


 怒涛の会話力とハイテンションで、超接近戦のコミュニケーションを図ってくるルナ。

 会話の暴力ってくらいのトーキング・フルバーストだった。


 まるで小学校からの幼馴染かってくらいに馴れ馴れしく接してくるルナに、陰キャの俺はタジタジだ。

 陽キャたちが、そうと気付かずにナチュラルに放っているキラキラウェーブは、長らく日陰を歩いてきた陰キャには、正視するにはあまりにまぶしすぎた。


 そして俺はアリエッタ単推しなんで、他のヒロインについては正直そこまで詳しくないんだけど。

 この短いやり取りだけで、ルナって子がどんな性格か分かった気がするよ。


 元気で明るくて、素直で正直で、とてもキラキラしている陽キャの女の子。

 それがルナ・ヴィオーラという女の子だった。


 うん、これはモテるな。

 恋愛経験ゼロの俺でも分かる。

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