第3章 1年生タッグトーナメント

第41話 1年生タッグトーナメントの話題

 俺がこの世界に転移してから半月ほどが過ぎ、ブレイビア学園での生活にもすっかり慣れてきた頃。


 1限目の授業が始まるまでの時間にアリエッタ、リューネと話していると、


「ねぇユータ。もうすぐ行われる1年生タッグトーナメントなんだけどね」

 アリエッタがそんな話題を口にした。


「1年生タッグトーナメント?」

「2人一組で参加して、1年生同士の親睦を深めるためと、入学後の成長度合いを学園側が確かめる実力試験もかねたバトルイベントがあるの」


「ああ、そういやそんなイベントもあったなぁ」


 ゲームを始めてすぐにある、チュートリアルの延長みたいな、1回こっきりのイベントだ。


 プレイヤーはパートナーヒロインとともにトーナメント優勝を目指して参加するんだけど、俺はオープンベータからの最古参プレイヤーなのもあって、だいぶ前にやったきりだったんで、その存在すらすっかり忘れてしまっていた。


「あれ、ユータ知ってたんだ?」


「え? ああうん、先生が話していたのを小耳に挟んだんだよ。姫騎士デュエル形式のトーナメントなんだろ?」


 おっとと、危ない危ない。

 また本来は知らないはずの『ソシャゲで得た知識』をナチュラルにひけらかしてしまうところだった。


 ちなみに姫騎士デュエルとは、一定のルールに基づいて行われる姫騎士同士のバトルのことだ。


「先生方も準備で忙しそうだよね~。騎士団の副団長とか、偉い人も見に来るみたいだし」

 そこでリューネがポワポワとした平和な笑顔で絶妙な合いの手を挟んでくれた。


 ふぅ、やれやれ。

 おかげで事なきを得たよ。


「でも拳を交えることで親睦を深めるとか、この学園って割とスパルタな考え方をしてるよな。戦闘模擬訓練は実戦さながらだし、リューネは怪我人を回復させるのにひっぱりだこだしさ」


 ブレイビア学園は設備が充実しているのに比例して、求められるモノもとても高い。

 学園に通う姫騎士たちのモチベーションも相当だ。


 圧倒的に強すぎる神騎士Lv99じゃなければ多分、平和な日本で陰キャをやっていた俺の心は早々に折れていたんじゃないかな。


 俺は苦笑しながら言ったんだけど、


「姫騎士は命を懸けて魔物と――時代によっては強大な魔王と戦う危険な職業だもの。実際に戦ってみることで、お互いの人となりを分かり合うのは当然でしょ?」


 アリエッタが「なに言ってるの?」みたいな顔をした。

 その隣ではリューネがうんうんと頷いている。


 どうやらこの世界では、俺の平和主義的な価値観の方が異端のようだ。


 ま、圧倒的な単騎戦闘能力を誇る姫騎士――文字通り一騎当千だ――が、戦力として多数必要とされる世界なんだから、そういう考え方にもなるよな。


 俺もいつまでも平和な日本にいる気分でいないで、この世界の価値観に慣れていかないとだ。

 いくら戦闘が強くても、平和ボケした甘い考えのままじゃ、どこかで足下をすくわれかねないからな。


 え、だったらまずはチャラい推し活を止めろって?

 それとこれとは話が別だ!(キリッ!

 推し活をやめたら、俺がこの世界にいる意味がないだろ!(キリリッ!


「じゃあ一緒に出ようなアリエッタ。タイプ的にはダブル前衛だよな。基本は1対1で各個で戦いつつ、相手によっては連携する感じで。個々の戦闘力はこっちのが高いはずだから、相手の連携を分断してそれぞれタイマンに持ち込めば、負ける可能性は限りなく低いはずだ」


「なんでもう一緒に出るつもりで話しているのよ!」


「え? わざわざ話を持ってきてくれたってことは、そういうつもりなのかなって思ったんだけど」


「ま、まぁその、そういうつもりがなかったわけじゃないんだけど……でも物事には順番があるっていうか、話の段取りっていうか――」


 アリエッタが小声で何やらごにょごにょと言っていると、


「あら、そこにいらっしゃるのは、ポッと出の男に思わぬ不覚を取ってしまわれた学年主席のアリエッタさんじゃありませんの」


 高貴で美しいけれど、なんとも慇懃いんぎん無礼な声が聞こえてきた。

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