第39話 ~謎のお嬢さまSIDE~ ユリーナ・リリィホワイト(1)

~謎のお嬢さまSIDE~


 ユウタが学園生活初日を迎え、アリエッタとの充実した模擬戦闘訓練を行った日の午後。


 学生寮の一画に特別にしつらえられた豪奢な部屋にて、一人のブレイビア学園生が優雅にアフタヌーンなティーをたしなんでいた。


 高貴さをこれでもかと主張している端正な顔立ち。

 長く美しい金髪を豪奢な縦ロールにセットしているのが、特に目を引いている。


 名をユリーナ・リリィホワイトと言う。


 王国一のお金持ち姫騎士家系であるリリィホワイト家。

 そんな名門の中の名門を継ぐべくして生まれたユリーナは、幼い頃より最高の環境で姫騎士の英才教育を受け、満を持してここブレイビア学園に入学した。


 1年生主席こそアリエッタに譲ったものの、たった5人しかいない1年生Aランクの1人でもある、それはもう優秀な姫騎士だった。


 そんな高貴お嬢さまなユリーナすぐ側には、可愛らしいメイド服をまとった10代の女の子が――見れば誰もが幸せになる慈愛に満ちた柔らかい笑顔をたたえている――背筋をピンと伸ばした美しい姿勢で佇んでいる。


「今日の紅茶はとてもよろしいですわね。透きとおるような透明感の中に、一筋のまろやかなフレーバーが控えめな自己主張をしていて、実に鮮やかな飲み心地ですわ。おかげで今日一日の疲れが吹き飛びました」


 紅茶のカップを置いたユリーナが、満足そうに呟いた。


 ちなみにユリーナは午後の実技訓練には参加していない。

 姫騎士として高い修練を積んできたユリーナにとって、1年生同士の実技訓練などたいして意味を持たないからだ。

 アリエッタやルナとの模擬戦闘訓練ならそれなりの意味はあるだろうが、特に目の上のたんこぶなアリエッタと仲良しこよしをするつもりは、ユリーナにはありはしなかった。


「ユリーナ様のご実家より、大変珍しい茶葉が届きましたので、早速ブレンドしてお出しいたしました。お口にあったようでなによりです」


 お側に控えていたメイドがすぐに、わずかに笑みを深めながら言葉を返す。


「クララ、あなたは本当にできたメイドですわね。お母さまにも、改めて伝えておきますわ」

「お褒めにあずかり光栄です」


「ええ、本当に気に入りましたわ。お代わりを貰えるかしら」

「かしこまりました」


 空になったカップにクララが2杯目の紅茶を注ぐ。

 ユリーナお嬢さまとメイドのクララが、優雅な午後のお紅茶タイムをしていると、


 ドンドンドンドン!

 部屋のドアが騒々しくノックされたかと思うと、バタンと勢いよく開かれて、


「ユリーナ様! ユリーナ様! ビッグニュースだよビッグニュース! しかもベリーベリービッグなニュース!」


 クララと同じ仕立ての可愛らしいメイド服をまとった女の子がもう一人、息せき切って駆け込んできた。


「キララお姉さま、ユリーナ様の前で騒々しいですよ」


 すぐにクララがその品のない言動をたしなめるが、キララと呼ばれた元気少女は気にも留めずに口を開く。


「もうクララってば、今はそんなことは、どーでもいいの! あのねあのねユリーナ様! 極秘情報を掴んだの! 聞いて聞いて!」

「極秘情報? 一体何の情報なのかしら?」


 キララの無作法には慣れたものなのか、特に気にした様子もなく、優雅な仕草で先を促すユリーナ。


 ちなみにキララとクララという2人のメイドは、背格好だけでなく顔までもがうり二つというレベルで酷似している。


 事実、2人は一卵性の双子だった。

 落ち着いているクララが妹で、騒々しいキララが姉である。


 どう考えても姉妹が逆の方が収まりがいいのだが。

 悲しいかな、赤子の時分に内面的な性格に気付ける人間などいはしない。

 たとえそれが産みの親であってもだ。


 さらにこの2人は共に姫騎士の才能を持ったメイド姫騎士であり、ユリーナの学園生活をサポートするため、ユリーナと時を同じくしてブレイビア学園に入学してきたのだった。


「ユリーナ様のライバルのアリエッタを負かした、ユウタって男の姫騎士の情報なんだけどね」


「彼について何か分かりましたの?」

 キララの言葉に、ユリーナは大いに興味を示したように身を乗り出した。


 というのもだ。


 アリエッタのローゼンベルク家と、ユリーナのリリィホワイト家は、どちらも優秀な姫騎士を多数輩出している名門中の名門なのだが。


 しかし入学時の姫騎士適性試験でアリエッタが1位で主席、ユリーナが僅差の2位にという結果になり、首席入学するつもり満々だったユリーナのプライドは、ズタズタのボロボロのボロクソのギタンギタンの、ポイする寸前のボロ雑巾がごとくズタボロにされてしまったのだ。


 それ以来ユリーナは、アリエッタのことを一方的に激しくライバル視していた。

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