第2章 ブレイビア学園

第28話 朝チュン

 ◇


 チュン、チュンチュン。

 チュン、チュン。


 窓の外から小鳥たちがにぎやかにさえずる声が聞こえてきて、俺の意識は緩やかに覚醒を果たした。


 ゆっくりと目を開けると、見知らぬ天井が俺を出迎えてくれる。


「ソシャゲじゃ壁は見えても、天井は見えなかったもんな」


 なんとも言えない納得感があった。


 さらには俺にしがみつくように身体を寄せながら、気持ちよさそうに眠っているアリエッタの顔を見て、


「本当に夢じゃなかったんだな」

 俺は改めて、ゴッド・オブ・ブレイビアの世界にいるのだと実感した。


 と、俺が独り言を言ったからか、


「うーん……ふぁぁ……あ、ユータ。おはよう。もう起きてたんだ」

 アリエッタが目を覚ました。


 寝ぼけたアリエッタに「何で男が私のベッドで寝てるのよ!」的な事を言われるかなと、ちょっと不安だったんだけど。

 アリエッタは寝起きでも、ちゃんと昨日の夜のやり取りを覚えていてくれたようだ。


「おはようアリエッタ。ちょうど今起きたところだよ」


 推しの子のアリエッタと朝一でベッドの中で会話ができる幸せに、俺の脳は朝からとろけそうになってしまう。


 しかしアリエッタがもそもそとベッドから出ようとして――ビクリと身体を震わせると――動きを止めた。

 そしてワナワナと声を震わせながら言った。


「寝ている間に裸にするなんて、最っ低!」

 見ると、アリエッタは素っ裸だった。


「アリエッタ、はしたない格好だぞ?」

「アンタがやったんでしょ!」


「俺は何もしてないっての」

「はぁ? じゃあ何!? 私が自分で脱いだっていうの?」


「状況的にそうなるんじゃないかな……?」

「信じられない! 私を裸にしておきながら、言うに事欠いてわたしのせいに――あっ」


 威勢よく言いかけて、アリエッタがぽかんと口を開けた。


「どうした? もしかして思い当たる節でもあったのか?」

「……えっと、あの、その」


「なんだよ? 言ってみろよ?」

「き、昨日の夜ね、暑かったの」


「暑かったよな。1つのベッドで身を寄せ合って寝ていたから余計に。エアコン入れても良かったくらいに」

 ブレイビア学園は施設が充実しているので、魔力を動力とするエアコンが完備されている。


「それでその、寝苦しくてパジャマを脱いだ記憶があるような、ないような……」

「俺の無実が晴れたみたいで良かったよ」


「うう~! 男と裸で抱き合っちゃったじゃない! 妊娠しちゃったらどうするのよ!」

「いやいや俺をよく見るんだ。俺はパジャマ代わりのシャツとハーフパンツを着たままだ。だから大丈夫だ」


「本当でしょうね?」

「心配なら、後でリューネに確認してみたらいい」


「むぅ。分かったわ。一応信じてあげる。ユータは悪い人じゃないからね」

「昨日の今日なのに、意外と俺の評価が高いんだな」


 もしかして最強な俺のことを好きピってたり?


「なんてったってお姉さまのお墨付きだもの」

「……だよな」


 ま、そうだよな。

 そんなすぐに俺を好きピってくれるわけがないよな。


 エレナ会長の精霊幻視――エレメンタル・フォーサイトが俺を悪ではないと判断した。

 だからお姉ちゃんに全幅の信頼を置いているアリエッタは、俺のことを信じてくれているだけだよな。


 まあそれはいい。

 あくまで推しは推し。

 恋愛とは違うのだ。


 そりゃアリエッタが俺のことを好きピってくれたら、今よりもさらに最高ではあるんだけども。


 とまぁ、朝からベッドで裸のアリエッタとイチャコラと――俺の主観では――そんな会話を話していると。


「2人とも~、まだ寝てるの~? そろそろ起きて食事に行かないと、学校に遅れちゃうよ~」


 リューネがそんなことを言いながら334号室に入って来た。


「「リューネ!?」」


 リューネは共有ルームを抜けると、今俺たちがいるアリエッタの寝室へと一直線に向かってくる。


「アリエッタが寝坊なんて珍しいねー?」

 言いながらリューネがドアを開け、


「お、おはようリューネ」

「おはよう」


「わおっ♪」

 リューネは、裸でベッドにいるアリエッタと、脱ぎ散らかされたパジャマを見て顔を赤くすると、くるりと回れ右をした。


「ちょっとリューネ、誤解だから!」

「何がどう誤解なのか、浅学な私には分からないかなぁ~!」


「ユータの寝るところが無かったから、しかたなくなの! だって私、ユータのお世話係なわけでしょ!? 生徒会長命令で、決闘の敗者の義務なんだもん!」


「そうだとしても、裸になる必要はなくない?」

「そうなんだけど! それはそうなんだけど!! これにはいろいろ事情があったんだからぁ!」


「ふぅん、事情ねぇ~~?? 大人の事情ってやつ?」

「だから違うんだってばぁ! そもそも私がユータと子作りなんかするわけないでしょ!」


「でも男の姫騎士なんてレアな存在、ローゼンベルク家としても手元に置いておきたいんじゃないの? 入り婿とかむしろウェルカムでしょ?」


「今は実家は関係ないし!」


「ふぅん?」

「な、なによ?」


「そういう割にはアリエッタ、まんざらでもなさそうな顔してるけど?」

「そ、そんな顔してないし! 失礼しちゃうわね!」


「アリエッタって誤魔化す時にアヒル口になるよね」

 その言葉に、アリエッタが慌てて口元に手をやってから、ハッとした顔になった。


「リューネ、今の引っかけたでしょ」

「素直じゃないアリエッタが悪いんだよー」


 その後、ニマニマと嬉しそうに俺たちを見てはからかってくるリューネの誤解を、アリエッタと一緒に解いてから、俺たち3人は朝食を食べに食堂へと向かった。

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