第8話 煉獄の業火 カラミティ・インフェルノ

「今度は俺から行かせてもらうぜ。神龍精霊ペンドラゴンよ、我に力を! 神龍の加護、ペンドラゴン・アペンド!」


 神龍精霊ペンドラゴンの強大な魔力が、黄金のオーラとなって俺の身体を覆い、身体能力がグンと激しく底上げされる!


 黄金をまとった俺は風に舞う粉雪のごとく、鋭い連撃を繰り出した。

 神龍精霊ペンドラゴンの魔力で大幅に強化された身体は軽やかで、放つ攻撃は鋭く重い!


 俺は30秒もかけずに、まずはアリエッタのレイピアを弾き飛ばすと、武器を失ったアリエッタに無数の連撃を叩き込む。


「くっ、速くて重い!? このおっ、舐めるな! ファイヤー・ガード!」


 アリエッタが炎のバリアを張った。


 炎属性は攻撃は得意だが、防御は不得手だ。


 ファイヤー・ガードは、そんな攻撃一辺倒の炎属性で唯一といってもいい防御手段

だ。

 しかも中途半端に攻撃をすると激しく燃え盛る炎で、手痛いしっぺ返しを食らうという、攻防一体の技でもある。


 しかし神竜剣レクイエムに付与された『否定』の概念魔法は、豆腐に包丁を入れるかのごとく、ファイヤー・ガードを易々やすやすと切り裂いた。


「無駄だ」

「くうぅっ! なんで! なんでなんでなんでーーっ!」


 レイピアを弾き飛ばされ、ファイヤー・ガードを切り裂かれたアリエッタは、魔力を防御加護につぎ込んでなんとか耐えようとするが、俺はその防御加護も難なく削り切ってみせた。


 まさに圧倒。


 LV99の神騎士は、おそらく世界でも最強クラスだ。

 ブレイビア学園に入学したばかりの姫騎士の卵が、勝てるような相手ではないのだ。


「俺の勝ちだ。降参しろ。別に俺は、決闘で命を取ろうなんて思っちゃいないからさ。勝ったからって無理なお願いもしない。約束する。だからここいらでノーサイドにしようぜ?」


 俺はへたり込んだアリエッタの喉元に、神竜剣レクイエムの切っ先を突き付けた。


「……」

 しかしアリエッタはというと、くぐもったように何ごとかを呟いただけだった。


 参ったと、言ったのだろうか?

 よく聞こえなかった。


「悪いが、決闘立会人のリューネに聞こえるように大きな声で言ってくれ。でないと終われない」


「私は…………から」

「え、なんだって?」


「私はアリエッタ・ローゼンベルク! どこの馬の骨とも知れないアンタなんかに! 男のアンタなんかには負けないんだからぁぁっっ!!」


「いや、負けてるだろ――っておい、何するつもりだ!?」


 アリエッタがカッと目を見開いて勢いよく立ち上がった。


 俺は慌てて剣を引く。

 っとと、危ないなぁ。

 俺の大切な推しの子に怪我をさせちゃうところだったぞ?


「私は負けない、私は負けない、私は負けない――私は負けない!!」


 アリエッタの足元に、巨大な魔法陣が浮かび上がる。

 同時に、アリエッタから強大な魔力の発動を感じ取った。

 本能が危険を察知し、俺は思わずその場から飛びのく。


「ちょ、落ち着けって!」


 しかしもはや俺の声はアリエッタには届きはしなかった。


「煉獄の焔天に集いし、漆黒の業火よ! 我が手に集え! 烈火を解き放ち、絶えなき災厄となりて、我が敵を焼き尽くすがいい!」


 詠唱と同時に、真上に突き上げたアリエッタの両手の上に、黒い炎が渦を巻いて集まってゆく――!


「この詠唱! それに地獄から噴き出してきたかのようなドス黒い炎! まさか、カラミティ・インフェルノか!?」


「許さない許さない許さない許さない! 私をここまでコケにして、絶対に許さないんだからぁっ!」


 アリエッタが真紅の瞳を怒りに染めて俺を睨みつける。


「おいおい、冗談だろ? カラミティ・インフェルノはSSランク。禁呪・奥義に分類される最上級魔法だろ! アリエッタが能力限界近くで使用可能になる、炎属性の最終奥義じゃないか! それをこんな初期の段階で使えるのかよ!?」


「さっきから聞いてたら、うちの家系に伝わる秘伝の禁呪魔法を、なんでアンタがそこまで詳しく知ってるのよ!」

「あー、いや。なんとなく……」


 おっと、しまった。

 そういやカラミティ・インフェルノは、アリエッタの実家ローゼンベルク家に伝わる門外不出の秘奥義なんだった。


「ほんとムカつく! なんなのアンタ! 男なのに姫騎士で! わけ分かんないくらいに強くて! ほんとなんなのなんなのなんなのなんなのっ!!」


「だから少し落ちつけって!」


 しかしその瞳を激しい怒りに染め上げていたアリエッタが、一転して苦悶の表情へと変わる。


「ぐぅっ、くっ! かはっ、ううっ――!!」


 同時に、アリエッタの頭上に集束しかけていた、破滅の厄災をもたらす漆黒の炎が、驚いてパニックになった馬のように暴れはじめた――!


―――――


暴走したアリエッタの魔法はどうなってしまうのか!?


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