第14話 図書館
次の日、シラハと相談してシエルが戻ってくるまでの間は、街でタクタハ国の情報収集をする事にした。
今度は離れ離れにならないよう、一緒に行動することをお互いに約束して。
まずは歴史や世界を知るために図書館へ行く事となる。
自分の城にあった本しかあまり読んで来なかったシズハにとっては、また1つ世界が広がりそうでワクワクしていた。
ある程度の規模の国であれば図書館は国が運営している事が多い。
だがシズハは自国の図書館すら行ったことがないのだ。
とはいえ今いるハルクートはシラハもそこまで詳しくはない。
いつもなら案内役のシエルが道案内をしてくれるからだ。
道端に立っている人に、図書館はどこか尋ねると快く行き先を地図で教えてくれた。
だがシラハは道を人に聞いたのにそのままその方向へ向かおうとはせず、違う店に入ると全く同じ事を店主に尋ねた。
するとその店主からはさっきの人とは違う回答が返ってくる。
どういうことか分からず、シラハの横で?マークを出しているシズハに、店から出るとシラハが説明してくれた。
「知らない、詳しくない国に来たら、誰かに道を聞いたりするのはいい。ただ、一人の人を鵜呑みにしたらダメなんだ。必ず目的地が合っているかどうか複数人に聞いてから判断するほうがいい」
「どうしてそんな事をするのですか?」
「土地勘がない人の行動は、その地域にいる人が見ればなんとなくわかる。悪事を働く奴らにとってはいいカモにしかならない。信じ切ってしまって、違う道に誘いこまれた場合、面倒くさくなることに間違いはないから、こちらも対策をしなきゃならないんだ。人は見かけによらないからな」
「なるほど…だからさっき最初に聞いた方と、このお店の店主さんは違う事を言ってきたということですね…」
「そうだ、果たしてどちらが正解か、次の人に聞きに行くことにしよう」
「もし他の方も違う事を言ってきたらどうするんです?」
「もし3人目に聞いて違う答えが返ってきたら、もうその国の危険度が高い事になってくる。それなら少し自力で歩いてみるのもいいさ」
シラハはそう言い、近くにいた人にまた声をかけると、その人は2度目に聞いた店主と同じ答えを返してくれた。
「よし、これで行き先は定まったから、あとは歩くだけだ」
「よかったです、図書館は誰でも中に入って大丈夫なのでしょうか?」
「だといいが…、そればっかりは言って見ないとわからないな」
そう二人で話をしていると、最後に質問した人から観光客も自由に出入りできると言われ、二人は胸を撫でおろした。
お礼を言いながら図書館へと進む。
街中の公園に隣接した、ゆとりのありそうな大きな建物。
入り口は神殿のように大きな柱が並んでおり、入り口の横には警備員と思われる人も二人立っていた。
しかし警備員は立っているものの、民間人の出入りは頻繁のようで、特に何か検査をされそうな雰囲気もない。
もしもの事があった時のためにいる警備員のようだ。
立派な入り口を通り中に入ると、受付をする場所が見え、どうやらチケットを購入しなければならないらしい。
決められた金額を払い奥へ進むと、図書館全体の配置図が壁に貼り付けられていた。
1階と2階に分けられているフロアは研究資料や娯楽だけでなく、生物や子供向けまでジャンルは様々だ。
海外についてのエリアを見つけ、1階の右奥のほうへと進む。
思っていたよりも広く各エリアに自習スペースが設けられており、ただ座って読むだけのベンチの他にもテーブル付きの物もあれば、周りが見えなくなる個室タイプもあるようで、ハルクートは学問にも力を入れていることがうかがえた。
目的地のエリアに到着すると、入り口にはわかりやすく海外エリアと表示されており間違いなさそうだ。
まずはタクタハについて語られている書物を探す事にした。
探しているにつれ、見た事や聞いた事のない国や地名を目にすると、シズハはいかに自分が世の中を知らないかを目の当たりにすることになる。
「こんなに沢山…国や地域があるのですね…。知らない事ばかりです」
「そうだ、俺もまだまだ行ったことのない国も多い。ただ、シズハの場合そういう機会も与えられなかっただろうし、今から知っていくのでも遅くない」
「そうですね、その機会を与えてくださった旦那様に感謝します」
「あった、タクタハだ。いくつかあるから3冊くらい持って行って、一緒に読もう。文字は問題なく読めるか?」
「大丈夫だと思います。それは城で教えてくれる先生がいらっしゃいましたので」
「ならいい、いこう」
少し分厚い本を3冊持ち、窓側の明るいテーブルのある席へ腰かける。
隣り合って座り、内容を確認しながら気づいた事があれば共有する形になった。
シズハが見ているのは、各地の観光名所の案内本のようだ。
美しい滝や大きな塔、花が咲き乱れる丘など、自国にこんなにも見所があるというのは少し嬉しい。
だが実際それをその目で見た事はなく、家族に言われた事だけを信じ生活してきた自分に少し腹立たしさや寂しさを覚える。
あの城にいたとしても、もう少し自分で変わろうとすることはできたのではないか…と。
『いけない、今はそんな自分の事を嘆いてる場合じゃなかった。何か他にないかな…』
ページをめくっていくにつれて、自分の城が描かれているページにたどり着く。
そこには王家の姫が所有する土地として紹介され、その地域に住む人以外の一般人や観光客は上陸できないとされていた。
ただ、船で近くへ見に行くことは可能で、立派な城と海を見たい観光客は後を絶たないのだという。
そして特産物として、地下から沸き出す水を商品として購入することができ、観光客に人気だとも書かれていた。
〈その水を飲むと病の進行が遅くなる〉や〈体にいい成分が含まれていて健康に良い〉等。
ただ、その水を購入するにはかなりの金額を支払わねばならず、購入できるのは貴族や金持ちくらいのものだろう。
その水が入手困難のため、窃盗しようとする人も多いのだという。
この本に記述されている事が確かなのであれば、自分の身体の知られざる病を水を飲む事で直そうとしていたという事は正しい。
ただ、どうしてその状況になったのかをシズハは知りたかった。
生まれつきそうだったのか、それとも生まれた後に発症もしくは何かきっかけがあったのではないかと。
「シズハ…こっちの本、歴史について語られているんだが、最近発行された本で、古い歴史だけじゃなく今の王についても語られている」
「本当ですか?」
今から15年程前、新しい王が統治することとなったタクタハだが、その際前の王は何者かに妃も共に暗殺されたようだと書かれていた。
その時にはもうすでにシズハは生まれていたはずで、本には新しい王がクローゼットの奥に隠されていた赤子を発見し、子として育てるようになったと記述されている。
新しい王は自分は先代の王に何かあった場合、自分が王となるよう申しつけられていたと書簡を取り出し国民に見せ、親戚の反対や国民の反対があったにもかかわらず王として君臨することとなった。
この本の内容によって、シズハが会っていたのは本当の両親でないことが確定する。
『そっか…やっぱり本当の両親じゃないんだ…。だから…一緒に暮らすの、嫌だった…のかな』
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