第12話 王位継承者のアイテム

昨日とは違う2人の部屋。

シエルはあの後、自分もお風呂に入るのでごゆっくり、と言って出ていってしまった。

シズハもシラハもお互いに話したい事は沢山ある。

せっかくならと、部屋に移って話すことにした。

シラハがベッドに座ると、シズハも隣に座るように言われ、寄り添うように座った。


「何があったのか話してほしい」


シズハは本屋での出来事からをシラハに伝えた。

自分のことを見つめていた老婆がおり、その後意識がハッキリした時は別の場所にいた事を。

そして、その老婆と話をした時に貰ったブローチを見せる。


「これは……」

「そのお婆さんから貰った物です」

「俺も同じようなモノを持ってる」

「えっ…?」


そう言ってシラハがカバンから取り出したのは、形と紋章は違えど同じ役割だろうオーナメントだった。

正式な王位継承者でないと光らないと言い、それはシズハが老婆に言われた事と同じだった。

試しに交換してお互いのアイテムを持ってみると、光らなくなった。

白羽言わく、これが正式に継承されているならば、盗まれたとしても本人の所に自然と返ってくるらしい。

どういう原理で動き判断しているのかは謎だ。

古い言い伝えによれば、自分こそが王に相応しいと暗殺や内戦を企てる物が多く存在した為、各国の王が魔術師に依頼をしたのが始まりで、その最終形態がシラハやシズハが手にしている物となる。


作り方は一切知られておらず、技術力があるシラハの一族ですらこのアイテムについては解読出来ないことが多いのだと言う。

ただそのアイテムとしての価値は高い。

これが手元にあるという事は、確実に自分が王位継承者であることを証明できるからだ。


「その老婆は他に何を話していた?」

「私が…この町に来ることを占いで知っていた事と、このアイテムを渡すためにつれてきたと…。渡された時とても安堵されていた感じがしました」

「自分の身分は明かさなかったんだな?」

「はい、どうしてこれを持っているのか聞いても答えてくれなくて…。案内された場所も今は住んでいないみたいで、空き家という印象でした」

「他に気付いたことや、言われた事は?」

「私の事を心配してくださったみたいで、初めて国を出た事を知っていて、不自由はないか?と。今一緒にいる…旦那様によくしてもらっていると言ったら、その人の傍を離れないように言われました」


離れるなと言ったわりには、シラハから離したのは当の本人のはずなのだが…。

ということは一度置いておき、シラハは頭の中で今回の事を整理しなおした。


「今回のこの出来事…偶然ではないと思うんだが、シズハはどう感じた?」

「そう…ですね、あのお婆さんも私の事を待っていたようですし…。でも本当にこれを渡すためだけだったんでしょうか…」


シラハは仮説を語った。

おそらくその出会ったお婆さんは、本当のシズハの祖母なのではないかと。

その王位継承者であることを示すアイテムは、貴重であり誰にでも渡せるものではない。

本来家族が引き継ぐのが普通だが、そのアイテムが王位継承者として望ましくないと判断した場合消えてしまうのだと言う。

今ここにアイテムが存在しており光っているということは、シズハは正当な王位継承者として認められていることになる。

お婆さんがいた場所がもともと住んでいたとはいえ、今は誰もいないような空き家だったことから、今は存命ではない可能性がある。

だとしたらそのアイテム自体にお婆さんの魂が宿っており、シズハに託すために待っていたという事も辻褄が合う。

少々強引な方法ではあったが、確実にシズハと二人の状態で渡したかったのだろう。

自分の孫と言う存在なのであれば、シズハの身を案じて離れないように言う事も納得がいく。


「私、自分のお祖母さんに…会ったことがないんです…。もしあの時知っていたら…もっとお話ししたかった…」

「おそらくこのアイテムを渡す事自体が使命だったのだろう。だから渡せた時に安堵したんだと思う」

「でもこれは…なぜ私なのでしょうか…?私は今はもう国を出ている身ですし、私の父や母に渡せばよかったのでは…」


おそらくそれを渡すにふさわしい人間がシズハだったからだろう。

ララシュトを出る前にシラハが王から聞いた、タクタハの王が本当の王位継承者でないのであれば、今回老婆がシズハにアイテムを渡したのもそういった理由があったからなのではないだろうか。


「シズハ、自分の両親や家族とどのくらいの時を過ごした?」

「えぇと、あまり一緒に過ごした記憶がなくて…年に一回、誕生日の時にだけ本国からきてくれるような感じでした」

「そもそもなぜあの島に居続けていたのか…理由は?」

「小さい頃から、母にこの島から出たら死ぬのだと教えられていました、でもあの島で取れる水を飲んでいれば大丈夫だと…」

「ちょ…とまて…、今は…?身体は…大丈夫なのか…?」


びっくりしたシラハに肩を掴まれ、シズハも同時にびっくりする。

あぁそうだ、大事な事を伝えていなかったとシズハは思い出した。


「あ…ごめんなさい、言っていなくて。今は大丈夫です、持ってきた水筒に水があるので、それを飲んでいました。でも…そろそろ補充しないといけなくなるかもしれなくて…」

「はぁ…水が切れる前にこのことを知れてよかった…」


水を補充しなければならないのなら、こればっかりは同じゲシックト族に頼むしかなさそうだ。

今島に戻りに行く訳にも行かない。

シラハはすぐにカロッソ宛の書面を用意し始めた。

どうやらシエルと一緒に取りに行ってもらう予定らしい。


「これから先飲む分くらいは確保しておきたい。どのくらいあったら足りる?1日にどのくらい飲むんだ?」

「1日一回…どのくらい…飲み続けていれば小さなコップでも大丈夫なので、100mlくらいでしょうか」

「そうか…それでも補充はできるように手配はしておこう。ちなみに今まで飲むのを忘れた事は?」

「ありますが…1日だけだと特に何もありませんでした。ただ習慣化してしまっていると、やはり飲み続けないと不安になります」


1日飲み忘れただけでは身体に変化はないのか…それとも気付いていないだけなのか…。

現段階では何とも言えず結論も出すことはできないため、シラハは自分の書面を完成させ、シエルへと渡しに行った。

一時的に一人になった部屋で、シズハは昔飲み忘れた時の事を思い出す。

確かに1日飲み忘れたでは何もなかったのは事実だ、しかし3日ともなると身体に変化が出始める。

身体の各所に黒い痣のようなものが浮かびあがり、身体のだるさ、痣の痛みがあり熱が出て、他人に触れられることが極端に怖くなる。

そのことを思い出したシズハは、シエルに書面を渡し終え部屋に戻って来たシラハに伝えた。


「それは…本当に、あの島の水が影響しているのだと言えるな。いつからだ?」

「私が物心ついたときにはもう、水を飲む事が習慣化しています。なので正確な時期はわかりません…」


もう一度隣に座り直したシラハが、シズハの手をとり握る。


「シズハ…もう他に何か言ってない事はないか?もし今忘れていても、思い出したらすぐ伝えてほしい。シズハの身体に何かあったら…」


心配そうに語りかけてくるシラハの顔を見て、シズハは自分と関わりのあった人の事を思い出した。

両親や家族よりもずっと、家臣や友達のほうがずっと心配してくれていた時の顔と重なったのだ。


「旦那…さま…ありがとうございます。嬉しいです、本当に…旦那様みたい」

「…っ、今は…家族だ!」

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