第12話 危ない関係

9月28日(火)昼休みに秋谷君からどうしても相談したいから今晩会えないかという電話があった。急な連絡なので会う時間が取れなかった。転勤者の送別会が設定されていたからだ。


「電話じゃだめか?」


「繊細な話だから会って話した方がよいと思って」


「明日の晩なら時間が取れるけど」


「相談の中身は例の話か?」


「ああ、彼女とのことだ」


「あれからまた会ったのか?」


「先週末にも会った」


「ええっ、会う頻度が高いね。大丈夫か?」


「そうだ。だから相談に乗ってほしい」


「分かった。明日、いつもの場所で7時にどうかな」


「すまんな」


秋谷君が切羽詰まって相談したいと言ってきた訳は想像できた。どう相談に乗ってあげたら良いか考えておこう。


◆ ◆ ◆ 

9月29日(水)居酒屋には7時前に着いたが、秋谷君はもうビールを飲んでいた。


「呼び立ててすまんな」


「いや気にするな。秋谷君らしくないな、急に相談に乗ってほしいなんて。それで中身は?」


「彼女がまた会いたいというので誘いに乗ってしまった」


「秋谷君もまんざらではないのだろう。断らなかったことから分かる」


「俺も彼女に惹かれているというか、それに応えずにはいられないんだ」


「それで彼女の気持ちを確かめたのか? この前話したように本気か浮気か?」


「実はそれを彼女の方から先に聞かれた」


「やはり同じことを考えていたんだな。どちらにとっても気になることだ。まあ、ちょうどよかったじゃないか。お互いに気持ちを確かめられれば。それで何と答えた?」


「浮気という言葉がしっくりこないけど、浮気と本気の間だと答えた」


「秋谷君の本心だと思うし、その気持ちも分かるけど、彼女に余計な期待をさせないようにはっきりと浮気と言ってしまった方が良かったかもしれないな。それで彼女の気持ちは? 何と言った?」


「彼女も俺と同じように考えていると言った」


「二人は似たもの同士だな。本気とまではいかないが、二人の関係をこのまま続けたいと思っている。できればより親密に、そう聞こえる。でも危なっかしいな」


「なぜかこのまま深みにはまってしまいそうで怖いんだ」


「秋谷君らしくないな。怖気づいているのか? もっとドライだと思っていたのに。自分の気持ちを制御できなくなっているのか?」


「どうしても昔別れたことが悔やまれて、彼女のことが頭から離れなくなっているんだ」


「二人の思いがそうなら、それに従うしかないだろう。もっと親密になって気が済むまで関係を続けるしかないだろう」


「やはりそれしかないのか?」


「そう思っているのなら、お互いにもっと冷静になるべきだ。でないと会う頻度がもっと増えて、周りへの気配りが希薄になって、二人の関係が露見しやすくなる。そしてそれが最悪の結果にもつながりかねない」


「忠告ありがとう。今日は話を聞いてもらってありがとう。気持ちの整理ができた」


秋谷君の気持ちは痛いほど分かった。どう気持ちの整理をつけたのかは話してくれなかった。でも二人の思いとその関係の継続に危うさを感じた。


やはり、僕と直美の二人の間の関係とは違っていた。僕たちはお互いにもっと冷静だ。それは別れ方によるものだと思った。どのくらい思いを残していたかだ。彼らの残した思いはもっと深刻なものだったに違いない。

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