第52話 第20層ボス部屋
青混じりの薄暗い第19層を抜け、今までの階層扉よりも大きな扉に手をかける。
扉が大きいのは10の倍数の階層である証拠。つまり、この階層の最奥にボス級魔物が存在する証拠だ。
それこそ今回のおれたちの目的。本来探し求めていたボス級魔物とは違うが、その真実を確かめにおれたちは来た。【地の
「開けるぞ」
右手に剣を携えたまま、少し重めの扉を左手で開いていく。
「第20層だ」
扉を開けた瞬間、冷たい風のようなものが吹き込んでくる。実際に風が吹いているわけではないが、雰囲気や圧を身を以て感じているのだろう。
「フィ、疲れているだろうが頼む。これが最後の階層だ」
「余裕よ、余裕! カケルこそMPは大丈夫なんでしょうね? 切れたらあたし戻っちゃうわよ?」
おれの残りMPは……40。これなら、
「大丈夫だ」
「わかったわ。じゃあ、いくわよ」
さっきまでみんなを励まそうとしていたフィも様子が変わり、余裕がなくなって見える。今のおれたちを信頼してないわけではないだろうが、勇者の時のパーティーではないからな。戦力を比較して自然と慎重になっているのだろう。
魔物の強さはもちろん、階層内での動きも変わるはず。おれたちはフィを信頼して付いて行くのみ。
おれは魔物の攻撃ををきんっ、と弾く。
噛み付き、毒針、体当たり……。
この程度のスピードなら<攻撃予測>でも十分見える。
「終わりだ!」
<
おれの<スキル>で宙を泳ぐ魔物は地面へと落下する。
耐久力の高さからこのぐらい強い<スキル>じゃないと倒せないだろう。
【アンガーエイ】、気性の荒いエイの魔物だ。【ゴーストシャーク】同様に宙を泳ぎ、ダンジョン内の壁を自由にすり抜けてくる。後方に持つ毒針にも注意が必要だ。
「ナイスだ、兄弟」
「任せとけ」
やはりこの階層に出る魔物は見た事のあるものばかり。出現する階層についてもおれの異世界での記憶と一致する。第19層からやたらと水や海に関する魔物が多くなり、それでボス級魔物が【水精霊王・ウンディーネ】だった。
じゃあどうしてこのダンジョンのボス級魔物だけ……。
「あと半分、ってところね」
「もう少しだね、頑張ろう」
フィの言葉に
一日で階層を突破するのでさえ、とんでもなく早いペースなんだ。こんなの正気の沙汰じゃない。
それでも立ち止まってはいられない。おれたちのために体を張ってくれた
「あとひと踏ん張りだ。行くぞ!」
「これが……」
「ああ、第20層ボス部屋だ」
階層扉よりもさらに大きく、中央には模様が描かれた扉。ボス部屋の扉だ。
「ここが正真正銘、最後だ」
後方を振り返り、フィを含めた六人で改めて決意を固める。
「
「もちろん。麗さんを助けるんだ。ここで目的の物が手に入らないとしても、その為になるならわたしはやるよ」
「私を守ってくれた麗さんを絶対に助けるよ」
最も疲弊しているであろう華歩と夢里が、ここにきて一番決意に満ちた目を見せる。これなら心配は無い。
「豪月、
「はっはっは、今更何言ってるんだ、
「僕も得たものはあった。全力で援護させてもらうよ」
二人も準備万端だ。
「フィ、何か気付いたことがあれば後方から教えてくれ」
「了解!」
左手で扉をぐっと持つ。
「いくぞ!」
扉を開け、パーティー全員で一斉に飛び込む。
ボス部屋の中、開いた扉の外から差し込む、僅かな光が照らす場所以外は暗闇だ。
「何も見えないぞ」
豪月がぼそっと呟く。
「……いいえ、いるわ。奥にね」
フィが言葉を発した瞬間、暗闇の中で宙に二つの光がぼんやりと灯り、ゆっくりと光が動く。光と共に目が慣れていくにつれ、その全容が明らかになっていく。
この光は魔物の
「デカい……」
焦りのような表情を見せる凪風が言葉を漏らす。
片膝を立てる武士のような姿勢から、徐々に姿勢を起こして立ち上がり、同時に部屋内が明るくなるなっていく。
──グオオオオ!
これは……間違いない、【地の鎮守・アースガルド】だ。
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