第50話 探索再開

 時刻は十時少し前。ダンジョン街のいつものカフェで、おれたち男三人はドリンクを飲んでいる。

 するとコンコン、と個室の戸を鳴らす音がする。


華歩かほたちかな」


「だね」

「だな」


 戸を開ければ予想通り、華歩と夢里ゆりだ。

 二人はいつも通り隣のテーブル席に着き、しっかり戸を閉めた後で話を始める。

 

「みんな、深夜はお疲れ様。作戦は成功と言って良いと思う」


「うん。侵入ももちろん、階層突破も迅速に出来たんじゃないかな」


 凪風なぎかぜをはじめ、全員から同意を得られる。


「その上でもう一度聞きたい。休憩時間は存分に取ったとはいえ、ここから先はさらにハードなものになると思う。それでも付いてきてくれるか?」


 おれの問いに、四人は一瞬の躊躇ちゅうちょもなく頷きを返してくれる。


「麗さんを一刻も早く治したい。こんなところで弱音を吐いていられないよ!」


「わたしたちを庇ってくれた麗さんを絶対に治さなきゃ」


 夢里と華歩はやる気満々だ。


「二人には付き合わせる形になってしまっているけど、良いのか?」


 豪月ごうつきと凪風はただの善意で協力してくれている。ここで引き下がっても文句は言わない。


「何を言っている。最後まで付き合うに決まってるだろ、兄弟。友が何よりも大事だとオレは思っているかな。助けるのは当然だ」


天野あまのくん、僕にも最後まで協力させて欲しい。務めはしっかりと果たすよ」


「二人とも……! よろしく頼む!」


 



 カフェにて魔物情報や陣形のパターン、その他今回の探索に必要な情報を再確認ののち、ダンジョン入口へと向かう。


 ! あれは……“JAPAN PUBLIC SERCHER”だ。腕を組む偉そうな人と、その部下らしき帽子を被った人。どちらもこの前第16層にいた人とは違う。ダンジョンに入っていく人たちに話しかけているみたいだが、検問でもしているのか?


 おれはその姿を見ても振り返ることはなく、ただ淡々と受付の列を進む。ここで振り返って何か話すことでもあれば、それは警戒対象になりかねない。みんなすでに気付いているはずだが、おれ同様に一切話そうとしない。


「ただいま第16層は階層調査の為、入ることが出来ませんのでご了承ください。では、いってらっしゃいませ」


 受付を済ませ、すでに定型句になっているであろうその言葉に軽く会釈えしゃくをして、いつも通りに転移装置ポータルへと向かう。

 “JAPAN PUBLIC SERCHER”の検問をしている人は転移装置ポータルの前にいる。


「すみません、昨日はダンジョンへ潜られましたか?」


 “JPS”の文字が刻まれた帽子を被った人による検問が始まる。答えるのはおれだ。


「はい、潜りました」


「こちらの皆さんと同じパーティーですか?」


「はい、そうです」


 ふんふん、と検問の人が頷く。メモをとっているようだ。


「では、第何層へ転移されましたか?」


「間違えて第16層へと行ってしまいまして。その後、階層を探索出来ないことがわかって引き返しました」


 転移装置ポータルは元はダンジョンから発掘された物。今の人の技術で履歴や転移先を調べる手段は無いのは分かっているが、嘘をついても良い事はない。


「ありがとうございます。今度は間違えない様お気をつけくださいね」


「わかりました」


 検問は終わったようだ。後ろも待っているため、おれたちはそのまま転移装置ポータルに手をかざして目的の第17層への転移を始める。おれたちの周りが光に包まれる中、


「……」


 腕を組んだ偉そうな髭面ひげづらの男がこちらをじっと見ていた。




 

「検問はちょっとびっくりしたね」


 華歩が周りに人がいないのを確認してから一息つきながら口を開く。


「大丈夫、だよね」


 夢里は少し不安そうにしている。


「大丈夫だ。今は切り替えて階層突破を目指そう」


「うん!」


 夢里は元気よく頷く。夢里も信じることにしたみたいだ。


「フィ、頼むぞ!」


「最近扱い雑じゃない!?」


 ぷんぷん、と両手を腰あたりに当てながらフィが登場。


「ごめんって。フィは目立ちすぎるからな」


「まあいいけど。それほど可愛いって事だもんね! さ、いくわよ!」


 勝手に解釈してすいーっと先に行ってしまった。許してくれたならまあ良いか。




 第17層。主に出てくる魔物は【スケルトン】、【リザードマン】だ。


 フィは時短の為、なるべく魔物がいないルートを辿ってくれるが、それでもどうしても魔物とぶつからなければならない時はある。

 目の前に現れたのは複数体の【スケルトン】。


「おれが出る!」


「僕も出るよ!」


斬刃スラッシュ


疾斬刃ヴォン・スラッシュ


 【スケルトン】に対しおれは芯を中心に斬ることで、凪風は持ち前の手数の多さでを切り刻むことで、【スケルトン】たちはあっけなくバラバラになる。……が、こいつらは数秒後には骨が組み合わさっていき、何事もなかったかのように反撃をしてくる魔物だ。


「華歩!」


「『上級魔法 豪火炎』」


 おれたちがその場を離れ、華歩が抑え気味の火球を三体のバラバラの【スケルトン】に向かって放つ。

 “骨をバラバラにした状態で『魔法』で討伐する”、これが対【スケルトン】の正攻法だ。最初から『魔法』を放っても、かわされたり持っている剣や盾で弾かれる可能性がある。


「ハァ……!」


「華歩、大丈夫か?」


 『魔法』を放ち、息をつく華歩に聞く。


「まだまだ、大丈夫だよ!」


「無理はするなよ。急ぐのは良いけど、それで華歩が倒れるのは本末転倒だ」


「わかった、ありがとう」


 いつもなら笑顔の一つでも見せてくれそうな言葉でも、華歩の表情は真剣そのものだ。今の彼女からは気迫すら感じる。良い事ではある。ただ、これが悪い方に転がらない事を願うばかりだ。


「よし、進むぞ!」


 懸念点けねんてんを自分でぬぐい去るように号令を掛け、パーティーはフィに付いて再び進み始める。


 【リザードマン】のような戦士的魔物に対してはおれや凪風、夢里がいればなんとでもなる。問題は魔法でしか有効打になりえない魔物。

 華歩の『魔法』は『上級魔法』だけあって、いくら抑え気味に撃っても消費MPはそれなりにあるはず。本人は大丈夫だと言っているが……。

 

 いざとなればを使うしかないな。

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