第38話 思いと約束
合同訓練とは、一年生のパーティーに一人もしくは二人の三年生が混じり、“東京ダンジョン”にてそれぞれ与えられた任務を遂行する訓練のことである。
探索科一年生にとっては、これが最初の行事だ。
国立探索者学校・探索科という環境の中で、二年間戦い抜いてきたその先輩の背中を直で見て学び、何かを掴むことで毎年これを機に伸びる生徒も少なくないという。
そんな中で
彼には願ってもいないチャンスだった。
そしてそれ以上に喜んでいる者が一人、
「ねー! ほんとやばいんだけどー!」
「あはは……。
夢里だ。
彼女は登校初日に見せた姿にもあった通り、清流麗の大ファンらしい。
「だってあの清流 麗さんだよ! もう、ほんと待ちきれない!」
「でも、わたしも嬉しいよ。あの清流 麗さんとパーティーを組めるんだもん。楽しみだね」
「ああ、来週が楽しみだ」
★
合同訓練本番の日。今日は校内には入らず、東京ダンジョン直行のバス前に集合している。当然、
「今日はよろしく頼むぞ。夢里、華歩、翔」
「いきなり呼び捨てなんて! わ、私たちは何とお呼びすれば!」
絶賛大興奮中の夢里。
「私は麗でも良いんだがな。君達が呼びにくいだろう。麗さん、とでも呼んでくれ」
「わかりました。よろしくお願いします、麗さん」
「れ、麗さん……あわわ」
周りを見ればもちろんおれたちだけでなく、それぞれ振り分けられたパーティーが担当の三年生と挨拶を交わしている。
同じパーティー内ではコミュニケーションは必須だからな。さすがは三年生、馴染むのが早い。
「私たちも乗ろうか」
「「はい!」」
★
“東京ダンジョン”入り口前にて、任務の最終確認を行う。
「今回私達に課せられた任務は第15層【ダークスパイダー】の討伐だ。君達三人の事は事前に聞いている。普段から同じパーティーで潜っているのだろう? 連携なんかは私が口を出すことではないだろう。私が君たちに合わせる形で進んでいこう」
「「「はい!」」」
「では、他に何か聞きたいことはあるか?」
おれは特にない。が、隣で夢里が控えめに手を上げる。
「どうした、夢里」
「あの……直前で聞くのもとは思うのですが、第15層の中ボス魔物なんて、そんなにスムーズに倒せるものなんでしょうか」
夢里が少し不安げに麗さんに聞く。
それもそのはず、おれたちの最高到達層は第13層だ。
「そうだな。不安もあるかもしれないが、いざとなれば私一人でも難なく突破できる程度の魔物だ。だから安心して、精一杯自分の力を発揮するんだ」
「は、はい!」
夢里の顔が一気に明るくなる。麗さんの実力は言うまでもなく、リーダーシップという点でも見習うものがある。おれはこうゆう点は得意ではなかったからな。
「では、いくぞ」
第14層を抜け、第15層の最奥を目指してひたすら進む。
おれ・華歩・夢里の三人にとっては初めての第14層だったが、麗さんもいることから何の問題もなく突破することが出来た。
「!」
「どうした、翔」
「いえ」
少し立ち止まったおれに声をかけてくれる麗さん。
この胸の中から何か出てくるような感覚は、
「ひっさびさの登場! フィちゃんだよ!」
フィだ。こいつ、毎回おれのMPを勝手に消費して出てきやがる。なお、彼女自身もその理屈は未だ不明。
「ひっさびさって。ダンジョンに潜ってる時はいつも一緒にいるだろ」
「もー気分よ、気分! わかってないわねえ」
「ほう、
フィに興味を持った麗さんがフィに近付く。
「な、なによあんた!」
「私は清流 麗だ。今はこの三人とパーティーを組んでいる。よろしく頼む」
「ふ、ふん。まあいいけど」
これは、なんだかんだすぐに
「……」
清流 麗。麗さん。近くで見ると身長はさほど大きくはなく、むしろおれの方が少し大きいぐらいだ。
だが、やはり
この人を見ていれば見ているほどに思う。いや、もしかしたらこの人を初めて見たあの時から、おれはずっと思っていたのだろう。おれは麗さんと……
「どうした、私のことをじっと見て」
「えっ? あ、ああ、いえ! なんでもないです」
まじかよ、今フィと
「言いたいことがあるなら先に言っておくべきだぞ?」
「あ、いや、そのー」
今思っていたこと、それを浮かべると自然と言葉が出てきた。
「麗さん、これが無事に終わったらおれと模擬戦をしてください」
「翔!」
「かーくん……」
夢里と華歩はおれの急な言葉に驚いている。
「良いだろう。君のように年下から受けるのは初めてだが、向上心のある者は好きだ。楽しみにしておこう」
「ありがとうございます」
麗さんはおれの顔をしっかりと見て、受け取ってくれた。
「だがその前に、この任務を達成しなければな。気を抜くんじゃないぞ」
いよいよか。
第15層、中ボス部屋前。ここまでは麗さんもいるおかげでスムーズに進めることが出来た。約束した麗さんとの模擬戦のためにも、合同訓練の任務を達成する!
「さあ、この先にいるのが【ダークスパイダー】だ。君達の力を見せてくれ」
「「「はい!」」」
中ボス部屋、【ダークスパイダー】の巣がある部屋の大きな扉を開く。
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