第21話 『魔法』

 「夢里ゆり、一歩遅いよ! それじゃもっと深層のモンスターにはとっくにみ千切られてる!」


「ひいっ!」


華歩かほは距離の管理が甘い! そこは中衛の距離じゃない!」


「は、はいっ!」


 おれが<受け流しパリィ>で相手の隙を作る。


「二人とも!」


「おっけい!」

「うん!」


 二人の攻撃はまだ<スキル>として成立していないが、【グリーンスライム】は小さな粒々に分解される。筋は良いから、動きを洗練させていくことで完全な<スキル>として習得することが出来るだろう。


「よし。この辺で一旦ドロップアイテム回収しよっか」


「「はーい」」


 第3層。おれが魔物をはじくのみに徹し、攻撃はなるべく夢里と華歩が行う形で魔物を狩っている。


 さっき提案したのは、おれが二人に<スキル>を教え、それを繰り返し真似することで、二人に<スキル>を習得させる手伝いをすることだ。

 おれは数多の<スキル>を持つが、現状それを持て余しているだけであり、彼女たちに<スキル>を教えることでその使い道を探した。


 まあ、可愛い女の子が二人「強くなりたい」と言ってるのなら協力したい、ただそれだけでもあるわけだけど。


 本当は華歩には『魔法』を授けてあげたい。“魔導士”は主に上がる<ステータス>がMPや魔力だという。『魔法』に関する<ステータス>がどれだけ上がろうと、肝心の『魔法』を持っていないのでは意味がない。


「どこかに“『魔法』の書”が落ちてれば良いんだけどなあ」


 『魔法』だけは自身の力で得れるものではなく、“『魔法』の書”を手に入れる必要がある。


「え、あるわよ」


「ぶっ――! ちょ、おま、はあ!?」


 衝撃の発言をしながらふいに現れたのはフィだ。こいつ、いっつもおれのMPを勝手に使って出てきやがる。

 おかげでMPが0だよ。まあ、初級魔法ですら使えなかったちっぽけなMPには変わりないけどさあ。


「どうしたー、勇者気取りさん」


「気取りじゃねえっての!」


 夢里と華歩が少し向こうから戻ってくる。

 ドロップアイテムの回収も終わったみたいだ。


「あ、フィちゃんだ。今日もかわいいねー」


 華歩がフィをでる。女子って小さいもの好きだよな。


「っとそうだ。おれにも教えてくれよフィ。どこに“『魔法』の書”があるって?」


「え!?」

「“『魔法』の書”!?」


 二人が驚くのも当然だ。華歩は今一番欲しいものだろうし、夢里も実際に見たことはないと言っていた。


「てゆうかあんたたち気付かなかったの? 普通にあの【ホブゴブリン】の“隠し部屋”にありましたけど?」


 これだから素人は、などとほざいて首を横に振るフィにデコピンをする。


「いたっ! ちょっと何するのよ!」


「お前が悪い」


「ぐぬぬぬ、わかったわよ! 案内すれば良いんでしょ、案内すれば!」


「よくお分かりで」


「こっちよ! まったくレディの顔に傷付けるなんてどうゆう神経してるのかしら」


 ぷんぷん、とまたもや自分の口で言いながら先導するフィ。

 頼りになるんだけどなあ。ならないんだよなあ。








「はいここ! さっさとやっちゃって!」


「ういーっす」


 軽い返事と共におれは【ホブゴブリン】の背後に……以下略。


「はえ~。やっぱ強いなあかける


「うん。かーくん、あ、かける君は強いよね」


 【ホブゴブリン】を倒して、“隠し部屋”に侵入する。ここには基本強モンスター以外は沸かない。一旦【ホブゴブリン】を倒したから、部屋の扉を閉めておけば大丈夫だろう。


「えーとね、どれどれ」


 フィが動き回って探している。


「あ、あったわ! これよこれ!」


「「「どれ?」」」


 フィは“隠し部屋”の最奥、紋章が描かれた教壇のような台座の上を指す。しかし、おれたち三人には何も見えないことから、揃いもそろってまぬけな声を出した。

 おれは転生してからフィに出会うまでが短かったのもあり、視覚系<スキル>は習得するのをさぼっているんだよね。


「はい、じゃあ素人のみなさんに今から手品を見せまーす」


「早くしろ」


「わかったわよ! せっかちね! じゃあ、はい!」


 フィはその小さな羽をひらひらと動かしながら台座へと移動する。


「フィちゃん?」


「しっ、今話しかけちゃダメだ」


 この様子は幾度となく見てきた。フィの体に徐々に光が集まり、段々とまぶしくなっていく。フィが“案内妖精ガイドピクシー”としての力を発揮する場面だ。




 フィが目をつむり一分ほど。ようやくゆっくりと目を開けたフィは、紋章が描かれた台座の上をその光を帯びた小さな手で触れる。

 すると、台座の上から描かれたものと同じ紋章が浮かび上がってくる。


 この風景、間違いない。

 ここに“『魔法』の書”が出現する。


「はい、これよ」


 浮かび上がった紋章が書を形作っていき、台座の上に“『魔法』の書”が現れる。


「すごい、こんなことが……」


「これじゃあ華歩や前に“隠し部屋”を空けていた人が書を見つけられなくても仕方がないよ」


 フィと同じぐらいの大きさの“『魔法』の書”を、開いた状態でフィが精一杯運ぶ。


「これは案内精霊ガイドピクシー以外には、それなりの“素質”があるものにしか出来ないわ。こんな序盤の層で“隠し部屋”に気付ける存在がそういるはずもない。もし気付けたとしても、ここで【ホブゴブリン】に喰われるか何も見つからないかの二択ね」


 フィはいつもとは違った様子で語り掛ける。やはり、こいつはこう見えても立派な案内精霊ガイドピクシーなんだ。フィはフィなりに役目をまっとうしている。


 フィは開いた書を運びながらおれの前で止まる。


「この“『魔法』の書”の持ち主は【ホブゴブリン】を倒した者に設定されているわ」


「だろうね」


 華歩が残念そうな気持ちを必死で隠している。おれへの気遣いだろう。


「華歩に譲るよ」


「えっ」


 おれの言葉に彼女は顔を上げた。


「おれが持ってても宝の持ち腐れだよ。この中で一番授かるべきは華歩だ」


「い、いいの?」


「もちろん」


 フィはわかってましたよと言わんばかりの横顔で華歩の前まですーっと移動する。


「今、カケルからこの書は譲渡されたわ。さあ、手を触れて」


 華歩はもう一度おれの顔を見た。おれが頷くと、華歩はようやく決心したようだ。


「うん……」


 目に見えてごくりと唾を飲んだ華歩は、フィの言う通りに書に手を触れる。


 “『魔法』の書”は煌々こうこうと光を放ち、その光は華歩を囲むように彼女の周りで渦を巻く。そしてやがて、その光は華歩に取り込まれていった。

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