第7話 幼馴染

 の時間軸、ダンジョン深層。


──グオオオオォォォォ!!


 あるパーティーが超大型の魔物と対峙していた。


「ったく、オレの弱さが嫌になるぜ! こんな時カケルがいてくれたらなあっ!」


 パーティーの最前衛を張る盾役タンクであり兄貴面の男が、魔物の攻撃を弾くと同時に自身の大きな盾で重い一撃を入れる。ボス級魔物の巨大な熊はよろめく。


「その話はもうしないって言ったでしょ! もう行ってしまったものはしょうがないんだから!」


 後衛で“回復役ヒーラー”兼支援役サポーターとしての役割を持つ女性は、パーティーが崩れないよう全体へ回復ヒール強化バフをかける。


「にしても、この程度のダンジョンの魔物がどうしてここまで強くなっている? 前までと同じなら俺一人でも攻略できたはずだが」


 このパーティーの現火力役アタッカーである細身の男が冷静に述べるも、ここに答えも知る者は誰もいない。


「知らねぇよ! 追放されたオレたちへのさらなる報いってか?」


「ほんとにね! カケルがいなくなった途端、ワタシたちに冤罪を押し付けて。あの大臣、何考えてるんだか! 信じる周りも周りだけど……ねッ!」


 中衛役である女の子が言葉の最後と共に放った蹴りによって、パーティーを阻んでいた巨大な熊は倒れる。

 

「ふう、こんな奴に手こずるとはな。オレたちも鈍ったか?」


「そんなことはないと思うけど……って、え、なにこれ」


「なになにー、どうしたのー。ん?」


「「<ステータス>?」」


 彼らと彼らが“カケル”と呼ぶ人物が再び会うのは、まだまだ先のことである──。








「よし、今日も行くか」


 学校が終わり、一早く下駄箱まで着いたおれの足は今日もダンジョンへと向かう。初めてダンジョンへ潜った日から、放課後はダンジョンに行くのが今の日課だ。


「おい、そんな嬉しそうな顔してどこ行くんだ?」


「ん?」


 後方から声をかけてきたのは同級生たちだ。


「別に」


 振り向くでもなく雑に返事をする。

 こいつらに構ってる暇はない。さっさと行くだけ。だが、


「聞いたか、こいつ最近ダンジョン街にいたらしいぜ」

「まじかよ、この能無しが?」

「おい言ってやるなよ、こいつにもちゃんと“無職業ノージョブ”っていう立派な職業ジョブがあるんだからよ」

「「「はははは!」」」


 やっぱりか。朝からずっとこの話題だ。噂ってのはどこかしらから回ってくるのなのだろう。まあいい、もう行こう。


「ちょっと! またそうやってからかって!」


「んだよ、口出してくるんじゃねえよ、白けるなあ。ちっ、いこうぜ」

「ああ、つまんな」


 同級生たちは声を上げられたことから、舌打ちをして離れていく。

 おれをかばってくれたのは華歩かほだ。ぼそっと「ありがとう」とだけ口を動かしてそのまま玄関を出る。


「ちょ、ちょっと! まってよ!」






「さっきの話、本当?」


「だ、ダンジョン街にいたって話?」


「そっ」


「……ほ、本当だけど」


「へえ、君がねー」


 学校の玄関を出た先、華歩は小走りで追いついてきた。彼女は、右のこめかみあたりが少し長めの、綺麗な黒髪アシメショートカットをなびかせている。そんな髪を耳にかけながら彼女は話しかけてくる。


 彼女は小日和こびより 華歩かほ。保育園、小学校、中学校とずっと同じで、家も近所のいわゆる幼馴染というやつだ。

 中学で一度もクラスが同じにならなかったこともあり、最近では疎遠気味になっていた。いや、素直に認めるなら、おれが自分に自信がなくて遠ざけていた存在だ。


 なにせ、かつてはおれの初恋だった人だ。今のかっこ悪い自分を見せたくなかったというのはあるだろう。


「あいつらの事なんて気にしなくていいからね! またちゃんと言っておくわ! それと実はわたしもね……ううん、やっぱりなんでもないや。じゃね」


 舌をペロっと少し出してそう言い残した彼女は、そのまま走り去ってしまった。


 かわいいな。

 彼女のその後ろ姿を眺めながら、久しぶりに話すことが出来た嬉しさと、すぐに行ってしまった切なさを同時に感じていた。


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