異世界の料理本

バルバルさん

冒険のお供にシチューはいかが

 荷物持ちの職を選ぶ時は、まず信頼できるギルドで雇う事。そしてうまいシチューを作る事。この二つは最低限抑えておけ。

~冒険者学校教諭 ゼッシー師~




 冒険者学校の料理実習で最初に学ぶことはシチューの作り方だ。

 この実習をまじめにやるかやらないかで、学校の卒業試験である『遠方冒険実地試験』の難易度が格段に違うほどに重要な実習なのだが、意外とそのことに気が付く生徒は少ない。

 旅の途中、特に長期の旅になるほどに冒険を生業にする者の口にできる食料の種類は少なくなり、一般的な保存食では食事に飽きが出てくる。

 そんな中、この料理が作れるか作れないかで、旅の士気は大きく違うのだ。

 特に寒い地方や寒い砂漠の夜の時間帯に食べる暖かなシチューほどありがたい物はない。

 ぜいたくを言えば、冒険者のパーティ全員がこれを美味しく作れればいいが、そうもいかないのが現実なので、長期の旅には、一人はこの料理を美味しく作れる人材がほしいところ。

 特に、荷物持ちの人材を探す際には、シチューを作らせてみるのがいい。

 旅の物資を調整する荷物持ち職の者は、食料の管理技術の高いものを雇いたいが、食料をうまく管理できるかと、限りある食材で美味しいシチューを作れるかは関係しているのだ。


 以下に学校で教わるシチューの作り方を記しておく。この作り方は旅中に作るにはかなりリッチな内容だが、ここから派生させる技量と想像力もまた、冒険者には必要だ。




●材料:グアー牛肉

    塩

    食用油

    小麦粉

    肉出汁粉

    ブラックビール

    保存の効く野菜(ニルジン ジュゴーソテト アーニアン)


●調理法


・大きめの器にグアー牛肉の角切りと小麦粉、塩を入れ肉に下味をつける。この時、香辛料があれば最高だが、香辛料を手に入れるくらいなら良い盾や武器を買おう。


・調理用鍋の上に食用油を塗り、下味をつけた肉を焼く。この時点での肉を食うのはよほどの腹ペコかバカでない限り悪い選択肢だと知ろう。


・焼いた肉入りの鍋に、ブラックビールを注ぐ。水でも代用可能だが、美味しく作るならブラックビール一択。酒飲みの仲間からは調理用ブラックビールを死守せよ。


・ここで肉出汁粉を入れるとぐっと味わい深くなる。少々高価な調味料なので手に入れるかはお好みで。入れない場合は塩を多めに。


・肉の焦げ目などをブラックビールに溶かしつつ、二時間ほど煮る。シチューを作るなら移動しない夜なので、時間はたっぷりかけたほうが美味しくなる。


・カットした野菜を入れ、さらに三十分ほど煮込む。野菜のカットはアサシンなど小さい刃物使いの上手い仲間にやってもらうといい。恐らく、大いに嫌がるだろうが食事という脅し道具で説得しよう。


・器に盛る。この時、出来れば木製の器や食器にした方が味わい深い。金属製の食器だと、金気が移り味を損ねやすい。






以上。


 この食材を肉から魚にしたり、野菜の種類を変えたりと色々してみると良い。

 あまり上等な職業に見られない荷物持ちも、仲間の胃を掴んでおけばそうそうお役御免などされないだろう。


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