第147話 石の背中ダンジョンと喜びの舞い
【3月1日】の朝、後期試験が終わり僕とミカとヴィア主任とサイドさんは北の中心都市であるコンゴに向かった。
北の中心都市コンゴは王都センタールから馬車で7日間の距離である。コンゴの北にはカンダス帝国が位置しており、戦争の最前線になりやすい。
コンゴの街の城壁は高く、重厚感を感じる。また気候が寒いため、お酒は蒸留酒などのアルコール成分が高いものが好まれている。
コンゴの騎士団は実戦経験が豊富であり精強だ。金属性の魔法を使い【絶対防御】の異名をもっている。
【3月7日】の夕方、北の中心都市のコンゴに到着した。
コンゴの南から重厚な門を馬車で通る。少し薄暗い曇りの天気がより重々しい雰囲気を醸し出していた。
冒険者ギルドの前に馬車を止めてもらい降りる。冒険者ギルドは黒い煉瓦造りの建物であった。
軽く気後れしながら冒険者ギルドの中に入ると、一斉に注目をされる。
コンゴは金属性の人が多い街だ。金属性は黒色から灰色の髪色になる。平民は黒に近い茶色である。コンゴで水色や青色、緑色の髪色は珍しいのだろう。
周囲の目を気にせず受付に黄金製のギルドカードを提示する。
すぐにギルド長と面会の運びとなった。
2階のギルド長室に案内される。ギルド長は軍人の様な格好をしている。実際に軍人かもしれない。無骨な印象を受ける。
「私は冒険者ギルドコンゴ支部ギルド長のダムズだ。この度は3人ものBランク冒険者がコンゴに来ていただいてこんなに喜ばしい事はない。ここコンゴはカンダス帝国との戦争で最前線になる場合があるから注意はしてくれ」
「了解いたしました。コンゴには2週間ほどの滞在予定です。戦争に巻き込まれないように注意させていただきます」
「そうしてくれるとありがたい。冒険者は民間人だ。戦争をさせるわけにはいかないからな。家と専属の職員を付けさせてもらう。頑張ってダンジョン活動してくれ」
そう言ってギルド長は職員を呼んできた。僕たちの専属職員となる職員だ。
ギルド長室に入ってきた女性の背筋はピンと伸びている。
こちらも軍人?
「冒険者ギルドコンゴ支部総務責任者のアイリです。アキ様のパーティがコンゴに滞在している間は私がサポートをさせていただきます。どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
「それでは用意した家に案内させていただきます。冒険者ギルドからそれほど遠くありませんので歩きになります。私についてきてください」
ギルド長に別れの挨拶をし、アイリさんの後に続く。
案内された家は広い素敵なリビングで一発で気に入った。庭も綺麗に整えられている。お風呂も広くゆったりと入れそうだ。
喜んでいる僕を見てアイリさんが説明する。
「こちらはアキ様がBランク冒険者になった情報が入ってすぐに改築した家です。必ずコンゴに来られるからとギルド長が言ってまして」
なんと、僕が来るから家を改築したのか!
「とても気に入りました。ギルド長にはよろしくお伝えください」
「アキ様に気に入っていただき嬉しく思います。この後、晩御飯をお作りしてよろしいでしょうか? 何か苦手なものがございましたら教えてください」
「メンバーの一人が香辛料が効き過ぎるとちょっと苦手です。あとは特に苦手なものはありませんね」
「了解致しました。それでは料理をさせていただきます」
アイリさんはすぐにキッチンに行った。
パーティメンバーはリビングに集まり明日の予定を話し合う。
「明日はCランクダンジョンの石の背中ダンジョンだな」
ヴィア主任が言う。
王都に入る間にコンゴ周辺のダンジョンは調べておいた。MAPも既に購入している。
僕が頷く。
「コンゴの石の背中ダンジョンにはストーンゴーレムが出る。スピードは遅く、火の魔法に弱いから蒼炎の魔法をまず試してみよう。後期試験があったから蒼炎のコントロールがダンジョン内でできるか確認していない。そこも試してみよう。その後に火属性の武器の【鳳凰装備】を試してみる感じだ。問題があれば撤退するからな。各自ポーション類の確認と装備の確認をしてから寝てくれ」
ヴィア主任の流れるような説明と指示に、僕は「素敵!」と思っていた。
やっぱり指揮ができる人がいると安定感が違う。ヴィア主任が一緒のパーティに入ってくれて本当に良かった。
「晩御飯ができましたよ。皆さん、明日からいきなり石の背中ダンジョンに行くのですか? さすがにBランク冒険者は違いますね」
アイリさんは僕たちの打ち合わせを聞いていたようだ。ダイニングテーブルに食事を並べながら話してくる。
僕が話を返す。
「初めて行くダンジョンですので注意はしないと駄目ですね」
「コンゴの石の背中ダンジョンはまだ制覇されていないダンジョンですからね。ストーンゴーレムが硬すぎて誰も倒せないですから」
モンスターが倒せないと魔石が出ない。
冒険者にとって意味の無いダンジョンになってるわけだ。
「それよりこちらがコンゴ名物のお酒です。コンゴールと言う蒸留酒になります。是非飲んでみてくださいね」
そう言ってお酒を勧めるアイリさん。サイドさんが飲み過ぎなければ良いなと思う僕だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
次の日の朝、サイドさんは晴れやかな顔で起きてくる。冒険者をやってると、お酒を飲む機会が増えたようで前よりお酒に強くなったようだ。
馬車を借りてCランクダンジョンの石の背中ダンジョンに向かう。コンゴの西門から3キロルほどの距離だ。
コンゴの街では至るところで騎士団が鍛錬している。休戦中とはいえ、戦争の最前線になる可能性があると感じる。
3月末だが日陰には少し雪が残っていた。
それでも太陽の日差しに春を少し感じる。
石の背中ダンジョンに入ると薄暗い空が広がっている。
道は土で所々に草が生えていた。
アクロの沼の主人ダンジョンの泥ゴーレムは異名が【火の魔術師殺し】だったが、ここのストーンゴーレムは【不沈人形】の異名がある。
正面50メトル前からストーンゴーレムが歩いてくる。とても遅い。体長が3メトルほど。コアは頭か胸かな?
ヴィア主任が声を上げる。
「アキくん、蒼炎だ。最大火力で試してくれ」
僕はゆっくりとストーンゴーレムに向けて蒼炎を撃ちこむ。
【焔の真理、全てを燃やし尽くす業火、蒼炎!】
ストーンゴーレムの胸に当たる。
僕は蒼炎に向けて大きくなるように願った。
蒼炎の半径が5メトルほどになり、ストーンゴーレムは全て白い灰に変わる。
やはり蒼炎の大きさをコントロールできていた。
「蒼炎の大きさのコントロールはできるみたいだな。もう少し試してみよう」
ヴィア主任の指示通り、その後3体のゴーレムを倒した。蒼炎のコントロールはしっかり出来ている。
「よし、それなら次は武器で倒せるか試してみよう。ゴーレムのコアは胸の可能性が高い。次が頭だ。他はほとんどないと言われている。そこに注意してやってみよう」
まずはミカが【鳳凰の剣】で試してみる。
腕を斬り落としてから軽く飛び上がり胸を刻む。コアが破壊されたようでストーンゴーレムの身体が崩れていく。
「ミカくん、どんな切れ味だった?」
「とても柔らかく感じましたよ。抵抗がほとんどないです」
「じゃ、次は私の番か」
ヴィア主任は【鳳凰の細剣】を構える。前方に現れたストーンゴーレムに肉薄した。
ストーンゴーレムの大振りな右パンチを軽く避け飛び上がる。
胸に連続突きを放った。すぐにストーンゴーレムが崩れ落ちる。
「問題ないな。あっさり倒せるもんだ」
「じゃ次は私がやりますね」
そう言ってサイドさんが【鳳凰の剣】を右手に構える。サイドさんはストーンゴーレムを見つけると凄い速さで近づいた。
両足を一刀両断! そのまま両腕を斬り落とし、頭から胸まで唐竹割りにする。簡単に崩れ落ちるストーンゴーレム。
僕は呆然としてしまった。
焦土の渦ダンジョンで青い顔をしていたサイドさんはもういない。
サイドさんは凄腕の冒険者になっていた。
ここで今日はどうするか話し合った。
蒼炎の魔法は問題なく効く。火属性の武器も大丈夫だ。ストーンゴーレムの足も遅いため最悪逃走も可能。
全員賛成でダンジョン制覇を目指す事になった。
ストーンゴーレムの出現率は高くなかった。魔石的にはそれ程美味しくない。
淡々とダンジョンの奥に進んでいく。
途中からミカとヴィア主任のストーンゴーレムの取り合いが始まった。そこにサイドさんが参戦する。
いい大人が無邪気に遊んでいた。まぁ危なくないから良いか。
僕はそれを見ながら周囲を警戒して進んだ。
途中からお決まりのようにF級モンスターのカーサスが襲ってくる。今更の敵だ。
3階層のストーンゴーレムは少し大きめだ。でも変わらないスピードと硬さ。
問題なく3人はストーンゴーレムの取り合いをしている。
4階層のストーンゴーレムは少しだけスピードが上がった感じがする。
それでも危なげなくストーンゴーレムを屠っていく3人。
5階層のストーンゴーレムは岩の質が変わっていた。もしかして硬くなったりしているのかな?
普通に倒すのに飽きているのかミカはストーンゴーレムを切り刻みまくっていた。
6階層のストーンゴーレムは5階層と同じ。
ミカが僕の隣りに来た。もうストーンゴーレムの相手は良いらしい。
6階層の奥に行くとボス部屋の扉があった。
ここでボス戦の作戦を練り直す。初回のため、僕の蒼炎で倒す事にした。
やっぱり遠距離攻撃は安全だよね。
扉を開けると部屋の中央に5メトルほどの黒石のストーンゴーレムがいた。
こちらには気が付いていない。すぐに蒼炎の魔法を詠唱する。
【焔の真理、全てを燃やし尽くす業火、蒼炎!】
蒼炎に大きくなるように願う。
腹の辺りに直撃した。
蒼炎は半径5メトルほどになり黒石のストーンゴーレムを全て包んだ。
そしてB級魔石と宝箱に変わった。
僕はB級魔石を拾うとマジックバックに入れる。
横ではサイドさんがミカを羽交い締めにしている。これ以上、何もしないでミカに宝箱を開けられる訳にはいかない。
マジックバックから手で叩く太鼓を出す。僕は独特のリズムを奏でる。
それに合わせヴィア主任が剣舞を舞う。エンバラに伝わる喜びの舞いだ。
この日の為に隠れて練習してきた。
太鼓のリズムがクライマックスを迎えた時、舞いながらヴィア主任が宝箱を開ける。
宝箱の中身は黒いレイピアとダンジョン制覇メダルが入っていた。
黒いレイピアを左手に持ち、二刀で舞ったところで終了!
完璧だ!
これぞ魂の宝箱の開け方だ!
僕とヴィア主任は抱き合って喜んだ。
横ではミカが少し冷たい目で僕たちを見てた。
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