第135話 心からの謝罪【シズカの視点】

【第132話〜第134話】


 アキはファイアーボールを人に向けて撃ったガンギを騎士団の詰所に連行する。

 私はここぞとばかりにガンギを悪し様に罵った。ガンギの評価が落ちれば落ちるほど婚約の破棄又は解消に近いと思っての事だ。

 しばらくすると父が騎士団の詰所にやってきた。私は経緯をしっかりと話す。

 あとは婚約解消を待つだけだろう。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 納得がいかない! どうして婚約が継続なのよ! ガンギの罰が1年間の謹慎ってなんなの!

 誰が人に魔法を撃つ奴なんかと結婚したいっていうの!


 ファイアード家では私の言葉は虚しく響くだけだった。

 何でもガンギを唆したのがカイ・ファイアージだったみたい。それで全ての責任をカイに転嫁してしまって終わらせようとしている。

 納得ができない。どうすれば良いのだろうか?


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 もうアキに頼るしかない。できれば過去の事も謝りたい。私はアキのボムズの拠点にしている家を訪ねた。


 アキの顔を見たらホッとした。その為か、ガンギと父親の対応について改めて怒りが湧いてきた。


「信じられる! 人に魔法を撃っといて何なの! ガンギはイカれているわ! 何故、あんなのと結婚しないといけないのよ! 何故、婚約破棄にならないの!」


 言葉がさらなる怒りを呼ぶ。気がつくと止まらなくなっていた。


「シズカさん、君の言いたい事は良く分かる。だけどそれを僕に言ってどうなるのかな? ファイアール公爵家か君の父親に言って欲しいのだけど」


「もう何度も言っているわよ。埒があかないから困っているのよ」


「僕にできる事があれば助けてあげたいけど、この件は僕には関係ない事なんでね」


 まさかこんな僥倖があるのか! 私はアキの言葉にそのまま乗った。


「アキさん、貴方にしかできない事があるの。だからこそ今日は訪ねさせてもらったわ。私、貴方のパーティのダンジョン活動を見て感動したの。貴族でもダンジョン活動をしていくべきだって。ダンジョン活動は素晴らしい行為よ。だって魔石が無いと皆んな困るでしょう。私決めたの。学校を卒業したら冒険者になるって。アキさんにはそれの手助けをして欲しくって」


「はっ?」


「だから結婚しなくても良いように、冒険者になるの。冒険者ならどこに行ってもダンジョンがあるから問題ないわ」


 アキは呆然としている。私は必死に説得を試みる。


「貴方だって冒険者になるために家出したじゃない? 全く同じ事よ。ただ私は計画性を持ってやろうとしているの。学生の間に冒険者のスキルとギルドランクを上げて行こうと思っているのよ。王都でダンジョン活動すれば、ボムズにいるファイアール公爵家やお父様には気づかれないわ」


「僕はファイアール公爵家や君の父親と揉めたい訳ではないんだ。君がガンギと結婚しようが冒険者になろうがはっきり言えばどちらでも良いんだよ。冒険者になる手助けは通常のクラスメイトの関係の範囲を逸脱しているよ」


 ここだ。今、この瞬間しかない。

 私はアキくんに心を込めて頭を下げる。

 そしてゆっくりと心情を吐露する。


「まずは遅くなってしまったけれど、貴方の事をずっとバカにして来た事を謝ります。どれだけ貴方を傷つけてきたのか想像もつかないほどです。本当にすいませんでした。夢である冒険者になって立派になられた貴方は本当に凄いと思います。ただ私も冒険者になりたいと本当に思っているのです。貴方のパーティの戦いは本当に綺麗でした。見ていて心を奪われました。私もあのようになりたいと憧れました。貴方のパーティに入れてくれなんて言いません。貴方の弟子にしてくれませんか? 本当にお願いします」


 アキは言葉を発しなかった。私は頭を下げたまま待つ。

 その時、ヴィア主任の声が聞こえてきた。


「アキくん、今日のところは結論を出さなくても良いんじゃないか。幸いまだ時間がある。王都で空いた時間にでもダンジョン活動に付き合ってあげれば良いさ。クラスメイトなんだろ?」


 少しの沈黙の時間。アキくんの声が頭の上から聞こえてきた。


「まずはシズカさんの謝罪は受け取った。だから頭は上げてもらえるかな」


 アキが私の謝罪を受け取ってくれた。あの素敵な水色の髪色の少年が……。

 胸が熱くなり、自然と涙が溢れる。


「僕の冒険者パーティの参加や弟子云々は置いといて、空いてる時間にダンジョン活動に付き合っても良いよ。それから少しずつ考えていこう」


 私は「ありがとうございます」というのが精一杯だった。

 そんな私にアキは優しく言葉をかけてくれる。


「まずは学校が始まるまで【白狼伝説】を読んでおいてね。絵本じゃなく小説だからね。それが僕からの条件だ」

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