第108話 隷属紋の効果
最初の蒼炎の魔法を撃ち終わり振り返ると、ミカが涙を流している事に気がついた。
僕は慌ててミカに近づき声をかける。
「どうしたミカ! 何かあったか!」
首を横に振るミカ。
何て表現して良い表情なんだろう。喜びでも悲しみでも怒りでも楽しみでもない。近い表情としては無表情なんだろうけど、それとも違う不思議な表情で涙を流すミカだった。
そんなミカが口を開いた。
「ごめんなさい。アキくん。私が本当に馬鹿だった。アキくんの言っていた事は本当なのね。私も今分かったわ」
急に謝られて直ぐに反応ができない僕に、ミカは静かに語り出した。
「今撃った蒼炎の魔法の感情が、アキくんを通して私にも感じられたの。蒼炎の魔法が回転している時、アキくんとても喜んだでしょう。隷属紋を通して、その感情を感じたの。その後、今度はアキくんの想いに応えるような蒼炎の感情を感じたわ。ちょっとびっくりしたわ。でもあの感情は確かに蒼炎のものだと確信した。蒼炎はとても楽しそうだった。アキくんも嬉しそうだった。2人で遊んでいるみたいな感情を感じた。私は蒼炎の感情を感じてわかったわ。アレはアキくんを害するものでは無いって。頭では無く心で理解できたの」
隷属紋を通して、僕と蒼炎の感情が伝わった? そんな事あるの? そう僕が思っていると、話を聞いていたヴィア主任がミカに詰め寄った。
「ミカくん! それは本当か! 本当に隷属紋を通して蒼炎の感情を感じたのか!」
ミカは静かに頷く。そして口を開く。
「本当です。確かにあれは蒼炎の感情です。証明しろと言われたら困りますけど、私は確信しています」
思考を纏めている様子のヴィア主任。
少し経って話し出す。
「確かに隷属紋には、相性の良い奴隷や忠誠心が高まった奴隷には、主人の感情が伝わると言われている。実際、そういう事例が報告されている。ただ隷属の魔法は古代からの魔法で4属性に当て嵌まらなくてな。解明されていない部分が殆どなんだよ」
4属性以外の魔法? そんなの授業の魔法体系概論で習っていない。
僕は口を挟む。
「隷属の魔法は4属性以外なんですか? それは初めて聞きました」
ヴィア主任が答えてくれる。
「あぁ、アキくんはまだ1回生だから習ってないのだろう。確か2回生か3回生辺りで教わるはずだ。隷属の呪文の【縛鎖荊】は起動の句も無くてな。魔法陣と併用するんだが、その魔法陣に起動の句が組み込まれているんじゃ無いかと言われている。主人になる人が魔法陣に血を垂らす行為が起動の句なんじゃないかって。使える人の髪色もマチマチなんだよ。一応遺伝されるとは言われているけどな。私の専門ではないから一般的な知識でしか無いけどな」
【縛鎖荊】はミカを購入した時に魔法陣に血を垂らした後に使用を見ていたな。さすがに呪文の文言は覚えてないや。
僕の質問に答えてたヴィア主任は言葉を続ける。
「隷属魔法には確かに主人の感情が伝わる働きはあるみたいだ。主人の感情が分かった方が奴隷としては助かるからな。それは魔法陣に組み込まれていると考えられているが、それも解明されてないんだよ」
また考え事を始めたヴィア主任。
少し経ってからミカをみて話しかける。
「ミカくん、確かに奴隷紋を通じて、アキくんと蒼炎の感情が伝わったのだな。君はその事は確信しているんだな」
「確かに間違いないです。私は確信してます」
そのミカの言葉を聞いてヴィア主任は僕を見て、それが当たり前のような口調で話す。
「アキくん、私を君の奴隷にしてくれ」
場の空気が固まった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
僕はヴィア主任の言葉を聞いて一瞬何を言っているのか分からなかった。
まるでご飯を食べる時に「いただきます」を言うような雰囲気だった。
僕が呆けているとヴィア主任がもう一度、話し出す。
「なんだ聞こえなかったか? 私を君の奴隷にしてくれと頼んでいるんだよ」
やっぱり間違ってなかった。
ヴィア主任が僕の奴隷!?
焦って僕は言葉を返す。
「何を言ってるんですか! 何で僕がヴィア主任を奴隷にしないと駄目なんですか! 畏れ多いです!」
ヴィア主任は僕の顔を見てため息を吐いた。
そして口を開く。
「前にも言ったがアキくん、君は少し頭の回転に問題があるようだ。何を今まで聞いていたんだ。ミカくんの話を聞けば、その結論にしかならないだろ。呆れてものも言えないよ」
ヴィア主任は出来の悪い生徒を諭すように話す。
僕は思い直すように反論する。
「いや、理由はヴィア主任も隷属紋から蒼炎の感情を感じられるか試すためなんですよね。それは何となく分かりますけど、奴隷ですよ! 何でそんな簡単に奴隷になれるんです!」
ヴィア主任は驚いた表情で僕をみる。そして冷静な声を出す。
「なんだ、しっかり理解しているでは無いか。それなら私が君の奴隷になるのは当たり前だろ。ちょっと奴隷になるだけなんだから問題ないだろ。君は奴隷反対論者ではないんだろ? ミカくんがいるからな」
確かに僕はミカを奴隷にしている。奴隷反対論者でもない。でもそれとこれとは別の問題だ。
「僕は名誉の問題を言っているんです。奴隷になったら記録に残ります。ずっと残るんですよ」
「まさか君から名誉の話が出るとは思わなかったよ。君は公爵家から家出した時、貴族という事を隠して平民として冒険者活動をしていたじゃないか。Bランク冒険者になり、ファイアール家の息子を隠さなくなり、貴族ばかりの王都魔法学校に通って、階級制度に毒されてきたのではないのか?」
そうなのか? 何か違うような気がするけど……。
ヴィア主任の言葉は続く。
「どうして君は公爵家から家出をした時に貴族である事を隠すような事をしたんだ。貴族と言う名誉を穢しているとは思わないかね」
何か違うけど、反論できない。僕は取り敢えず言葉を返した。
「貴族を隠したのは冒険者活動をしたかったからです。貴族と分かれば実家に情報がいって連れ戻されると思ったからです」
僕は弱い声で言った。僕を馬鹿にした顔を見せるヴィア主任が構わず畳み掛けてきた。
「君は冒険者活動をしたかったため名誉ある公爵家の身分を隠した。私は蒼炎の研究のため奴隷の地位になる。何が違うんだい?」
上手いこと言い包められそうになる僕。
その時ミカが叫んだ!
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