第95話 冒険者ギルドへの出頭要請

 国王陛下との謁見と会食は終わった。

 僕は帰りの馬車の中で思考にふける。

 今日分かったことはリンカイ王国王家からもAランク冒険者になって欲しいと言うこと。それがリンカイ王国王家の悲願である。

 それと古の契約があって、それにウルフ・リンカイが関わっていること。

 分からない事はAランク冒険者になると分かると言われたこと。これはいろんな人に言われたな。


 結局つまりAランク冒険者になる事が一つの鍵なんだろう。

 ミカと話して前倒しでダンジョン制覇も考えたほうが良いのかな?


 帰宅すると思いがけない人が家にいた。

 王都冒険者ギルド職員のパメラがリビングに座っている。

 ユリさんに話を聞いたところ、僕たちが王宮に向かってからすぐに僕を訪ねてきたそうだ。

 僕とミカが不在と言ったが「それでは中で待たせてもらいます」と強引にウチのリビングに入って来たそうだ。

 何度も困りますと言ってもガンとして動かなく今に至っているとのこと。


 僕はリビングに座ってお茶を飲んでいるパメラさんに近づき声をかける。


「パメラさん、何か急用ですか? このように勝手に家の中に上がられるのは困るのですが?」


「それは誠に申し訳ございません。冒険者ギルドとしては急用では無いのですが、アキ様達には急用になるかと思いこの様な形を取らせていただきました」


 なんだろう。前よりパメラさんが不敵に感じる。僕は警戒しながら言葉を選ぶ。


「僕たちが急用になるようなことに心当たりが無いのですが? 内容を伺っても良いですか?」


「はい、私はギルド長のビングス・エアードよりアキ様とミカ様へ冒険者ギルドへ出頭するよう伝えるように言われてまいりました。今回の出頭要請は任意ではございますが、拒否された場合、ギルド長権限で強制出頭がかけられます」


 なんじゃそりゃ?

 取り敢えず内容を聞こう。


「出頭とは穏やかでないですね。拒否すれば強制出頭とは。何が原因なんですか?」


「それは出頭してからギルド長のビングス・エアードに確認していただければと思います。任意出頭の期限は2週間です。次の次の【無の日】つまり5月1日まで出頭がなされない場合は強制出頭に切り替わると思います。それでは失礼いたします」


 そう言うとパメラさんはリビングの椅子から立ち上がり、僕たちを振り返ることなく帰っていった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 パメラが帰宅してからユリさんがずっと謝っていた。特に問題ないと伝えるがユリさんは気を使っているようだ。


 ミカと今後の事について話し合う。

 ミカが思案顔で口を開く。


「何の情報も無いまま、のこのこ冒険者ギルドに行くのは不味いと思うわ」


「そうは言ってもどうやって情報を得るのか見当もつかないよ」


「たぶん何とかなると思うのよね。お金をかければ何とかなるかな」


 お金かぁ。でもどうなんだろ? 目立たないかな?


「でも僕たちが情報を集めていると気付いたら危なくない?」


「うーん。その危険性はあるけど、そこもやりようかな。ツテがないのが厳しいわね。最悪ここ王都から逃げることも必要になるかも」


 逃げることは負けじゃないからね。僕は家出経験者だから。

 よし腹がすわった。


「やれるだけやってみようか? それでダメなら街を移動しよう」


「分かったわ。それじゃ取り敢えず冒険者ギルド近くの飲食店や飲み屋で情報収集してきます。お金は使うからね」


「ミカ1人で大丈夫? 2人で行こうか?」


「さすがに飲み屋ではアキくんは目立ち過ぎです。水色の髪色もそうです。私は黒髪ですから平民の黒っぽい茶色に紛れるんですよ。それに私は奴隷です。若い女性の奴隷に手を出す冒険者はバカくらいです。権力者の奴隷の場合がありますから」


「それなら王都の冒険者ギルドで絡んできた冒険者達は大バカなんだね」


「そうですね。まずは安心していただいて大丈夫です。装備は目立たないものにしてから行きます。それに奴隷の証明のチョーカーも目立たない色に変えますね」


 そう言ってミカは武器屋で量販品の装備を見繕い、チョーカーは一般的に使われている黒に変える。そして冒険者ギルドの近くの店に向かっていった。

 僕はただ家で待つだけだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 僕は気が気でなくてリビングでウロウロしながら待っている。

 それを見ていたユリさんが落ち着くようにとお茶を入れてくれた。

 ユリさんもミカの帰宅を待っていると言ったが寝るように頼んだ。

 面倒事になるかもしれないしね。


 ミカが帰ってきたのは日が変わってからだった。

 僕はミカの顔を見た時、ホッとした。

 ミカが情報収集について報告を始めた。


「まずは冒険者ギルドの近くの定食屋でご飯を食べてた年配の冒険者に話を聞いたの。冒険者ギルドの職員の関係とかね。わかった事はギルド長は1年ほど前に王国財務部から王都センタール支部のギルド長になったみたい。やり手って言う人もいるけど、結構強引な事もするから敵も多いって。冒険者ギルドの職員の中はギルド長側と反ギルド長側に分かれているみたい。情報をくれた冒険者にお金を少し渡して、反ギルド長側の職員を隠れて1人呼んでくるように頼んだの。その人の仕事が終わるのを待って飲み屋で話を聞いたわ」


 そこでミカは水を飲んだ。少しアルコールが入っているみたい。


「それでその職員は私たちが任意出頭になっていることすら知らなかったわ。そのかわりの話として、ギルド長は王国財務部に返り咲きたくて、お金を王国財務部周辺にばら撒いている。そのお金は冒険者ギルドの経理を誤魔化して捻出しているに違いないって言うんだけど証拠はないみたい。まぁわたしが思うに、もともと王国財務部の人なら、帳簿の誤魔化しも上手いでしょうね。話がそれたけどまず明日は今日情報をくれたギルド職員が呼べる反ギルド長側の人間で1番上の役職を連れてくるように頼んだの。それはたぶん何とかなったわ。これは明日の昼間ね。その人からも情報を得られない場合にはギルド長側の側近を裏切らせる方法しかないわね。お金が相当に必要になるでしょうけど」


 ミカの話を聞いて凄いなぁって素直に思った。15歳の僕にはできない芸当だ。

 ミカは明日の学校の従者を休んで情報収集に行くことに決まった。

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