第76話 受験と合格とアキとの会話【シズカの視点】
【第67話〜第75話のシズカの視点】
今日は王国魔法学校の受験の日。
この数ヶ月は座学の勉強とファイアーランスの精度をあげてきた。
家庭教師からは落ち着いてやれば試験は受かるとお墨付きをもらっている。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
筆記試験は問題なく終わった。
次は魔法実技テストだ。
筆記試験を受けた教室から魔法射撃場に移動を開始する。後ろを振り返ると離れたところに水色の髪が見え隠れしていた。
今日、アキの蒼炎の魔法が見られるかもしれない。
自分の試験より、その事で私は緊張してきた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【火の変化、千変万化たる身を槍にして貫け、ファイアーランス!】
的に真っ直ぐ向かっていく炎の槍。
完璧だ!
炎の槍が的のど真ん中に当たると歓声が沸き上がる。
よし! これならテストの合格は間違いない。後はアキの魔法を確認するだけだ。
そう思っていた私に冷や水をかけたのは、近くにいた試験官だった。
「魔法実技テストが終わったものは、次の面接会場に向かってください。時間が無いので急いでください」
えっ! それじゃアキの蒼炎の魔法が見られないじゃない……。
残念に思いながらも、私は誘導する教員に従って面接の待機教室に移動する。
まぁ今日アキの蒼炎の魔法を見られなくとも、入学すれば嫌でも見る事ができるだろう。今日は諦めるか。
そんな事を思いながら面接が始まるのを待っていたが、いつまで待っても始まらない。待機教室の雰囲気が焦れてきた頃に職員がやってきた。
「魔法実技テストでトラブルが発生しました! トラブルが解消されるまで受験生はこのまま待機してください!」
トラブル!? 一瞬でピンときた。アキだ! 蒼炎の魔法がトラブルの原因に違いない。
私はすぐに立ち上がり、待機教室から魔法射撃場に向かおうとした。
「そこの君! すぐに座りなさい!」
すぐに職員から静止の声がかかる。その大声に身体が止まってしまった。
「現在、緊急事態です! こちらの指示に従うように!」
私は
しかし蒼炎の魔法が見たい。その想いが強くなっていく。
居ても立っても居られなくなり、席を立ち上がり教室を出ようとするが数人の職員に取り押さえられてしまう。
「お願い! 少しだけで良いの! 私に蒼炎の魔法を見せて!」
「君はトラブルの原因の魔法について知っているのか!?」
チャンスだ! 嘘でもなんでも良い。何としても蒼炎の魔法を見るんだ!
「そうよ。だから私を現場まで連れて行きなさい! 私がなんとかしてみせるわ!」
少し逡巡した職員が硬い表情で口を開く。
「悪いが君が、あの魔法をなんとかできるとは信じられないな。受験生を危険に晒すわけにはいかない。おとなしくしててもらおうか」
私の提案があっさりと却下されてしまった。
やはり無理があるか。
納得できなくても納得するしかない私は、おとなしく席に戻った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
また帰りは裏門を使うように指示がある。まるで私達に魔法射撃場を見せないためのようだ。
トボトボと宿に帰るしかなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
面接は翌日に実施される事になった。
面接の待機室では水色の髪色がとても目立つ。少し経ったら話しかけてみようかしら。
そう思っていた私だが、水色の髪の少年はすぐに職員に呼ばれて待機室を出て行ってしまう。
そのまま帰ってくる事はなかった。
またアキと話せなかった……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
合格発表の3月20日になった。
きっとこれでアキとクラスメイトになれるだろう。
念入りに支度の準備をしたために、合格発表の時間に少し遅れてしまった。前髪がなかなか決まらなかったせいだ。
私は合格者が張り出されている掲示板に急ぐ。
ドキドキしながら合格者の名前を見る。
すぐに目に飛び込んできた。
火属性の1番上にアキ・ファイアール、その下にシズカ・ファイアード。
何度も確かめる。間違いない。
喜びで身体が震えてくる。
叫びたい気持ちを、強い自制心で堪えた。
フワフワした感覚で歩きながら合格者だけがもらえる資料をもらって講堂に移動する。
合格者は属性ごとに分かれて座るようだ。
赤色の髪色の方に向かうと1番前の1番端の席に鮮やかな水色の髪色が見える。隣りは綺麗な黒髪の女性が座っていた。
席には名前が貼られている。どうやら成績順みたい。
私は喜びを噛みしめながら、水色の髪色の少年に向かって歩き出す。
私がアキの前に立つと、アキから声をかけてくれた。
「シズカさん、合格おめでとうございます」
「火属性の1位合格者に言われてもそんなに嬉しくないわ」
つい憎まれ口を叩いてしまう。
「それでシズカさん、以前私とした約束は守っていただけるのでしょうか?」
アキにそう言われる事は想定内だ。私は怯まずに返答する。
「さすがに同じ学校の同じクラスでは会話が生じたりするのは避けられないわ。悪いんだけど、それは許して欲しいわ」
許してくれるのだろうか? 私の鼓動が早くなる。
アキは一つ溜め息を吐いて口を開いた。
「確かにそうですね。分かりました。クラスメイトとして最低限生じる会話や交流は許容しましょう」
この言葉に心底安堵する。調子に乗った私は次の要求を口にしていた。
「ありがとうございます。アキ様の広い心に感謝いたします。それで早速なんですけどこの間の魔法実技試験の魔法についてお聞きしたいのですが」
「そのような質問はクラスメイトとして最低限生じる会話とは思いませんが?」
アキから拒否られたか。でも蒼炎の魔法についてはこちらも引き下がれない。
「優れたクラスメイトがおりましたら、その人から指導を仰ぎ自分の成長に繋げて行く。入学試験の1位合格者の話を聞くのはクラスメイトとして当たり前だと思います。私の質問は間違いなくクラスメイトとして最低限生じる会話だと思います」
少し無理があるがそれでも蒼炎の魔法をこの目でみたい。
しかし私の言葉にアキは壁を作った。
「どうやらシズカさんとは見解の相違があるみたいだね。これは人それぞれだから良いと思うよ。僕は自分の見解を人に押し付けようとはしない。シズカさんにも同じ事をして欲しいな。ガイダンスが始まる前に資料を確認したいんだよ。今日のところはこの辺で引き下がってくれるとありがたいのだけど」
アキの言うとおり、今日のところはこの辺で引き下がるか。どうせ今後の学園生活で蒼炎の魔法は見られるだろうし。
「分かったわ。でもこれから長い学園生活があるのよ。早めに教えてくれたほうが楽になると思うわ」
私はアキとまた話せるようになった事を喜びながら、その後のガイダンスを聞いていた。
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