第74話 屠殺場ダンジョン

 本当に封筒の中身が見たい。


 ヴィア主任との話は興味深かった。伝説の【ウルフ・リンカイ】から僕にメッセージがあるかも知れない。手紙かも知れないし何かの物かも知れない。


 封筒の開封は今日はされなかった。

 開封までの道が近づいたと思ったら遠ざかった感じ。

 僕にできる事は開封の可能性が高い蒼炎の魔法の研究に協力するくらいか。


 帰宅するとミカに今日はエルフを見たよと自慢した。

 ミカの反応は薄かった。

 やっぱりミカは【白狼伝説】を読むべきだろう。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 今日は朝から王都の西門から3キロルある屠殺場ダンジョンにミカとヴィア主任とサイド研究員と僕の4人で行く予定だ。

 Eランクダンジョンである屠殺場ダンジョンはオークだけが出現するダンジョンである。


 まずはミカと2人で歩いて王都魔法研究所まで行く。研究所の前には馬車が止まっていた。馬車の窓から顔を出し、手を振っているのはヴィア主任だ。

 ヴィア主任が声を張り上げる。


「遅いぞー!早くダンジョンに行くぞー!」


 僕たちが馬車に近づくとサイドさんが挨拶をしてきた。ミカとは初対面のため丁寧に自己紹介している。興奮しているヴィア主任もサイドさんに嗜められて慌ててミカに自己紹介していた。


 ヴィア主任もサイドさんも今日は昇龍装備を着ている。僕が2人に貸したものである。初めて昇龍シリーズの装備を見たヴィアさんが興味が湧いたようで貸して欲しいと頼まれた。大量に持っているので研究用に一式貸してある。

 馬車に乗るとサイドさんが申し訳なさそうに口を開く。


「今日はヴィア主任が興奮していてすいません。通常は起こさないと起きない主任が今日は早起きしてましたから。昨日から蒼炎、蒼炎ってうるさいんですよ」


 その言葉を聞いたヴィア主任が反論した。


「うるさいわねぇ。サイドには何も迷惑かけて無いでしょ! 先日のアキくんの話を聞いて蒼炎の呪文は古代から伝えられた呪文みたいでしょ! その魔法をじっくり観れるのよ! これで興奮しない研究者は田舎に帰ったほうがマシよ!」


 本当に朝から元気が有り余っているヴィアさんだった。


 研究所から王都の西門まで3キロルほどの距離がある。

 そこから城壁の外にある街並みを3キロルほど行くと屠殺場ダンジョンの入り口がある。

 住宅街を進んで行くといきなりダンジョンの入り口があった。

 結構、衝撃な光景だった。


 ダンジョンの入り口は周りが住宅に囲まれている。

 王都近郊にあるダンジョンはこのようなダンジョンが多い。

 どんどん人口が増えて街が広がっているためである。


 僕はヴィア主任に確認を取る。


「杖は使ったほうが良いですか?」


「まずは普通の時の蒼炎の威力が見たいから杖は使わないでくれたまえ」


「了解しました」


 僕は王都に来て初めてのダンジョンに入った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 屠殺場ダンジョンの中は洞窟タイプだ。幅は20メトルほど。ダンジョンの壁が淡く光っている。視界は良好だった。


 ミカは念のため僕の少し前を歩いている。僕の後ろはヴィア主任とサイドさんが並んで進んでいく。

 前方からオークが3匹出てきた。相変わらず豚にそっくりな顔で身体は腹が出ている。ただし力は強い。


「それでは撃ちます」


 僕はそう宣言して蒼炎の詠唱をした。


【焔の真理、全てを燃やし尽くす業火、蒼炎!】


 直径20センチほどの蒼い炎玉が右手より発射され真ん中にいるオークの胸に命中する。蒼い炎が広がる。命中したオークは蒼炎に包まれ消えて行く。両隣にいたオークは蒼炎の余波を受けて黒焦げになり崩れ落ちる。


「いやー! 見事だね!」


 ヴィア主任が叫んだ。急いで蒼炎の着弾地点に急ぐ。軽い熱気がまだあった。しかし急速にその熱はダンジョンが吸収する。白い灰と黒焦げになったオークだったものもダンジョンに吸収されていく。そして魔石が3個残った。


「見た感じファイアーボールより飛んでいくスピードは速いね。威力はファイアーボールと比べる事が間違っている。確かに蒼炎の有効範囲は半径3メトルくらいだったね。この間の試験で見たのとは全然違うね。試験のは極大魔法クラスだよね。今の蒼炎はいつもダンジョンで使用しているものと同じかな?」


 興奮しているのか、いつもより早口になっているヴィア主任の質問に答える。


「そうですね。いつもダンジョンで使っている蒼炎です」


「なるほど。興味深い言葉だね。通常、魔法はダンジョン内で使うと威力が落ちる。ただすぐに魔法は目標物に当たるから、その影響は微々たるものだ。ただ蒼炎の場合は延焼温度が相当高いからその熱エネルギーをダンジョンに吸収させているんだね。ただ当たるまではそんなにエネルギーが吸収されないんだよ」


 ヴィア主任の言葉に僕は答えを要求する。


「つまりどういうコトですか?」


 ヴィア主任はゆっくり答えた。


「この間のダンジョン外で撃った蒼炎と先程撃った蒼炎は別物としか思えないよ」


 確かに試験で撃った蒼炎は僕の想定を超えて大きくなったけど…。


「でも僕は試験のときも先程も、全く同じ詠唱で蒼炎を撃ちました。それで魔法が別になる事ってあるんですか」


「ここまで威力が異なる魔法になる事は考えにくいねぇ。まぁ後日、王都の郊外で蒼炎を撃ってもらう事になると思うから」


 僕はヴィア主任の言葉の言い回しが気になった。


「思うってなんですか?」


「あぁ、説明して無かったね。試験の時の蒼炎の魔法の威力が今問題になっていてね。あんな威力の魔法をボコボコ撃たれたら困るってね。今、王国の機関に研究のためダンジョン外での蒼炎の使用について了解を得ている最中なんだよ。そのうち君のところにも王国から使者が来ると思うんだ。蒼炎を許可無くダンジョン外で撃たないようにって。ただ君はBランク冒険者だろ。王国からの圧力と取られたくないんだろ。今は冒険者ギルドとかに根回し中だと思うよ」


 なるほど。確かにあんな威力を外で撃たれたらとんでも無い事になる。試験の時の蒼炎の威力は戦争時などに使う戦略級の魔法に当たるだろう。


 通常、戦略級の魔法になると大勢の人数で大規模な用意が必要になる。それを1人で簡単に使われたらパニックになるな。


 戦争なんかには駆り出されたく無い。皆んな不幸になるから……。ミカも戦争で奴隷落ちだもんな。


 それにしても細々とダンジョン内で蒼炎を使っていれば問題無かったのかなぁ。

 王都に来てからなんか嫌な事が多いな。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 それから僕はヴィア主任の指示通りに蒼炎を使った。【昇龍の杖】、【鳳凰の杖】、【黒龍の杖】で蒼炎の比較をしていたりした。


 その他に他の魔法とぶつかったところも見たいと言われた。真正面で魔法が飛び交うと危ないため、斜めに魔法を撃ち出して空中で当てるようにする。タイミングを合わせるのが大変だ。蒼炎の相手の魔法はヴィア主任のエアカッターとサイドさんのウォーターボールだった。


 蒼炎に貫通力はあまり無いようで当たったところで蒼炎のエネルギーが爆発する実験結果だった。

 焦土の渦ダンジョンのボスモンスターの皇帝サラマンダーの魔法とも空中で当たって爆発してたもんね。

 あの時、蒼炎に貫通力が無いと感じたが改めてそれが証明された実験結果だった。


 そういえば気のせいだと思うんだけど、今日、蒼炎の魔法を使った時に何かいつもと違う違和感を感じた。

 まぁ問題なく発動したしやっぱり気のせいかな。

 久しぶりのダンジョンに入ったからかもしれない。


 帰りの馬車の中でもヴィア主任はとても興奮している。

 これから研究室に戻って今日の結果をまとめると息巻いていた。

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