第55話 開封できない封筒

 帰宅して祠から見つかった封筒を開封しようとしたが開封できなかった。


 初めは「切りにくい封筒だな」と軽く思った。ハサミを出してきて切ろうとするが封筒に全然ハサミの刃が立たない。まるで金属を切ろうとしているようだ。


 ミカが「この封筒には強力な金属性の魔法で封印がされてるようだ」と言った。「結界みたいなもんね」と軽い口調で言われた。


 そういえばあの祠にもずっと強い結界が張られていた。関係はあるのか?


 開封を諦められずに最後には【昇龍の剣】を取り出してきて切ろうとしたが、封筒は傷1つ付かない。ムキになっている僕を見たミカは呆れた声で「魔法の専門家にでも相談するしかないんじゃない」と口にする。


 僕は伝説であり、憧れの冒険者である【ウルフ・リンカイ】の名前が記載されている封筒を何としても開封したかった。しかしミカはあまり興味をしめさない。やっぱり女性には男のロマンがわからないんだろうな。


 次の日、どうしても封筒を開けたい僕は家の掃除をしているリーザさんに相談した。


「金属性の封印ですか。魔法の専門家は私の知り合いにいないですね。ギルド長に相談してみたらどうですか?」


 僕は速攻で冒険者ギルドに行き、受付に鬼気迫る勢いでギルド長との面会を要請する。


「この封筒に封印がねぇ」


 呆れた顔で封筒を摘み上げてギルド長のインデルが言葉を発した。


「大至急! 大事な用事です! と聞いたから慌てたけどそれが封筒が開かないだなんてな。びっくりするから止めてくれ」


 僕は男のくせに男のロマンを理解してくれないギルド長に食ってかかる。


「これを大事な用と言わずに何が大事な用になるんです! 【ウルフ・リンカイ】ですよ! この国の初代国王であり伝説の冒険者が実在したかもしれない証拠です! 僕たちは歴史の証人になるかも知れないのですよ!」


 僕の勢いに押されたギルド長が口を開く。


「誰かのイタズラじゃないのか? まぁそれで魔法の専門家の知り合いだったな」


「そうです。インデルさん、誰か知り合いはいないですかね?」


「魔法の専門家なら王都の魔法研究所だろ。知り合いはいないなぁ。今年、君は王都の魔法学校に通うんだろ? そこに魔法研究所は併立されているからその時に専門家を探せば良いんじゃないか?」


「そんなに待たないといけないなんて……。」


「まぁそんなに気落ちをするな。王都の冒険者ギルドに連絡して魔法研究所に勤めている金属性の魔法の専門家を紹介してもらえるようにしてやるから。入試は3月1日だろ? そのまま王都に滞在するんだろ。あと2ヶ月じゃないか」


 僕はがっくりと肩を落として冒険者ギルドをあとにした。

 ミカが気落ちして帰ってきた僕の顔を見て慰めてくれる。


「まぁあと2ヶ月なんだからすぐよ。でもあそこにステータスカードが入っていて、それを触ったアキくんが蒼炎の魔法を使えるようになったのよね。ステータスカードに何かトリガーになる魔法がかかっていたのかしら。この封筒の封印を見ても思うけど、相当レベルの高い魔法よね」


「僕は魔法が使えなかったから魔法についてあまり知識がないんだ。金属性の使えるミカから見るとそうなんだ」


 少し考えてミカが口を開く。


「そうね。通常、結界の魔法は時と共に弱まるわ。封印の魔法も結界の魔法の一種だから同じ事ね。ただ離れの祠にもずっと強力な結界が張られていたのでしょ。外部から魔力を取り込むような結界にしないと無理よね。私には祠の結界の構造も全くわからないもの」


「完全に専門領域の話になるんだね。わかったよ。3月まで待つよ。取り敢えず魔法研究所の人に聞かないとダメみたいだもんね」


 僕は自分に言い聞かせるように言葉を吐いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る