第53話 パーティの終わり

 まだ現実感が湧かない。頭の中がフワフワして思考が定まらない。

 取り敢えず祠にあった手紙を胸の内ポケットに入れパーティー会場に戻る。

 パーティーもそろそろ終わりのようだ。

 僕たちも帰るとするか。そう思っていたら男性が近づいてきた。

 父親のシンギ・ファイアールだった。


「どうだい。パーティーは楽しめたかな?」


 軽い調子で話しかけてきた。

 僕も軽い調子で返す。


「おかげ様で楽しむ事ができました。ただパーティー開始の挨拶には驚かされましたけど」


 シンギは笑いながらこたえる


「アキ殿には悪いと思ったがファイアール公爵家の決意を分家とアキ殿に伝えたくてな。あの言葉に嘘はない。時間はいくらかかっても良い。私が死んだ後でも構わない。まずはAランク冒険者になって欲しい。いくらでもサポートする」


 最後は真剣な目をしていた。

 やっぱりここまで宣言するのは異常に感じる。

 それほどAランク冒険者になる事をファイアール公爵が望んでいるのか? いやファイアール公爵家だけじゃない。ウォータール公爵家や冒険者ギルドも望んでいる。

 いったいどんな思惑があるんだ。このまま進んでいって取り込まれるような事にはならないのか?

 それでもそこに謎があるのなら知りたいのが人情だろう。そしてその謎に1番近いところにいるのがBランク冒険者の僕だ。


「わかりました。僕のできる範囲で頑張ってみようと思います」


 僕はそう返す。


「それで問題ない。アキ殿のできる範囲で良い。無理はしないでくれ」


 シンギの目は優しげだった。

 そのシンギはミカに顔を向ける。


「ミカ殿、アキ殿をよろしく頼みます。まだまだ子供なので。困ったことがあったらすぐに相談してください。できる限りの事をさせてもらいます。それでは他の出席者にも挨拶をしなければならないのでこれにて失礼します」


 そう言ってシンギは離れて行った。


「お父さん、随分変わっちゃったわね」


「そうだね。やっぱりAランク冒険者になってみないと分からない事ばかりだ」


「Bランクダンジョンを後3つ制覇よ。大変だわ」


「リンカイ王国中を回らないといけないね。でもそれはそれで楽しそうだけど」


 僕はミカと知らない街をぶらつくのを頭に浮かべていた。


「そうね。せっかく冒険者になったんだから楽しまないと損ね。観光しながらダンジョン巡りも良いかも」


 ミカから賛同を得られたところで、僕は今春から通うつもりの王都の魔法学校との兼ね合いを考える。


「本格始動は僕が魔法学校を卒業してからかな?」


「あんまり遅いと、私の年齢が厳しくなるからね」


 そうミカが眉間にシワを寄せて言った。


「了解しました。それではお姫様帰りましょうか」


 僕はおどけてそう言った。

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