第38話 各地域のB級ダンジョン

 アクロの一軒家に戻って来たときは何かホッとした。もうアクロは僕の帰るところになったのかな? ナギさんにお土産を渡し、道中の話をたくさんした。今度は皆んなで旅行したいなぁ。


 アクロに着いて次の日の午前中に冒険者ギルドに顔を出し、ギルド長に結末を報告する。そろそろ魔石を納品してくれと軽いプレッシャーをかけられた。


 数日は穏やかに過ごす。やっぱり半年後から王都の魔法学校に行くことに決めた。少しでも蒼炎の魔法について知りたいと思ったから。


 アクロに帰ってからはミカと肌を合わせることが無くなった。やっぱりあれはファイアール公爵家に会うことへのプレッシャーや非日常の旅行が僕とミカを狂わせていたのだろう。


 大人の階段を登った夏ももう終わりだ

 もうそろそろ秋の季節だ。人間はこうして少しずつ大人になって行くのかな。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 Aランク冒険者になるためには4つのB級ダンジョンを制覇しないといけない。ウォータール公爵家から頼まれた時はそれほど興味を引かれなかったが、さすがにあの時のファイアール公爵家宗主の父親の変質を見れば一定の興味が湧く。改めて各封印守護者とダンジョンについて調べてみた。


東の守護者 ウォータール公爵家

中央都市 アクロ

水を司る 髪色は青

Aランク 東の封印ダンジョン

Bランク 水宮のダンジョン


西の守護者 エアール公爵家

中央都市 カッター

風を司る 髪色は緑

Aランク 西の封印ダンジョン

Bランク 風宮のダンジョン


南の守護者 ファイアール公爵家

中央都市 ボムズ

火を司る 髪色は赤

Aランク 南の封印ダンジョン

Bランク 火宮のダンジョン


北の守護者 アイアール公爵家

中央都市 コンゴ

金属を司る 髪色は黒

Aランク 北の封印ダンジョン

Bランク 金宮のダンジョン


 ウォータール公爵家宗主のセフェム・ウォータールさんが言っていたな。「ダンジョンはD級以下は特に問題ないがC級以上だとそこの土地の力が作用している」って。


 B級は名前から言って完全に属性が色濃く出ている。

 この中で火の魔法で相性の悪いのが水宮ダンジョン。相性が良いのが北の金宮のダンジョン。

 僕はいきなり相性の悪いところに乗り込んでいるんだよね。蒼炎の破壊力でその相性の悪さは感じないけど。

 あまり蒼炎を火の属性と考えないほうが良いのかな?


 現在は9月。学校の入学は来年の4月。まだ7ヶ月ある。(1年は12ヶ月の360日、1ヶ月は30日)

 その間に水宮のダンジョンの攻略を目指してみるか。以前考えていたボス部屋での休息か、新たな仲間を探すか。ただし新たな仲間を入れる場合、僕とミカとのレベル差が酷い。満足に連携も出来ずに反対に足を引っ張る要因すらあるかも。

 ミカに相談だな。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 リビングでくつろいでいるミカに話しかける。


「水宮のダンジョンの攻略をしようと思うんだけど、ミカに相談があるんだ」


「何かしら?」


 ミカは読んでいた雑誌を横に置いて僕をみた。


「この間水宮のダンジョンについて考えてみたんだ。B級ダンジョンの水宮のダンジョンは7階層と言われているよね。一層3キロルとしても片道21キロル。往復で42キロルもある」


「考えただけで長いわね」


「沼の主人ダンジョンのように走り抜けることは不可能だと思うんだ。みずちのスピードが速いからね。そうなるとみずちと戦いながら40キロル以上を進まないといけない」


「それなら無理だわ。体力がもたないわよ。一つの階層を警戒しながらみずちと戦って行くと1刻2時間くらいかかるわね。ボス部屋まで7刻14時間よ。帰還するまで丸1日超えるわ」


「新たなパーティメンバーを募ったらどうかな?」


 ミカは眉間にシワを寄せ考えている。


「人を増やしてもダンジョン内で眠るような休息は取れないわ。意味が無いと思う。それにアキくんと私とのレベル差があり過ぎて戦力にもならない」


「やっぱりミカの意見も新たに人を入れるのは反対か」


「長い目でみれば賛成よ。人が増えればそれだけアキくんを守れるようになるから。レベルは上げてあげれば良いしね。でもアキくん、来年から王都の魔法学校に通うんでしょ。冒険者活動も3年は空いちゃうよ」


「学校生活中は長期休みでダンジョン活動する予定なんだけどね。取り敢えず新しいパーティメンバーについては保留にしようか」


「それなら水宮のダンジョンの攻略も保留ね」


 僕は得意げに言葉を発した。


「実は僕とミカの2人だけで攻略する方法を思いついたんだ」


「2人で!?やっぱりそれは無理じゃない?」


「ダンジョン内でしっかりと休憩をする方法だ」


「ダンジョン内では安全な場所なんてないわ。常識でしょ」


「ボスモンスターを倒した後のボス部屋はどう?」


「!?」


 びっくりしたミカの顔を眺める。


「ボスが復活するまではボス部屋にモンスターは現れないよ。半日ほどかな。そこで睡眠をとってから帰還すれば上手くいくかもしれない」


「理論的には可能かもしれないわ」


「ただ危険性もあるんだ。まずは水宮のダンジョンの下層で逃げなければならない魔物が出た場合、引き返すだけの体力が無くなるかもしれない」


「確かに6階層から引き返すと往復で10刻20時間になるわね」


 僕は説明を続ける。


「本当に一層が3キロルかどうかもわからない。その他はボス部屋でボスが復活するまで本当に半日なのかもわからない。わからないことばかりなんだよね」


「でも成功する可能性もあるのよね」


「まぁそうだね。机上の計算だけどね」


「アキくんがその話を私にしたって事はやりたいって事でしょ」


「そうかな? そうかもね。ミカのほうが僕のことわかってるのかもしれないね」


「私達は冒険者よ。冒険者は冒険してなんぼでしょ! やりましょう! 私達の足跡を残してやりましょうよ」


 ミカは明るい顔を僕に向ける。


 こうしてこの日僕たちは水宮のダンジョン攻略のスタートを切った。

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