第23話 確かな絆を探して【ミカの視点】
【第8話〜第22話のミカの視点】
奴隷としてアキくんに買われた夜、私は部屋で1人になると急に不安になってきた。
本当に私はアキくんに必要とされているのか?
先程までは2人でいた時には感じなかった不安が押し寄せてくる。
私は居ても立っても居られなくなり、髪からヘアピンを1つ取り外していた。
アキくんの部屋の前まで来た。
ヘアピンで鍵を外す。昔、悪友に教わった鍵開けだ。
私は静かに部屋に入る。アキくんの寝息が聞こえてきた。
必要とされている事が実感できる何かが欲しい。
それはアキくんのぬくもりで得られないだろうか?
それは突拍子も無い考えだったが、私は確信して服を脱ぎ出した。
下着姿でアキくんのベッドに潜り込む。
アキくんの手のひらを自分の素肌に当てる。私の不安が小さくなっていく。
気がつくと、私は丸くなってアキくんに包まれる体勢になって寝ていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「な、なんでミカがいるの!」
うん? あ、そうか、昨晩はアキくんのベッドに潜り込んだった。
それにしても久しぶりに熟睡できた感覚だ。
私は焦っているアキくんに朝の挨拶をする。
「おはよう」
「お、おはよう」
顔が赤くなったアキくんがおはようの挨拶を返してくれた。
それだけで私は嬉しくなる。
「どうしてミカが僕のベットで一緒に寝てるの!」
「昨晩、寂しかったから一緒に寝ようと思って」
「僕鍵かけていたよね」
「私鍵開けは得意なのよね」
「びっくりするからもうやめてね!」
「えぇ! それは約束できないなぁ」
「隷属の契約があるからもうできないはずだよ」
「隷属の契約は主人が嫌がることをやめさせる事よ。本心で嫌じゃなければ強制力は働かないわよ」
「そんなバカな…」
「明日も試してみる? 本当に嫌がっているのかどうかわかるわよ」
アキくんとの軽い会話が心地よい。なんて爽快な朝だ。昨日までとは天と地の違いだ。
自然と笑い声が出てしまう。
私は服を着て自分の部屋に戻った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夜にダンジョンで蒼炎の魔法を見せてくれる事になった。
日が落ちてからアキくんに起こされて、宿の一階で食事をする。
アキくんはお勧め定食の焼き魚定食だ。見ているとあまり魚の骨を取るのが上手くない。私は見かねてアキくんの焼き魚定食の魚の骨を取り除いた。
何も言わずに私の手を見ているアキくん。
アキくんの嬉しそうな、恥ずかしそうな顔が印象的だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
蒼炎の魔法は私の予想の遥か上をいく威力だった。
オークダンジョンの3階のモンスターハウスでの蒼炎の魔法の3連発。
度肝を抜かれた。
これはダンジョン内で出せる威力じゃない! ダンジョン外で使ったらどうなるの!?
その後、アキくんはモンスターハウスで11回討伐をおこなう。結局アキくん1人で358匹のオークを倒していた。
アキくんと蒼炎の魔法について話し合った。
私の役割りはアキくんの呪文の詠唱中にアキくんを守ること。壁役でも良い。必要とされているのなら……。
蒼炎の魔法は圧巻だった。
いとも容易くオークダンジョンのボスであるオークキングを消し炭にしてしまった。
私の出番は全くない圧勝劇。
その後の沼の主人ダンジョンでも蒼炎の魔法は必殺の魔法だった。
【火の魔術師殺し】の泥のゴーレムも蒼炎で瞬殺していく。
私は泥のゴーレムの牽制役を務める。
またたまにF級モンスターの鳥型のカーサスが襲って来るので片手剣で切り裂いた。
たった1日だけでC級魔石が46個を得る事になる。
私はそのおかげでDランク冒険者に昇格だ。
青銅製から白銀製になったギルドカードを見て、私は冒険者として生きて良いと冒険者ギルドから言われているように感じ、本当に嬉しくなった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私のせいでウォータール公爵家と問題が生じてしまう。
しかしそのおかげで冒険者ギルドが新しい家を斡旋してくれた。
冒険者ギルドの職員であるナギさんも一緒に住む事になる。
私はついついアキくんのベッドに潜り込む日々だ。
3人での共同生活はとても満足していた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
現在の生活を脅かす事が起きた。
沼の主人ダンジョンで他人の奴隷を助ける事によって蒼炎の魔法が知れ渡る。
アキくんの実家であるファイアール公爵が来る前にBランク冒険者になる必要ができた。
その為には1発の蒼炎の魔法で複数の泥のゴーレムを倒す必要がある。
その泥のゴーレムをキャリーするのが私の任務だ。
アキくんをファイアール公爵に連れ戻させるわけにはいかない。
全力でアキくんをBランク冒険者にする。
私は奴隷になって初めての大役に心が奮えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
日に日に目が死んでいくアキくん。私も精神的にキツくなってくる。しかしここが踏ん張りどころだ。私の居場所はアキくんだ。それを失う訳にはいかない。
そして遂にアキくんがBランク冒険者になった。
冒険者ギルドで祝福されるアキくん。Bランク冒険者昇格パーティーでのアキくんの乾杯の挨拶には素直に感動した。
昼間だがナギと一緒にお酒を飲みまくる。
本当に良かった。少しでもアキくんの力になれたと思えた。
まだ飲み足りないが、夕方にアキくんから帰ろうと言われる。
しょうがないから家でナギさんと飲み直す事にした。
ナギさんと飲んでいるとアキくんはお風呂に入りにいった。
ナギさんが私の顔を見てニヤニヤする。
「ミカさんはアキさんとどこまで進んでいるんですか?」
「どこまでって?」
「またまた、若い男女が一緒に住んでいるんですよ。ミカさんはよくアキさんの部屋で寝ているじゃないですか。何も無いはずが無いです。白状しなさい!」
「私が寂しくて添い寝してもらっているだけよ。何もないわ」
「そうなんですか?アキさんは我慢していると思います。そうだ! 今日はアキさんのお祝いなんですから、2人でこれからアキさんをお祝いしましょう! さぁ行きますよ!」
相当酔っ払っているナギさん。私も相当酔っ払っている。
ナギさんの勢いに任せて服を脱ぎ出す私。2人で裸になってアキくんが入っているお風呂に向かう。
お風呂のドアを開けたら、アキくんは「わっ!」と声を上げた。
「何やってるんですか!」
アキくんの質問に私はアルコールに染まった頭で返事をする。
「何ってお風呂に入るのよ」
「裸じゃ無いですか!」
「お風呂は裸が当たり前でしょ」
お風呂に入るのに服を着ているほうがおかしいじゃない。
私に変わって、ナギさんがアキさんを諭すように説明する。
「アキさんのBランク冒険者昇格プレゼントよ。一緒にお風呂に入って身体を洗ってあげるわ」
逃げようとするアキくんを私は背後から捕まえた。
ナギさんはアキくんの前に回って石鹸を泡立て、手を使ってアキくんの身体を洗い出す。
急にナギさんが「まぁ」っと言った。それを機に私が抑えつけていたアキくんの力が抜けた。
これ幸いと私もアキくんの身体を洗い出す。酔っ払った頭でもアキくんの引き締まった身体を洗うと興奮してしまった。
私とナギさんは満足してお風呂を上がった。
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