第41話 神殿の歴史
オッサンとネコ先生からの指導後、今度はガリオンさんに対戦形式での剣の稽古をつけてもらう。これが一日のルーティーンだ。
ガリオンさんは、二年前に当時のパーティのメンバーと挑戦し、神殿で職を授けて貰ったそうだ。それがトレジャーハンターとのこと。その時の事を聞きながらの稽古となった。その時は、今ほど難しくはなく、年々、難易度が上がっていると言う話だ。
その稽古をオッサンとエラルドさんがお茶を飲みながら観戦している。オッサンは、もう遥か昔の事で、あまり覚えていないそうだ。
稽古が一通り終わって、汗を吹きながら、オッサンのアドバイスを聞いていると、徐々に日は傾き、夕闇が迫ってきていた。僕は、慌てて晩ごはんの準備にかかり、出来上がった頃にはすっかり日は落ち、焚火の灯りだけが周りを照らしだしていた。
「お待たせしました」
今晩は、収納にしまっていた、ビーフシチューもどきと、トマト風野菜の上にチーズを乗せ塩コショウとバジルでの焼トマトとライ麦パン。それとオッサン用に追加した、串にさして焼いたボア肉だ。
野営を張るテントの前で焚火を囲み、皆で談笑しながら晩ごはんを食べている。肉を焼く油が火に落ち、ぱちぱちと弾ける音を立て、火がほんの一瞬だけ強くなる様子を見ていると、これ使えるかもなんて思ってしまった。うーむ、火力が弱いなら、油を足してやればいいとかかな?油になるものは何だろう?イメージかな。
そんな事を考えていると、エラルドさんが、問いかけてきた。
「皆さんは、これから、神殿ダンジョンに挑むのですか?でしたら、あの神殿の歴史をご存じでしょうか?」
もちろん僕は知らないので、知らない事を伝えたら、他の人たちも知らなかったようだ。
「それは、歴史の闇に葬り去られていますからね」
エラルドさんは、ぽつりぽつりと語りだした。
エラルドさんが商業学園の学生時代、この国の歴史と経済、商いの関係性の研究を、卒論にまとめるために、色々調べていたのだそうだ。その時に、神殿の痛ましい歴史の真実に行き当たったとの事だ。
「そう、それは3000年前の話に遡る……」
神魔大戦前のエピナル神殿は、二柱の神を祀った神殿だった。神による恩恵を神の眷属である神獣様により与えられる場所として、いつも参拝の人々が絶えることなく訪れる場所だったようだ。多くの神官達がその神殿に集い、日々訪れる参拝者の為の祈りとお勤めに励んでいた、まさに聖地だったのだ。
しかし、神魔大戦の後、様相は一変する。ベルディエル像を破壊しようと群衆が神殿に大挙して押し寄せたのだ。
神殿は、大戦中は女神側について、力なきものを守ってくれたというのにだ。それを阻止しようとした神官達も、大戦で力を使い果たし弱っていた守護竜も、全て、焼き討ちにし、火あぶりで処刑してしまった。
群衆を煽った者がいたのだ。どの時代でも、正義の使者であると勘違いしたのか、自分が神にでもなったつもりなのか、ある事ない事、騒ぎ立てる者達がいた。そして、その者達に先導され、魔女狩りである事にも気付かない者達が、正義を振りかざし、悪魔のような行いを平気で起こす。恐ろしい群集心理だ。
そして、惨殺された神官達の怨念が魔素と融合しアンデッドが徘徊するダンジョンとなった。その激しい怨念は、高位神官や守護竜を、凶悪なアンデッドの魔物と変えて、ここに留めてしまったと言われている。
神殿がダンジョンと化した後は、冒険者の探索の場所となったのは言うまでもない。このダンジョンを攻略すると、その褒美として女神眷属の神獣によって、力を与えられるという噂が知れ渡ると、皮肉にも今度は冒険者の聖地となったというわけだ。
自分達がやった愚かな行為は、それは神が与えた試練であり
「群集心理って恐ろしいですね。そして悲しい話です」
「しかしだ、いくら許されざる行為であろうと、生き残った勝者の理屈が真実であるとされるわけだから、歴史とは怖いものなのだよ」
その後、オッサンとエラルドさんが、お酒を呑みながら、遅くまで深刻な話をしていたようだけど、僕は稽古で疲れてしまっていて、あっと言う間に深い眠りに落ちてしまった。
◇◆◆◇◆◆◇
そんなこんなで、賊に襲われる事もなく、6人は無事に王都に到着した。
王都は、とても大きい。さすが
礼儀として、一応、王都の冒険者ギルドに寄って、ギルドマスターに挨拶した後、僕らは、予約していた宿に向かったのだ。ネコ先生は、このまま実家に帰るという事で、先生とはそこで別れた。「明日、宿には顔を出すにゃ」とは言っていたけれど。
ただ、オッサンは、そこのギルドマスターとエラルドさんとで、お城に用事があるとの事で、先に宿に行っててくれと言うと、さっさと出かけてしまった。そう言えば、うつらうつらしている時に、着いたらすぐに皆で城に行こうという話をしていた気がする。
エラルドさんの至急な用事といい、着いてすぐの行動といい、何か大変な事でもあったのだろうか?
宿に着くと、そこは高級な宿だったようで、なんと大浴場もあって、ベットもふかふかなのだ。野営は結構身体に負担がかかる。そこで、僕はお風呂に直行した後、長湯の疲れからか、ついつい眠ってしまったらしい。
目が覚めたら、もう昼を過ぎていたようだ。アリシアに遅いと怒られながら、慌てて食堂に行って、美味しいランチを食べました。もちろん、料理のリサーチも忘れないですよ。これも皆、オッサンの払いだそうで、遠慮は無用とのこと。
とりあえず、今日はこのまま宿でゆっくりとし、明日は、ギルドの資料室にある神殿ダンジョンの資料を見に行き、その後、今後のスケジュールを決めるのだそうだ。
「皆で戦うんだ、お前さんだけに負担はかけないから安心しろ」
っと言ってくれている。そこは、心強いのだけど、やっぱり心配は心配なのだ。
なかなか、魔法を使いこなせないでいるのだ。もし、誰かの身に危険が迫って、その時になった時に、使えなかった事を考えると身が縮む思いだったのだ。
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