第14話
心霊庁の庁舎一階にある喫煙所で久々に一服していると、
意外そうな顔をしてヨッと手を上げ一緒にタバコを吸う。
「不動も吸うんだな」
「いや、禁煙してたんですけどね」
何かを察した鬼迫は、咳払いをする。
「大事なのは、スキルじゃない。人を守りたいという心だと思うぞ」
不動公平は何も言えなかった。
「もし、つらいなら。辞めてもいいんだぞ。自縄自縛はしんどいだろ」
「俺は、その……」
「俺はお前のなんだ? 上司として失格かな?」
「いや、そんなわけ」
「言いたくなったら言えよ」
鬼迫はタバコを消してあとにした。
その背中はいつもより大きく観えて、頼りたい気持ちが溢れてきた。
全てをさらけ出せたらどんなに楽か……。
エレベーターに向かうとフロア前に鬼迫欣志が突っ立っていて、通話していた。
「はい、はい。しかし、はい……
彼の声はかなり低く暗かった。
鬼迫の目と合う。
「いやぁ、毎日毎日しんどいわ、アハハハ」
頭を掻きながら苦笑する鬼迫の目は笑っていなかった。
ちょっと怖い。その顔は反則です。
「ああ、そうだ。その、なんだ……不動は心霊庁に入ってすぐ任務に行かせてしまったからな。どうだ、案内しようか?」
「蓮に聞いたんですけど、現場は
「まあな。でも事務方の職員と顔馴染みになっとくと後々、楽だぞ」
そういうものかと、同伴する。
片桐晃がいる霊災対策課は一階だった。
「晃が来たんだって?」
察してはくれるが、やはりそこは上司。訊くことは聞くらしい。
「プライベートなことを訊ねられました」
「被災した、弟さんのことか?」
また息を呑む。心霊庁に入ってから心の傷を
「すみませんそれは、『まだ』答えたくありません」
「すまないな、俺は現場現場で」
「責めてませんよ」
食い気味に答えた。責めてない。それは事実だ。心霊庁のみんなは何も悪気がない。
エレベーターで二階に着く。
ここは心霊庁捜索課保護係のフロアだった。
数人しか居ない。
「やはり出払ってるか。すまないな不動」
数人のスーツ姿の職員は、無心にこちらを見ることもなくパソコンに向かって何かを打ち込んでいた。
「珍しく、
「金原さん?」
「蓮やお前らの班員だよ。事務方だ。ストーカー事件の報告書を纏めていたはずなんだがな」
すると、鬼迫欣志の携帯端末がまた震えた。
「はい鬼迫、はい、はいはい。えっでも、はい。わかりました……」
端末を切った鬼迫の目はまたも笑っていなかった。
途端、緊張感が増す。
「悪いな不動、また任務を命ずる」
「は、はい」
「功徳市の南地区の市営団地がある区画へ向かって欲しい」
「用件は?」
「複数の霊体の保護だ」
「家族でしょうか?」
「同時多発的に起こる場合その可能性は高いが……」
歯に何かが挟まったような物言いだった。気になる。
いや、とにかく現場に向かおう。
エレベーターを降り、バス停に向かった。
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