第20話 魔剣士がダンジョンについて知ったら

 衝動を抑えてからどれほど経ったのだろうか。だがだいぶ前に遂に100層を超えた。そして今、俺たちは135層を攻略したところだった。


 既にこのダンジョンに落ちてから2年以上経っている気がする。


 ジュシュアはここまで早く進めるとは思っていなかったらしく、最近は積極的に戦闘に参加し始めている。そのお陰か一層ごとにかける時間がかなり減り、すぐに進むことができるようになっていた。


 「なんか、味気ないというか……弱くね?」


 『むぅ……それはやはりお前の急激な成長のせいだろうな。このままだとまた衝動が起きてしまうやもしれん』


 「……確かにな」


 物足りなさを感じている今、もしこのままこの状況が続いてしまえば一体どうなってしまうのやら。


 だがまぁ、刀を振るう上でのいらない癖だとかを確認できているのでそこだけは良かったと思う。


 それに加えて、身体強化の練度も上がっているようでつい最近脳にかけてみたのだがなんと10秒間だけ成功したのだ。


 それくらいかけることが出来れば今は十分だと思われる。後は加速された知覚にあった動きができるようになればかなりのアドバンテージになるだろう。


 『……なんだと?』


 「どうした、ジュシュア」


 すると、突然ジュシュアが怪訝そうな顔をした。まるで、起きて欲しくなかったことが起きてしまったかのようなリアクションをしている。


 そして、それは当たっていた。


 『


 「縮んている……?何が」


 『ダンジョンが……だ』


 「……は?」


 『これはお前のせいでもあるのだぞ……?お前の二段三段飛ばしで駆けあがった急激な成長スピードに、焦ったのであろうダンジョンが一気に殺そうと本気になったんだからなぁ……』


 「えぇ……」


 ダンジョンが焦る、なんて……聞いたことが無いぞ。そんな生き物みたいなやつなのか?ダンジョンって。


 そう疑問に思ったんでジュシュアに聞いてみると……。


 『そうだ。ダンジョンとは生きる洞窟と呼ばれることが多い。考え、行動する。それは我ら生物と何ら変わりはない。故に、生きる洞窟』


 「……なんだ?それ。聞いたことが無いぞ」


 『む、本当か。時が経てばそれすらも忘れ去られてしまうのか……』


 そう言うと彼は少しだけ寂しそうな顔をした。


 『人の時代の流れはいつだってそうだ。我のような若造でも置いて行かれてしまう。大事なものだってすぐに忘れ去ってしまう。だから嫌いだ。短命だから仕方がない……?ほざけ。それはただの言い訳だ』


 「お、おう……」


 俺……に向けて言っているわけでは、無いよな。きっと彼には親しい人でもいたんだろう。でなきゃ、そんなことは言わない。


 俺はこいつの過去について聞いたことがない。というのも、別に聞く必要無いと思っているからだ。あくまで今の俺たちの関係は利害の一致と俺がこいつの興味の対象となっていること。その二つだけで俺たちは共に行動している。


 それだけで十分だ。


 でも、このダンジョンを突破したあとはやはり敵同士になってしまうのだろうか。それはちょっと辛い。特に俺の命が危ないと言う部分で。


 正直こいつと戦っても勝てる未来が見えない。ここまで成長して、あの勇者と同じくらいの強さになったとしても。


 だってブレス一つで何体もの巨体の合成獣キメラを消滅できるんだぞ?そんな物を喰らったら俺だって灰すら残らずこの世から去らざる負えない。というか、同じドラゴン以外はそうなるはずだ。


 『まぁそんなことはどうでもいいだろう。ちょっと待ってろ。今どれくらい縮んだか確かめる』


 「おう」


 そう言ってジュシュアは目を閉じる。


 『──あぁ……これは、相当焦っているな。ダンジョンは』


 「それほどまで縮んでいたのか?」


 『恐らくだが、今あるリソースを全て注ぎ込んだんだろう。結論から言って、後


 「……………は?」


 いくらなんでもそれは縮みすぎでは……?


 直後。


 『「っ!?」』


 奥から三種類の、今まで感じたことのない濃密な魔力が俺たちを襲った。人によってはこの放たれた魔力だけで死ぬぞってくらいのものだ。魔力が濃過ぎれば濃過ぎるほど人には毒となる。


 俺は幸いその耐性がついていたから良かったが、それでも少しだけ体の魔力の流れが阻害されてしまった。これでは身体強化をしたとしても十分な効果が期待できない。


 「……ちっ」


 『ふむ、魔力が乱れたか……これも訓練だな。だが、今の乱れている方がお前にとってはいいかもな』


 「は?なんでだよ」


 『それはすぐに分かる。まぁアドバイスするとしたら……次はその、脳に身体強化をかけて戦え』


 「は?いきなりか?」


 俺はジュシュアのその言葉によって頭の中が疑問でいっぱいになった。


 

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