魔剣士が刀に出会ったら

外狹内広

第1話 魔剣士が冤罪にかけられたら

 「お、俺じゃねえ!俺はさっきこの部屋に入ったばっかなんだぞ!」


 「この部屋にはお前しかいなかった!それこそが証拠だ!」


 「だから!俺がこの部屋に入った時にはもう死んでたんだ!!」


 事の発端は、俺たちが泊まっているホテルで夜中に何か隣の部屋で物音がして、それのせいで目が覚めてしまった俺がそれを確かめるために行ったところから始まる。


 俺の名はゼン・ローラン。巷では俺の戦闘スタイルから、魔剣士ゼンと呼ばれている。魔術と剣を駆使して戦う戦士。それが魔剣士だ。そして俺は、とても光栄なことに、勇者パーティに所属している。


 勇者パーティには勇者と俺の他にも、格闘士ユリア、魔術師カレン、そして勇者と並ぶ知名度を持っている聖女アイシャ。この五人で活動している。

 そしてつい先日俺たちは人類の仇敵であった魔王を討伐し、この国、グロリア王国の王都グロリアに帰ってきた。更に昨日には凱旋パーティーを王都で行い、明日には国王から報酬をもらうはずだった。なのに……。


 「あんたしか、いないんだよ!」


 「違うっ!!俺は物音がしてからこの部屋に入ったんだ!」


 「うるさい!スラム街育ちのお前しか、やる動機はないんだよ!!」


 「ユリアっ、……テメェっ!」


 よりにもよって目の前の女───ユリアは俺がスラム街育ちだからって決めつけやがった。


 今俺たちがいるのは王都のホテルの六階。最高級クラスの部屋だ。故に警備も厳重。


 だったはずが……なんで。


 「俺の出身は関係ないだろうが!!そうやって決めつけるな!」


 「でも状況がこんなにも揃っている!明らかだろう!これ以上罪を重くするなっ!」


 「やっていないものをやっていないと言って何が悪い!何度でも言うが、俺は彼の部屋で物音がして、そこで初めて起きたんだぞ!そんな短時間でどうやって、あのを殺すんだよ!」


 「それでも彼はただの人間だ!お前はその弱点をついたのだろう!」


 「だから!俺じゃねえんだよ!ていうか、その弱点とやらを教えろよ!」


 「もういい!これ以上は無駄だからお前を連行する!」


 「っ!?」


 そう言うと、彼女は俺を捕まえようと突進をかましてきた。


 「くっそ!」

 

 俺は急いで魔術を使って壁を壊し、隣の俺の部屋に逃げ込む。


 「っ!?貴様!!」


 そして壊した壁を急いで魔術で戻してから補強する。その後俺の部屋の扉に鍵と、開かないように魔術でこれも固定する。これで少しは時間稼ぎになるだろう。


 「……どうすれば」


 きっとこの騒ぎだ。すぐに広まるだろう。そしてユリアは俺が殺したと言い張るはず。貴族である彼女の発言だ、世間的な信憑性は高い。そうなれば俺は指名手配。俺の人生はお終いだ。

 なんせ罪は勇者殺し。冤罪だと証明する方法は今のところはない。

 だとすれば、逃げるしか助かる方法が───



 「───ホーリーブラスト」



 その声を聞いた瞬間、嫌な予感がして、俺はその場から離れた。そしてすぐに俺のいる部屋の補強していたはずの入り口が大きな音を立てて壊された。そこにいたのは、聖女アイシャだった。


 「これ以上無益な殺傷をしたくありません。お願いですゼン。罪を認めてください」


 「だから、何度も言うが俺はやってないんだよ!」


 「……ああ、未だに己が罪を否定されるのですね。あなたはもう救いようがありません──故にここで浄化されなさい」


 そう言いながら、彼女は光魔術の準備を始めた。それと同時にこれも補強していた壁が壊され、ユリアが出てきた。


 「さあ、これで終わりだ」


 ここでカレンまで来てしまっては俺にもう勝ち目はない……この六階の高さから飛び降りるしかないのか……?

 チッ、せっかくスラムから抜け出せたと思ったのに、こうなるしかなかったのかよ……ふざけるな。


 「恵まれたやつなんかに、負けるわけにはいかねぇ」


 考えろ。あの薄汚い世界で生きてきた知恵を振りしぼ───っ!


 その瞬間、俺の頭に一つの可能性が生まれた。それは無謀すぎて今の俺にはできないものだったが、意表を突くとしたら現状最も効果的なやつだ。


 聖女とは言っても伯爵令嬢だし、ユリアに至っては王族の血を引く公爵家の令嬢だ。そんな温室育ちの奴らでは思いつかないもののはずだ。彼女らには真に命を賭けると言うものを知らない。


 勇者パーティでの旅の時だって何度も命を賭ける場面があったが、自力でそれを突破したことはなかった。勇者があまりにも強すぎたからだ。

 基本的に勇者が一番強い魔物を相手取り、俺がその周りの魔物を討伐していた。


 ユリアは基本アイシャたちの護衛として、カレンと共に殺し損ねて俺らの間を抜けていった魔物を討伐してもらっていた。アイシャはずっとサポート役。それでこのパーティは回っていたのだ。


 故に、おそらくだが俺が何をしようとしているのか、きっと想像もつかないだろう。使使。制御を誤って死んでしまうかもしれない。もし制御ができても少しのミスで片腕とかが吹っ飛ぶかも。こんな恐ろしいことをしようとしているんだ。きっと予想できまい。

 

 俺が考えた作戦はこうだ。と言っても、作戦と呼べるほどしっかりとしたものではないが。

 まず窓を突き破り、外に飛び出す。そして空中にある俺の体を二段魔術、飛行フライで空を飛ぶ。そしてこの日のうちにに王都を抜け出す。簡単だ。

 しかし俺にはその飛行フライと言う魔術が使えない。


 「もう、これでお終いだ。君のことは結構気に入っていたのだがな。こういうことをするとは……」


 「本当に、救いようがありません。勇者を殺してしまったあなたはここで浄化します」


 「……ああ、本当に残念だよ。人の話も碌に聞かずに勝手に決めつける、残念な頭の持ち主のお前らにはなぁ!」


 「っ!?なんだと!?貴様!」


 「………!」


 「ふん、じゃあな」


 そう言って俺は窓を突き破って、空中へと身を投げ出した。そして急いで飛行フライの魔術を組み上げる。


 「ちっ……」


 しかし構築していた魔術式はすぐに粉々に砕け、霧散してしまった。その間にも俺は真っ逆さまに落ちている。


 やはり俺には早かったか。だったら……!!


 俺は両手それぞれに別の魔術を組み立てる。右手には火属性、左手には風属性の魔術だ。


 「フレイムバースト!!」


 右手からでた炎を動力にして、水平面での移動を可能にし、


 「ウィンドバースト!!」


 左手からでた風で調節、上下左右での移動を可能にした。


 フレイムバーストもウィンドバーストもそれぞれ火属性と風属性の一級魔術バースト類のもの。だがこの魔術は一定方向に火力を集中したものでもしかしてと思ったが意外と成功できたようだ。


 更にウィンドバーストの威力を抑えたことで魔力の節約になったと共に操縦もしやすくなっている。謂わば、擬似飛行魔術だ。しかし一歩魔力操作を誤れば死んでしまうが。それは飛行フライを使っても変わらなかったと思う。


 というか、あの時無理矢理使っていたら、両腕破裂に加えて全く発動せず、落ちて死んでしまうという最悪の結果になっていただろう。


 「なっ……!?」


 「そ、空を飛んで……!?」


 バランスが悪くフラフラとしてしまう。これで立派に空を飛んでいるなんて口が裂けても言えない上に、そろそろキツイので早めに地面に降りたいが……最悪屋根にでも降りるとしよう。


 荷物は金と剣だけ持ってきた。それ以外ほとんど荷物なんてあってないようなものだったんだ。冒険者ギルドにあった貯金も昨日全て下ろしたばっかだった。理由は忘れた。多分酒だろう。今はそのお陰で当分困らない。


 そして空を移動すること10分くらい。俺の中にある魔力がかなり減ってきた。丁度残り2割と言ったところだろうか。ここからは地面に降り立って走ることにする。


 「身体強化!」


 魔術で足を強化する。こうすれば足が早くなる。これなら王都の城壁でも飛び越えることだってできるだろう。

 

 そうしてしばらく走っていると、遂に城壁が見えてきた。


 「うおおおおおおおお!!!!!」


 そして、兵士どもが飛んでいる俺を見上げている中、夜明けと共に俺は城壁を飛び越え、王都から逃げることができた。


 目指す場所は……やっべ。どこにしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る